2015年、キューバと米国の国交が復活した頃、「そろそろキューバも変わるかもしれない」、「あのノスタルジックな風景がなくなってしまうかもしれない」と、世界中の人々がキューバに足を向け始めた。今年は、観光客が500万人を超えるとも言われている。その中でも日本人の渡航者数は急速に伸びており、旅行会社H.I.S.の調査によると、2016年~2017年の年末年始の渡航者率は前年と比べて、712%にもなっている。

 日本人観光客の多くは、キューバの歴史や社会システムに興味があるというより、インスタ映えする街やビーチを楽しむといった理由が多いようだ。私はこれまで2013年、2016年に現地の家族と生活を共にし、その文化や生き方を伝える、“定住旅行”を行なった。そして、今年の2月に再びキューバに滞在した。そこで目にしたのは、自国に向けられるキューバ人の意識の変化に伴って増加する民間事業だ。

何十年も変わらない首都ハバナの街並み
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 1961年から米国との国交を断絶し、長年社会主義を貫いてきたキューバ。フィデル・カストロの弟である、ラウル・カストロ氏は2008年の就任以降、「経済・社会政策指針」を提示し、一部経済の自由化を取り入れ、海外からの投資を誘致したり、自営業の規制を緩和したりした。2009年にオバマ氏が大統領に就任すると、更に制裁緩和が進んだ。米国からの渡航の許可(観光は不可)、貿易・個人送金の制限の撤廃、クルーズ船の寄港や民間航空便の就航、ネット制限の解除や政府間の対話などである。

 私が2016年に訪れたときは、ちょうどオバマ大統領がキューバを訪れた直後で、マリエル経済特区やGoogleステーションなどを訪問し、キューバ人が携帯やパソコンを手にインターネットでチャットをしている光景がとても新鮮に映ったことを覚えている。しかしその後、トランプ氏が大統領に就任し、「キューバ新政策」を発表。観光での渡航が制限されたりしている。その影響で現在は、ビジネス展開にブレーキがかかり、昨年100万人以上だった米国からの渡航者も激減するとみられている。

 自営業の規制が緩和されてから、カサ・パルティクラル(民泊)やタクシー事業などの自営業の許可申請が以前より簡単になり、それらを始める人が増加している。キューバ人が進んで自営業に踏み切る理由の一つは、国から定められた給料以外のお金を手に入れられる可能性が大きいことだ。本来なら適切に納税を申告して、他の人と同等の収入を得なければならないが、収入を上手くごまかして自分の懐へ入れられれば、給料以上のお金を得られる。

キューバでは、CUC(左)と言われる外国人用の通貨と、キューバ人が使用するキューバペソ(右)が使用されている
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 社会主義のキューバでは、みんなが平等に、競い合うことなく豊かに暮らすという理想を掲げている。食料配給制度や無償の教育、医療制度もそれを実現させるための一環だ。では、それらの充実した社会保障があるのに、なぜキューバ人には給料以外のお金が必要なのか。ぜいたくをするためなのか。

現地の言葉で“ボッデガ”と呼ばれる食料配給所。ここで食料を無料で受け取る
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 実際、キューバで暮らしているとお金が必要な場面に多々遭遇する。その一つが生活の源である食料。配給される食料や量は決まっており、それ以外は自分たちで調達しなければならない。例えば、鶏肉は稀にしか配給されないし、ミルク(粉)に関しては子どもがいる家庭でなければもらえない。女性の生理用品なども配給では足りず、購入する必要がある場合がほとんだ。

 私の滞在先の家族の従姉妹が先日、大腸ガンの手術をした。もちろん、手術費や入院費は無料である。しかし、彼女はストーマ(人工肛門)になったため、装具が必要となるが、これは患者自身が購入しなければならない。しかし、町中を探してもそれを売っているお店がないのだ。現在は家族の親戚が住むスペインで装具を購入してもらい、それを輸送してもらうことを頼りにしている。

 また、子どもの教育にかかる費用もある。国から支給される制服は1セットしかないため、着替えのためのシャツなどは手に入れなければならないし、授業で使う教科書以外のアメニティーは購入しなければならない。それらは割高で買えない家庭も多く、親が図画工作をして作成したりもしている。子どもにかかる費用を考えて、子ども持たない家庭も増えているほどだ。