月間20億人以上が世界で利用するソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)の「Facebook」。この世界有数のSNSプラットフォームの日本代表として、フェイスブック ジャパンの代表取締役を務める長谷川晋氏。世界中で多くの人が利用するFacebookとInstagramは、いまやマーケティングにも大きな影響を与える存在となった。ここでは、TREND EXPO TOKYO 2017での講演前に、その2つの共通点や違い、ビジネス利用のための秘訣を聞いた。

――世界中にさまざまなSNSが存在するなか、「Facebook」はどのような位置づけでしょうか。

長谷川晋氏(以下、長谷川): Facebookには企業理念に近い考え方として「ミッション」があります。これまでは人々が情報を発信することや人と人がつながることをサポートし、「世界をよりオープンでつながったものにする」ことをミッションとしてきました。今年(2017年)の6月に、会長兼CEOのマーク・ザッカーバーグが、今後10年間における新しいミッションを発表しました。それが「コミュニティーづくりを応援し、人と人がより身近になる世界を実現する」というものです。人と人をつなげるだけでなく、人と人のつながりであるコミュニティーを応援することで、人と人の距離をさらに縮めて、世界を少しでも前に、そしてより良い方向に進めていきたいと考えています。

フェイスブック ジャパン代表取締役の長谷川晋氏。京都大学経済学部を卒業後、消費財メーカーのプロクター・アンド・ギャンブル、楽天などを経て現職
フェイスブック ジャパン代表取締役の長谷川晋氏。京都大学経済学部を卒業後、消費財メーカーのプロクター・アンド・ギャンブル、楽天などを経て現職

――新しいミッションを実現するうえで、日本ではどういった取り組みを進めているのでしょうか。

長谷川: まずは、ユーザー向けの取り組みです。FacebookやInstagramを使って、いままで以上に情報発信やコミュニティー構築を実現しやすくする、ということがあります。さらに、日本独自のモバイル文化が持つ長所やメリットを掘り起こし、それをグローバルに展開することで世界中のユーザーを応援することもできます。例えば、2016年に導入した「いいね!」以外の感情表現もできる「リアクション」は、日本の絵文字からインスピレーションを受けた機能です。日本のユーザーだけでなく、世界中のユーザーを応援するうえでも、日本は重要なマーケットであると考えています。

マーケティング環境はモバイルへシフト

――ビジネス面ではどうでしょうか。

長谷川: 世界的に言えることですが、市場やマーケティングの環境は近年大きく変化しており、そのやり方は完全に「モバイルシフト」しています。しかし、その変化に対して、すべての企業が対応できているわけではありません。そのような背景にあって、弊社としては規模の大小にかかわらず多くの企業にFacebookやInstagramを活用していただき、ビジネスの成長をサポートできるパートナーになれればと考えています。

――FacebookやInstagramの存在は知っていても、ビジネスにどう生かせるのかが分からない人も多いでしょう。FacebookとInstagramの共通点や相違点はどこにあるのでしょう。

長谷川: どちらも、冒頭で紹介したミッションに基づいて運営しているため、人と人をつないでコミュニティーづくりをサポートするプラットフォームである点は共通しています。さらに、自分の周りや世界で何が起きているのか、ユーザーが新しい情報や発見を求めるプラットフォームである点も同じでしょう。また、人々の生活がスマートフォン中心になってきており、モバイルファーストを重視する点も同じです。

 違いは、構築できるコミュニティーの性質です。Facebookは実名制なので、家族や友達、知人とのつながりの延長線上でコミュニティーが形成されます。そのため、自分と共通のアイデンティティや趣味を持った人の集まり(=コミュニティー)を広げることが可能です。一方Instagramは、写真や動画などビジュアルで様々な体験を共有するプラットフォームといえます。興味や関心をベースにコミュニティーが形成されるため、相手を実際知っているかどうかはあまり関係なく、家族や友達以外とも気軽にコミュニケーションを取る点が特徴です。つまり、コミュニティーを支えているバックボーンが全く違うのです。

文字情報と画像を組み合わせてコミュニケーションするFacebookの画面(左)と、主に画像や動画の情報だけで意図を伝えるInstagramの画面(右)。長谷川社長のアカウントを利用して、画面をキャプチャーした

――それら共通点や相違点によって、ビジネス利用はどう変わってくるのでしょうか。

長谷川: マーケティングやブランディングでそれぞれに広告を出す場合、「幅広い利用者へのリーチ」「ターゲティング精度の高さ」「運用や効果測定のしやすさ」などの利点は、どちらも共通しています。

 異なるのは、広告のフォーマットです。商品の詳細を動画や写真で見せながらスムーズに買い物へと誘導できるのはFacebookの「コレクション広告」、没入感の高いフルスクリーンで親近感のある広告を配信するならInstagramの「Stories広告」となります。

――実際の利用イメージはどういった感じになるのでしょうか。

長谷川: 例えば、日本での月間アクティブユーザー数はFacebookが約2800万人、Instagramが約1600万人となりますが、Instagramの中でも利用者が急伸している「Stories」を活用したいのであれば、Instagramだけでキャンペーンを展開するやり方もあるでしょう。またシステム面では、ワンクリックで簡単に両方のプラットフォームに広告を出せる仕組みを備えており、もっとも効果の高いベストな比率をシステムが自動で判断する機能も搭載しています。

コミュニケーションの中心は写真から動画へ

――海外でのマーケティングにも利用できるのでしょうか。

長谷川: 可能です。Facebook やInstagramはワールドワイドなプラットフォームですから、日本にいながら世界各国のマーケティングに利用できます。各地域のデータに基づいて、実際にリーチできる人数などを、パソコンやスマートフォンの画面で簡単に確認できる機能を提供しています。例えば、国や地域、趣味・趣向、予算などを設定すれば、それに応じてリーチできる人数が素早くチェックできます。

Facebookが顧客向けに提供しているリサーチ機能の画面。地域や属性を指定して、リーチ可能な人数やリンクのクリック数などを推定できる
Facebookが顧客向けに提供しているリサーチ機能の画面。地域や属性を指定して、リーチ可能な人数やリンクのクリック数などを推定できる

――海外展開で成功している実例は?

長谷川: 例えば、フリマアプリで知られる「メルカリ」は、日本と米国のキャンペーンをフェイスブック ジャパンと共同で進めています。米国を含め、すべてのマーケティングを日本から実施できるため全体のコストパフォーマンスが向上し、広告単価を10%以上下げることができました。

――技術革新が進むなかで、FacebookやInstagramを利用するにあたって気を付けるべき点は何でしょうか。

長谷川: マーケティングで利用するのであれば、「プラットフォームの特性を理解すること」「ユーザーのトレンドをとらえること」「旬のものを取り上げること」の3つが大事です。とくにユーザーのトレンドについては、2つの大きな変化が起きていると感じています。ひとつは、冒頭でも紹介した「モバイルシフト」、そしてもうひとつがコミュニケーションのベースとなる「コンテンツの変化」です。

――コンテンツの変化とは具体的にどういうことでしょうか。

長谷川: 時代をさかのぼると、モバイル機器における人々のコミュニケーションは、「音声通話」→「テキスト」→「写真」と変化してきました。現在、Instagramのユーザーが飛躍的に増えているのは、人々のコミュニケーション手段がテキストから写真に移り変わったから。Instagramは、そのトレンドに乗ったのだと感じています。そして今、まさに起きつつあるのが「写真」→「動画」という変化。Facebook では世界で1日に動画が80億回再生されており、「コミュニケーションの中心が動画になりつつある」と実感しています。マーケティングをやるうえで、このトレンドは絶対に押さえておくべきでしょう。

――動画でマーケティングをする際に、注意すべきことなどはありますか。

長谷川: 動画の視聴方法もモバイルシフトしています。そのため、ユーザーが動画を見てくれる時間はそれほど長くありません。「最後のオチ」よりも「冒頭のつかみ」が重要で、最初の3秒でユーザーの心をつかめるかがポイントになります。動画全体の長さも15秒以内が好ましいと思います。

――15秒では、詳しい情報提供は難しいですね。

長谷川: 「長めの動画でもっと詳しく知りたい」と思うユーザーがいるのも事実です。そのため、マーケティングにおいては全体の約7割をユーザーの興味をひく短い動画に、約2割をやや長めの動画に設定し、残りの約1割は非常に興味を持ったユーザー向けに見ごたえのある長尺動画を用意するとバランスが良いでしょう。TREND EXPO TOKYO 2017では、より多くの成功事例の詳細も紹介するほか、今後のトレンドやその活用法などもお話しできればと考えています。

フェイスブック ジャパンのオフィスにて。TREND EXPO TOKYO 2017では、海外進出事例、地方創生事例など、企業の実例を中心に講演を予定している(11月2日15時40分から)
フェイスブック ジャパンのオフィスにて。TREND EXPO TOKYO 2017では、海外進出事例、地方創生事例など、企業の実例を中心に講演を予定している(11月2日15時40分から)

(構成/近藤 寿成=スプール、写真=小林 伸)

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