絨毯の上で繰り広げられる食卓

 ここでイラン人の食生活を見てみよう。首都のテヘランで暮らす人々の生活は、東京で暮らす人々とリズムが似ており、1日の多くの時間を仕事や通勤に使っている。朝学校や会社が始まるのが大体7時からのところが多く、家族は朝5時には起床する。

 そのため、家族がそろう朝ごはんと夜ご飯は貴重な時間だ。どんなに慌ただしくても必ずみんながそろって食事をするのが基本だ。

 イラン人の朝ごはんは大体どの家庭もパンで、はちみつ、クリームチーズ、ウォールナッツ、きゅうりやトマト、ゆで卵などと一緒に食べる。ちなみに、イランではきゅうりは果物類に入るため、りんごやオレンジと一緒にフルーツバスケットの中に入っている。

きゅうりがフルーツのイランでは、常時バスケットの中に入っている
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 1日の食事でメインとなるのは昼食だが、家族はそれぞれ会社や学校で過ごすため、お弁当を持って出かける。しかし、木曜、金曜の週末となると、家族や親戚、友人が集まって、だだっ広いリビングに敷かれたペルシャ絨毯の上で食事をするのが定番だ。

男女に分かれて絨毯の上で食事をする。イランでは、スプーンとフォークで食事をし、ナイフは使わない
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 昼食は大抵どの家も15時以降に始まる。お米を主食に、羊肉や鶏肉を使った煮込み料理、ケバブなどのおかずが用意される。イラン人は酸っぱい食べ物が大好きで、付け合わせや材料にレモンの実やヨーグルト、ベリー、ざくろ、サワーオレンジなどが食材に使われたり、添えられたりしている。私はもともとラム肉やトナカイ肉などの臭みの強い肉が好きなので、イラン料理はとても口に合い、非常に美味しく感じる。料理によっては味わったことのないスパイスや油の多さに慣れないものもあったが、毎日食べ続けていると抵抗がなくなった。

 絨毯の上で食べるときに欠かせないのが、人とのコミュニケーションである。食べたいものが遠くにあれば、誰かが空気を読んでその人が欲しいと言う前にとってあげるのが礼儀だ。イランには、日本を超えるのではないかと思うほどの遠慮や社交辞令、通称“タローフ”という習慣が存在する。食事の際も、遠慮と気遣いのオンパレードだ。私はどちらかというと、はっきり物を言うタイプであるが、「結構です」と言うと、それが遠慮していると思われて、気づけば大量の食べ物がお皿の上に乗ることになり、それを残せば、さらに遠慮をしていると思われ、別の食べ物を差し出されることもある。

 夕食が始まる数時間前の19時頃、なんとデザートとお茶タイムが始まる。こんな時間に甘いものを食べるとほとんど夕食が食べられない!と思うが、メインの夕食は早い時で22時頃、通常23時頃から始まるので、結局食べてしまう。夕食はサラダやハム、パンなどの軽めの物が中心だ。

 また、冷蔵庫の中の常備品の一つとして、ローズウォーターや植物の蒸留水がある。これらの用途はさまざまだが、主に体調の悪いときや疲れたときに体の不調を整える薬として使われている。ちなみに私は滞在中、ローズウォーターを化粧水や、マウスウォッシュなどにも使用していた。

スーパーに陳列されているさまざまな薬草、花の蒸留水。体調が悪いときなどに飲む
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 イスラム教では左手は不浄の手とされていると聞いたことがある人もいるだろう。では実際に食事のときなどに左手を使わないのか。全くもってそんなことはない。イランにも左利きの人は多く、食事のときは主に左手しか使わない。私も食事のときは左利きのため、滞在し始めの頃、「左手を使ってもいいんですか?」と聞いたことがあった。「もちろん、片手じゃ食べづらいからね」とまさにその通りの答えが返ってきた。昔は左手を使うとよくないと言われていたようだが、今となってはずいぶん古い話のようだ。

数多くの品ぞろえがある市場ことバザール
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ERIKO
モデル・定住旅行家
ERIKO 東京コレクションでモデルデビュー。英国、米国、イタリア、アルゼンチン、ロシア、インドで語学習得のための長期滞在をきっかけに、様々な土地に生きる人達の生き方や生活を体感することに興味を抱く。スペイン語留学で訪れたアルゼンチンでの生活をきっかけに、ラテンの地と日本の架け橋になるという目的を持って、2012年から1年4カ月をかけて中南米・カリブ25カ国を旅した。これまで訪問した国は40カ国、約70家庭に滞在。モデルと並行し、「定住旅行家」として、世界の様々な地域で、現地の人びとの生活に入り、その暮らしや生き方を伝えている。
WEB:http://chikyunokurashi.com