最近、エレベーターで長時間待たされることが少なくなった。ひと昔前だと、なかなかやって来ないエレベーターに愛想を尽かし、階段で移動するなんてこともあった。きっと科学の進歩がエレベーターを進化させたに違いない。超高層のオフィスビルやマンションが次々と建てられる現在、果たしてエレベーターの待ち時間が「ゼロ」となる日が来るのか。エレベーター製造の国内トップシェアを誇る三菱電機を訪ねて、エレベーターの今と未来を探る。前編は「スピードアップ」と「乗る前に知るシステム」について。

エレベーターに不可欠な“滑車”と“重り”

 2016年、三菱電機は中国の「上海中心大厦」に納入したエレベーターで、世界最速のギネス記録(2018年7月1日現在)に認定された。高い技術力を誇る同社では、エレベーターの待ち時間を短縮するため、どんな技術を開発してきたのか。早速、三菱電機の本社(東京ビル)を訪れ、話を聞いた。

中国で最も高いビル「上海中心大厦(地上632m)」。このビルに納入された三菱電機のエレベーターは、分速1230mで世界最速(2018年7月1日現在)

 シンプルに考えると、呼ばれた階へと向かうエレベーターのカゴ1台1台のスピードが上がれば、それだけ待ち時間は短くなる。エレベーターを動かすモーターは「巻上機(まきあげき)」と呼ばれる。素人の我々はつい「その巻上機の巻き上げる速度をアップすればいいだけでしょ?」と思ってしまう。

 だが、事はそれほど単純ではない。理由は、エレベーターの基本的な仕組みにある。

三菱電機 稲沢製作所の試験塔屋上にある「高速薄型巻上機」
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 シースルーの施設でエレベーターを呼んだとき、目の前の“塊”がカゴとは逆の方向にグィ~ンと動くのを目にしたことはないだろうか。あれは重りだ。エレベータを引っ張るロープは滑車にかけられていて、反対側にはカゴと同等の重さの重りがぶら下がっているのだ。

 もしこの重りがなければ、エレベーターのカゴと乗客の重量のすべてを巻上機で持ち上げなければならない。小学校の理科の滑車の実験を思い出してほしい。滑車をはさんで、利用者が乗り込むカゴと反対側の重りの重さが釣り合っていれば、どちらも最小限の力で効率的に上下させられる。

 そこで、大抵は満員時のエレベーターと重りの重さが釣り合うように設計されている。ということは、誰も乗っていないときはカゴよりも重りの方が乗客の重量分だけ重くなる。そうした負荷の高いときに巻上機の定格速度を設定し、一定の速度で運行するケースが多い。裏を返せば、エレベーターのカゴと重りが釣り合っているとき(この場合は満員時)には、巻上機のモーターの出力に余裕があるということだ。そこに目をつけたのが「可変速システム」である。