東急ハンズといえば、“都市型ホームセンター”として渋谷や新宿など海外も含めて40店舗以上を展開する大手流通チェーン。その魅力は、クラフト向けの材料から日用雑貨や文房具、パーティグッズまで取り扱う幅広い品ぞろえだ。同社で新商品開発を担当する泉徳之氏に、「TREND EXPO 2017」の登壇を前に、最近の消費者心理やネット通販と店舗販売の違いなどについて聞いた。

泉 徳之氏 東急ハンズ 新商品開発グループ バイヤー。メーカー、問屋を経て東急ハンズに入社。渋谷、新宿、池袋、町田、横浜基幹店のバラエティー、イベントなどのフロアマネージャーを経て、営業管理・企画、イベント企画、仕入部門を担当。2013年から現状の商品体系に捉われない商材を、ハンズ独自目線で日本全国のみならず海外も含め発掘導入を全店で行う。多業態とのコラボや店頭イベントの企画も大型店を中心に担当。
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――泉さんのお仕事を具体的に教えてください。

泉 徳之氏(以下、泉): 入社当初はバラエティー関連の商材などを担当していました。今は全国各店の大きな売り場の企画や、その店舗で取り組んでいない分野の売り場をつくったりしています。地域ごとのニーズを探るのは店舗のバイヤーの担当ですが、それ以外の規模の大きなものや新規の商品などは私の担当です。

 もちろん、新商品開発グループとして今まで東急ハンズで取り扱いがなかった新商品の掘り起こしも行っています。例えば、町工場が技術伝承のために作った製品とか、バネの製作所が地域の学校の教材用に作った製品とか、普通の販路には乗らないような商品を見つけてきたりもしていますね。

 ハンズには、元から社員が自分たちの好きなものを見つけてきて売り場として提案するという文化があります。それがハンズの独自性と売り場としての面白さにつながっていると思います。

――最近の消費者はどんな傾向にありますか?

泉: ここ何年かで、一品モノのクラフト商品の人気が高くなるなど“オンリーワンの風が吹いている”と思います。「あの人も持っているから欲しい」という右へならえの考え方は、無くなりつつありますね。

 同時にものを買うだけではなく、作った人とコミュニケーションしたいという傾向も顕著です。その傾向は、クラフト作家が集まる即売イベントに入場料を払ってでも行くという人が増えている点からも明らかでしょう。作家と交流することである程度値段が高くても納得して買うというケースが多いようです。

 クラフトに使う材料も珍しいものが人気になったりします。ハンズでもイノシシなどジビエの革を販売したことがありますが、クラフト作家さんで購入したいという人が多かったですね。ただ、ジビエの革となると、流通量が限られているので、なかなか手に入りにくく売りにくいという側面はあります。

――他人との差別化願望が高まっているのでしょうか。

泉: そうですね。クラフト以外でも、職人が月に1個しか作れない30万円以上するヤカンがありますが、製品としての良さはもちろんありますが、「月に1個しか作れない」と聞くとやはり一品モノとして評価が上がり、何年待ちというケースもあるようです。

 自分の足に合ったオリジナルの革靴が売れているのもオンリーワンのトレンドかもしれません。1度作ると他の靴にはもう変えられないと評判です。価格は8万円ぐらいするそうですが、10年は保って、壊れてもずっと直してくれるという理由で売れているそうです。

――差別化願望が強くなっている理由はなんでしょうか。

泉: SNSなどに投稿するというのが理由の一つではないでしょうか。女性は消耗品や実用品はできるだけ安く100均などで済ませることが多いですが、ある程度価格の高いものは、InstagramなどSNSに投稿したときに見栄えのする商品を求めています。

 昔はキッチン用の整理雑貨がよく売れましたが、今は整理するキッチンではなく“見せるキッチン”になりつつあるので、キッチンに並べたときに写真映えがする商品が売れたりします。

値段が高い大人向けのワークショップが人気

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――ネット通販が発達し、頼んだものがその日に届くという時代です。このような時代にリアル店舗への来店価値をどのように考えていますか?

泉: ハンズの強みであり、成長してきた要因は顧客に対してソリューション提案をできることです。実際に店頭で顧客と話をすると、目的のものを買う以外にそれに付随したことで困っているケースが多いです。

 例えば、ネジ売場でのことですが、お客さんと話をしてみると、実はネジだけでなく、ネジが緩まないようにするためのワッシャーも探していることが分かりました。しかも、今は革をワッシャーに使っているけれどカビの問題があるので、代替する何かが欲しいと売場で困っていたのです。

 このような場合、ネット通販では結局ネジしか買いません。でも店頭で相談してくれれば解決し、ネジだけではなくワッシャーも売れます。ハンズには、長年の販売経験から顧客の要望にうまく答えられる店員がたくさんいます。例えば、用途によって発泡スチロールの堅さや密度を的確に提案できる人も居ますよ(笑)。

 またネットでは目的のものが上手く探せないというお客様もいます。昔と比べて年齢層の違いでネットの使い方に大きな開きがあります。適切な検索語が思いつかないという方もいるのです。

――訪日観光客が年間2000万人を超えました。インバウンドの需要はどうでしょうか?

泉: インバウンドの売り上げは店舗によってまるで違います。一番多いのは新宿ですね。次いで池袋と大阪・心斎橋です。来日観光客の宿泊場所の近くにある店舗の売り上げが大きいということだと思います。ちなみに宿泊場所ですが、初めて来日する人は観光ができて何でもそろう池袋を選ぶことが多いようです。ただ、最近は来日に慣れた人が増えていて、東京の下町を宿泊場所に選ぶ方も増えています。

 渋谷は、スクランブル交差点が観光地として人気はありますが、実は来日外国人にとっては宿泊場所でも買い物をする場所でもありません。日本人では渋谷にあまり行かないという人がある年代に一定数います。これは、一時期「渋谷に行ってはいけません」という校則を作った学校があったことが理由のようで、若い世代で渋谷にあまり行かない、土地勘がないという人が増えています。

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――店舗の立地で売れるものや客層に違いがあるということでしょうか?

泉: お盆の時期が分かりやすいです。さすがに東京は観光地なので、夏休みを使って上京した人で新宿店は賑わいます。一方で横浜店はさほど忙しくありません。ところが町田店ぐらい郊外になると混み合います。町田出身の方が帰省したり、町田の人が地元で用を済ませようとするからです。

 また、子供の多い郊外では親子や子供向けのワークショップが人気があったのですが、最近は大人向けのワークショップも需要があります。これも高齢化社会の時代なんだと思いますが、介護をされている方が昼間、介護対象がケアハウスに行っている時間帯を有効に使いたいと話していたのにはビックリしました。

 もう一つ時代が変わったと思うことがあります。昔は「手ごろな値段でそれなりのものができればいい」という方が多かったのですが、今は「値段が高くてもしっかりとしたものを作って、作ったものを売りたい」という人が増えていることです。今は安いワークショップだと「大した物が作れない」と思われてしまうようですね。

(文・写真/シバタススム)

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