当記事はnikkei BPnetに連載していたものを再編集して掲載しました。初出は2008年4月17日です。記事の内容は執筆時点の情報に基づいています。

 大切な顧客と初めて会う新製品のプレゼンの日がやってきた。「うまくいくだろうか?」「社運がかかっているから頑張ってくれと、上司がいつになく真顔で声をかけてきた」「ここで失敗したら、出世の目はなくなる」――。

 こんなとき、どんなに鈍感なビジネスパーソンでも「あがる」という状態を体験させられるだろう。

緊張して失敗したら、俺の将来は……(写真:tkc-taka/PIXTA)

 「あがり」というのは“立派な”心理学用語。「演台で発表する時や試合に臨む時などに体験される心身の緊張状態をいう。事の成否が本人にとって重要なほど、不安や緊張感が高まり、目的の行為の達成が困難になることが多い」(有斐閣『心理学辞典』から)。

 「二度とこんなチャンスはない」「上司や仲間からの期待が大きい」「うまくいくかどうかが、自分や家族、会社の将来を決める」「だからこそ、失敗など許されないのだ!」

 その成功を強く願えば願うほど地に足がつかなくなり、頭の中が真っ白。生あくびが出てきたり、資料を持つ手が震えたり。普段なら簡単にクリアできる何でもないことさえできなくなるというジレンマに陥るから始末に負えない。さて、こんな状態をどうすればいいのか? プロはどうしているのか?

おまじないを実行する

 プロだって、あがる。

 劇場にはたいてい神棚があり、出演者は舞台の成功を神に祈る。初日には特に念入りに。これが、あがり防止の儀式だ。

 人という字を手のひらに3回書いてのみ込み「人をのむ」というまじないをやる人も現実にいる。朝起きたら右足から歩き始める。下着をすべて新調する――というように、あがり対策のおまじないをやっているプロも少なくない。ビジネスパーソンも、思い当たるゲンカツギがあったら、ためらうことなく実行しよう。気休めは大切だ。

 プロがすごいのは、同じあがるにしても、2日目、3日目あたりからは目に見えて、あがり現象が軽減し始め、1週間もたつと多くの出演者はリラックスして、芝居そのものを楽しむようになる。あがりは、場数を踏めば自然に克服できることを物語っている。

 私の経験からも、新メンバーで始める新番組ではベテランのアナウンサーやタレント、スタッフでも緊張する。あがり症の私は特にひどい。普段は顔を見せない放送局のおえらいさん、スポンサー、代理店、取材記者などががん首をそろえている姿を目の当たりにするのは特によくない。

 「この企画でこのメンバーですから2桁(視聴率10%)は堅いはずです」と、営業担当社員の根拠のない自信を耳にしたりすると最悪。さっき済ませたばかりなのに、またまた便意をもよおしてトイレに駆け込んだりする羽目になる。そのトイレには別の共演者たちが列をなしていたりする。みんな、あがっているのだ。

 これとて、番組が始まってしまえば、あっという間にリラックスモードに入るのは、さすがにプロ集団。本番直前にあがって、本番の始まりと同時にあがりから解放される。それどころか、あがりのエネルギーをほどよい緊張感や集中力に転換する技を持っているのがプロだ。修羅場を乗り越えた回数が多いほど、「あがり」からの回復力が強い。

 あがり対策の第一は、場数を踏むことなのである。