衆議院議員の石破茂氏の出身地でもある、鳥取県南部の山間に位置する、八頭郡八頭町。去年には、廃校になった学校を改造して、「隼Lab.」(はやぶさラボ)という地方創生の拠点施設が作られ、シェアーオフィスや起業支援などを活発に行なっている。様々な新しい取り組みで盛り上がりを見せる八頭町で、ひときわ多くの人が訪れているのが、「大江の郷自然牧場」だ。1994年にオープンしたこの施設では、平飼いの養鶏を行い、卵を中心にお菓子などへの商品製造やレストランカフェを展開している。人口たった108人の集落に、毎日平均して約1000人が訪れる場所があるという。

大江の郷自然牧場の牧場風景
[画像のクリックで拡大表示]

パンケーキと卵を求めて行列ができる

 大江の郷自然牧場までは、鳥取市内から車で30分、電車であれば、鳥取駅よりJR因美線(大原または智頭行き)に乗車し、郡家駅で下車、そこから「さんさんバス」(大江行き)で15分という、お世辞にもアクセスがいいとは言えない立地条件だ。周囲は山に囲まれた人里離れたこの場所に、現代的でオシャレな建物が突如現れる大江の郷自然牧場。牧場と言えど、芝生の上をウロウロしている家畜は見当たらない。その代わりに近代的なカフェと、マルシェをイメージしたショッピング&レストランの2棟の施設が並んでいる。

日本一に輝いたご当地バーガーや、パン、スイーツなどが販売されている
[画像のクリックで拡大表示]

 来場者のお目当ての商品は、ベーキングパウダーを使わず、卵白の力だけで膨らませて作られる、ふわっふわのパンケーキ。そして、低コレステロール、栄養価満点の天美卵(てんびらん)と呼ばれる卵である。パンケーキの調理は注文してから行うので、最低でも30分、平均2時間待ちはざらだという。お客様に話を聞いてみると、大阪などの県外からも足を運んでいる人が多かった。パンケーキを待っている間は、整理券が配られ、ヨーロッパのマルシェをイメージした施設で買い物をしたりできる。地元で採れた野菜を使ったビュッフェや、日本一に輝いたご当地バーガー、うどんなどの食事も楽しめる。

一番人気のパンケーキ。ふわふわしっとりで女性が虜に
[画像のクリックで拡大表示]
メイン商品の一つでもある、天美卵。一般の卵よりコレステロール値も低く、栄養価が高い
[画像のクリックで拡大表示]

 人気の秘密を探るべく、大江の郷自然牧場を経営する、ひよこカンパニー取締役の小原良庸さんにお話を伺った。

Q:この事業を始めたきっかけは?

A: もともと、実家が養鶏をしていたのですが、創業者の兄の修業先での出来事がきっかけです。そこは大規模な最新式の養鶏施設だったため、効率を追求し一つのかごに6羽が押し込まれた状態で飼育されていました。そのためストレスでお互いをつつきあい、まるで鶏が卵を産む機械のような飼育方法と感じていたと聞きました。

 そんなときに、ケージから脱走した鶏がいたようです。狭いケージに押し込まれ、卵を産む道具のように扱われてきた鶏が、ケージの外で自由に動き回り、うれしそうに地面をつつく姿をみて、これこそ本来の鶏の姿だと思い、いつの日か、放し飼い飼育の養鶏を始めようという夢を描いたようです。

有限会社ひよこカンパニー取締役小原良庸さん
[画像のクリックで拡大表示]

Q:事業の一番の目的はなんでしょうか?

A: 事業を始めた当初は、平飼いで鶏を育て、美味しい卵をお客様へお届けすることが事業の目的でした。しかし、10年前に直売所をオープンしてから特に、地域の方々に支えていただいたお陰で、今の事業ができているという気づきがありました。そのころから、「地域の役に立ちたい」「農と食の大切さを伝えたい」という思いが強くなりました。その思いが深まり、「この自然豊かな八頭そして鳥取の良さを全国の方に知っていただくこと」が私たちの事業の目的となりました。

Q:お客様が購入されるのはどのような形が多いですか?

A: 山あいにあるこの場所にたくさんの方にお越しいただいていますが、それに加え全国から通信販売というカタチでご購入いただくことが多いです。豊かな自然の中で、自家配合した品質のいい餌を与えて、平飼い飼育で健康に育てた鶏の卵。これを「天美卵」と名付け、1個100円で全国のお客様へ採卵当日の卵を牧場より直送しています。その他、ここで作ったスイーツやパン・だし巻きなどもお届けしており、多くのお客様に喜んでいただいております。

注文が殺到しているだし巻き卵
[画像のクリックで拡大表示]

Q:一番売れている天美卵は、1パック1000円(1個約100円)しますが、この価格設定でも売れるのはなぜだと思いますか?

A: もちろん、最初から売れたわけではありません。イベントに出店して1パックしか売れなかったことや、卵が余って捨てなければならないこともありました。創業半年で廃業の危機を迎えてしまったんです。さすがにまずいと思いまして、無料で配布して、まずは食べて価値を感じてもらうことにしました。ただ配るだけでなく、どんな人間が、どんな材料で、どんな思いで、どうやって作っているかを説明したうえで食べてもらって、ようやくおいしいって言ってもらえたんです。
 また食べたいと言って買ってくださるお客様も徐々に増え、やっと売れ始めました。その後、通信販売も始め、10年以上かけて少しずつ着実に全国に販路を広げ、今ではたくさんのお客様が天美卵のファンになってくださいました。私たちが大切にしているのは、初めてのお客様はもちろん、いつもご購入いただくお客様にも、日頃から、牧場の思い・考え方をお客様へお伝えするということです。その思いを受け入れていただき、理解していただいているからこそご購入いただけているのではないかと思っています。

Q:現在従業員が165名いらっしゃるとお聞きしましたが、社員に対してどのようなモチベーションを維持する工夫をされていますか?

A: 社員とはアットホームな関係づくりを目指しています。会社のイベントや旅行などにもご家族に一緒に参加してもらうなど、コミュニケーションを密に取れるようにしています。また、日頃から経営理念や会社のミッションは、スタッフ間で共有し理解してもらうようにしています。ただ、会社ができることは限られていると思うんです。それよりも、毎日の仕事の中で、お客様からいただくうれしいお声や、お客様の楽しそうな表情など、自分たちの仕事がお客様に喜んでいただけていること、そしてお客様の役に立っていることを実感することによりモチベーションが上がっているのではないかと思います。これは、私たちの経営理念である「一期一会の出逢いに感謝し、最高のサービスを提供します」という考え方そのものにつながると思っております。

 小原さんオススメのビュッフェや、天美卵を使ったパンケーキ、卵かけご飯を試食させてもらったが、今までに食べたことのないほど濃厚で口に入れると甘味が広がっていった。また、とても親近感を覚えたことの一つに、社員の方たちが鶏のことを“コッコ”と愛情を持って呼んでいることだ。鶏や卵はただの商品ではなく、敬意を持って接しているのを感じた。

平飼いされているコッコたち
[画像のクリックで拡大表示]
地元の野菜などを使った料理が並ぶビュッフェ
[画像のクリックで拡大表示]
地元で作られた新鮮で美味しい野菜も販売
[画像のクリックで拡大表示]