マツコロイドや桂米朝アンドロイドなど、ユニークな人間酷似型ロボット(アンドロイド)を多数世に送り出してきた大阪大学の石黒浩教授。「TREND EXPO 2017」に登壇する石黒氏に、ロボットとの対話が人間の感情に与える影響などについて聞いた。

石黒浩氏
1991年大阪大学基礎工学研究科博士課程修了。京都大学情報学研究科助教授などを経て、2009年より大阪大学基礎工学研究科教授。ATR石黒浩特別研究所客員所長。自身の外見に酷似したジェミノイドHI-4を開発するなど、人とロボットのインタラクションについて研究を続けている。2011年に大阪文化賞、2015年に文部科学大臣表彰を受賞(写真提供/大阪大学)
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―― ロボット分野の研究を始めたきっかけを教えてください。

石黒浩教授(以下、石黒): 小学生の頃に「人の気持ちを考えなさい」と大人に言われたのがきっかけです。ただ、小さい頃は絵描きになりたいと思っていました。その後、大学生の頃にコンピューターや人工知能(AI)の研究を始め、子供の頃からの疑問だった「人の気持ち」、自分や他人の「心」や「知能」に興味を持つようになりました。こうした点をロボットと人間の対話などを通じた相互作用から研究するためにさまざまなロボットを作っています。

―― 最近では企業との実証実験も数多く実施しています。例えば、ゼンショーホールディングスとの共同研究では、レストラン「ココス」で客とロボットがタッチパネルを介して対話するという実証実験を行いました。

石黒: とても反応が良かったですね。滞在時間や客単価の増加が見られました。最近の家族は、食事に来てもみんな個別にスマートフォンばかり見ていて、家族の会話というのが少ないようです。しかし、ロボットがいるだけでどの家族も会話が弾んでいました。家族の対話が取り戻せた点は興味深いです。さらに、子どもとロボットが対話している間に大人がゆっくり食事をできるという利点もあったようです。

レストラン「ココス」での実証実験のデモ。タッチパネルを介してロボットが接客する(写真提供/ゼンショーホールディングス)
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―― 今年の「SXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)」では、人間と議論をするロボットを展示しましたが、どのような意図があったのでしょうか?

石黒: ベースの技術は、人間がテキストで入力した問いをコンピューターが返す「チャットボット」と、音声認識を組み合わせたものです。しかし、相手が人間の形を持っていれば、リアルな話し相手になり得るというデモです。ロボット2体と人間が1人という構成にし、ある程度話題を限定することでリアルな議論ができました。実際に対話した人間は現地の参加者から無作為に選んでいますので、どんな人間でも議論ができるという結果が出ています。現地のデモは英語でしたが、日本語版もあります。

SXSWでのロボットと人間の会話の様子。右下が人間で、中央と左下がロボット。人間の多くが緊張した様子で会話している点が興味深かった
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―― 選択肢を限定したタッチパネルによる会話は、人間同士の相互作用もある程度コントロールできることを明らかにするために、「ニコニコ超会議2017」で「石黒研究室の恋愛実験神社」というブースを出展していました。見ず知らずの男女がタッチパネルであらかじめ決められたシナリオで対話を進めると仲良くなれる、という内容だったと思いますが、成果はいかがでしたか?

石黒: 自由に会話するより選択式のタッチパネルによるトークのほうが、普段言わない恥ずかしいことも伝えられるので、仲良くなれるのではないだろうかという実験です。会期中に約200組がこのブースを体験したことによって仲良くなりたいという感情が芽生えたという結果が出ました。成功率は約80パーセントです。そして、200組の半分は、連絡先などを交換していたようです。成功率は(選択肢の内容や順番を決めた)シナリオ次第ですが、この80パーセントという数字は非常に高い成功率です。

「ニコニコ超会議2017」に出展された「石黒研究室の恋愛実験神社」。シナリオに従ってタッチパネルで選択肢を選んでいくだけで男女が仲良くなれるのではないかという実証実験
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―― 今後、人間とロボットの関係はどうなっていくでしょうか? 特にビジネス面でのロボットの活用はどのようになると考えていますか?

石黒教授の研究室が開発した音声認識が可能な人間酷似型ロボット「アンドロイドル『U』」
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石黒: サービス業の多くはあらかじめ用意された接客マニュアルがあるので、一つひとつ丁寧に場合分けしてマニュアルをデータベース化できれば、ロボットでも人間と同じように接客の仕事ができると思います。そもそもマニュアルがないとチェーン店などは作れませんからね。私の研究室の小川特任講師が行った大阪 高島屋での実証実験では、衣服を販売するアンドロイド「ミナミ」が人間より高いセールス成果を上げた例もあります。

 さらに、中高生の勉強を見たり、悩みに答えるという家庭教師のような仕事は、ロボットに向いているかもしれません。思春期の子どもは大人に反感を持ったりするので、ロボットに対してのほうが素直に心を開いてくれる可能性が高いです。

―― 人間と対話するロボットの実用化はいつになりますか?

石黒: 使用するシーンを限定した対話ロボットであれば、既に技術的なハードルはありません。あとはコストの問題ですね。技術的に可能でも一般の人が買いたいという価格にならないと普及しませんから、具体的にいつになるかは今後の業界の展開次第というところです。

―― 「鉄腕アトム」のようなロボットは登場するのでしょうか?

石黒: 人間の「心」や「知能」というものはまだ完全に解明されていませんので、人間のように心を持ち自律的に対話する万能ロボットというのはまだ先になると思います。(万能ロボットは)さまざまな経験からデータを集め、それを学習させることで実現できると言われていますが、人間並になるには天文学的な膨大なデータ量と時間が必要です。しかも、人間は「鉄腕アトム」のような万能ロボットの登場を望みつつも、「ロボットに仕事を奪われる」と警戒する人もいますから、登場までにはまだいろいろあるかもしれません。

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(写真・構成/シバタススム)

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