40代、50代のビジネスパーソンにとって、かつて夢中になった80年代を中心とする歌謡曲は、癒やしを与えてくれる心の拠り所。そっと口ずさむだけで勇気が湧き、大事なものに気付かせてくれる深遠なメッセージが隠されている。この連載では、BS12 トゥエルビで放送中の『ザ・カセットテープ・ミュージック』で80年代歌謡曲の優れた論評をくり広げるマキタスポーツ氏とスージー鈴木氏に、厳しい世の中をしたたかに生き抜くための「歌う処方箋」について語ってもらう。

自分より下がいることに気づかせてくれた恋の歌

――今回のお題は「役職定年」ということで、前半戦はスージーさんご推薦の河島英五さんが歌う『時代おくれ』(作詞:阿久悠、作曲:森田公一)で大いに盛り上がりました。引き続き後半戦突入とまいりましょう。では、マキタさんはどんな歌を挙げられますか。

マキタスポーツ(以下、マキタ):これね、事前に打ち合わせしてないんですけど、僕も阿久悠の詞の曲を選んでましてね。

――ほぉ。

マキタ:でも、スージーさんとは、選んだ理由が全然違います。しかも、年代的にも80年代とかじゃないですよ。

――なんという曲でしょうか。

マキタ:『ざんげの値打ちもない』(歌:北原ミレイ、作詞:阿久悠、作曲:村井邦彦)です。

スージー鈴木(以下、スージー):おぉ! いいですねぇ。ごく初期の作品ですね。

マキタ:ほんとにごく初期だと思います。阿久悠の仕事としてはね。

スージー:歌うのは北原ミレイですね。

マキタ:そう、北原ミレイで。

スージー:   〽 あれは二月の 寒い夜

マキタ:五七調で、超マイナーで、暗い、暗い歌詞ですよ。

マキタスポーツ:1970年山梨県生まれ。ミュージシャン、芸人、俳優。2013年、映画「苦役列車」の好演をきっかけに、役者として活躍の場を広げる。文筆家としても鋭い時評・分析を展開。著書『すべてのJ-POPはパクリである 現代ポップス論考』など

――なぜ、役職定年を迎える方々に贈る曲として、ここまで暗い歌を選ばれたんですか。

マキタ:要するに「自分より下がいる」っていう。

スージー:なるほど、こんなに不幸な人がいるんだよっていう。

マキタ:今はとても辛いと思っていらっしゃるかもしれないけれど、悲劇のヒーローのような心境になって、必要以上に落ち込んでしまっているとすれば、それは甘いんじゃないか、と。

スージー:はい。

マキタ:北原ミレイの『ざんげの値打ちもない』っていうのは、十代の頃から身を捧げてた男の裏切りに合って、刺し違えるというか、刃傷沙汰になっているようなことを想起させる歌詞じゃないですか。

――そうですね。十四で抱かれて、十五で安い指輪をもらって、十九で捨てられて、ナイフを持って、憎い男を待っていた……歌詞から読み取れるあらすじだけでも、めちゃくちゃ暗い。