「拡散」を狙わず、読み手が共感するコンテンツを用意

 興味深いのが、idontknow.tokyo自体はSNSのアカウントを持っておらず、ソーシャルでの拡散は決して積極的には行っていないこと。その代わりに、自分たち自身しか知り得ない、制作秘話を丁寧に作ったという。

 こうしたデータから導かれるインサイトとして、idontknow.tokyoのメンバーの方々に意見を伺ったところ、以下のようなコメントを得た。

  • 世の中にはさまざまな趣味嗜好のコミュニティーが点在しているが、自分たちが届くコミュニティーの範囲には限界がある。

  • 一方で、自分たちと関わりのないコミュニティーの人たちに商品の意図するメッセージが届いたときのインパクトは大きい。今回のケースでは、マンガなどのイラストを描くプロのイラストレーターの人たちが作るコミュニティーにうまくプロダクトがささったことで一気に拡散した。

  • 拡散のきっかけになったツイートも商品購入するためのページではなく制作秘話をつづったコンテンツページへの誘導だったことも、ツイートそのもののリアリティーを高めたのかもしれない。

  • 「受け皿」となる読み応えのあるコンテンツがあらかじめきちんと用意されており、それが読物としてきちんと面白かったからこそ、「それを紹介したい」という思いも含めてコンテンツの読み手がさらに拡散していく、ということが起こったのではないか。

  • 結果として起こったのは、力を持つ誰か1人のインフルエンサーの拡散ではなく、個別のユーザーの興味に刺さる形での民主的、ボトムアップ的な拡散だった。

  • 今回の教訓をマーケティングに生かすなら、「拡散」を狙うのではなく、読み手が共感するコンテンツを受け皿として用意し、そのストーリーをシェアしやすい形にしておくことで、結果としてそのストーリーが拡散されるという本質を理解して実践できるかどうか。

 idontknow.tokyoとはそもそも、「僕たちは本当はまだ何も知らない」ということをテーマにしている。自分たちが知っていると思っていることも、知らないと思って、ゼロから作り上げることを大切にする。そして、自分たちが本当に欲しいものであれば、自分たちに似た人がきっと欲しがってくれるはずと信じている。

 自社サイトへの流入をいかに戦略的にやるかということがよく議論されるが、今回の経験を経て彼らが感じたのは、商品を好きになってくれたユーザーがそれぞれのやり方でリンクを貼ってもらえればよく、自分たちとしてはあまりマーケティングや拡散戦略とかを意識せず、とにかく良い製品を作り、良い記事を書く。それだけに専念すれば良いという確信にも近い思いだった。

 当然、誰にでも簡単に真似できる戦略ではないものの、そこにはともすると目先のテクニックに走りがちな世の中のマーケターにとって、今一度自分たちが目指す先を考えさせられる一つの「小さくて大きな事件」だったのではないかと感じるのである。

 このHINGEに続く第2弾プロダクトとして、単純でどの年代の人たちにも楽しんでもらえるテーブルトップゲーム「CUBOID」も発表済み。今後もジャンルにはこだわらず、メンバーが本当に「欲しい」と思ったものを丁寧に形にしていきたいと話す。

テーブルトップゲーム「CUBOID」は8月5日に東京の中目黒蔦屋書店で第1回世界大会を開催
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松崎 良太
Kibidango松崎良太 慶應義塾大学経済学部卒業。コーネル大学経営学修士(MBA)。日本興業銀行(現みずほフィナンシャルグループ)で投資銀行業務に携わった後、2000年に楽天に入社。自らが手掛けた米国リンクシェア社買収を機にボストンに拠点を移し、Rakuten USAに2009年まで3年間勤務。楽天ではグループの国内外のM&A案件を多数手掛ける。2011年に独立し、サードギアを設立。次世代を創るベンチャー企業の育成に務めながら、多くのエンジェル投資を自ら行う。2013年2月にゴールフラッグを設立し(後に社名を「きびだんご」に変更)、同社代表取締役Chief Momotaro就任。翌月にクラウドファンディングとECを組み合わせた「プロジェクトコマース」を提供する「Kibidango(きびだんご)」をスタートした。