日経BPnet セカンドステージに「くるまのわざ」として連載していたものを再編集して掲載しました。初出は2008年12月4日です。記事の内容は、執筆時点の情報に基づいています。

コンセプトは「スポーツカーらしいクルマ」

オリジナル・マスタングと愛称される旧き佳き1960年代のフォード・マスタング。コンバーチブルも2+2の4人乗り
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 フォード・マスタングは1960年代のヒット作として、強く印象に残っている。しかし、そのヒットの要因を考えると、単純な性能でも、レース等の栄光でも、もちろん価格でもなかった。むしろ、ひとつのモノサシでははかり得ない、複合された商品企画の勝利であった。

 マスタングの生みの親とされているのは、当時のフォード社の副社長、リー・アイアコッカである。彼の直感と綿密なマーケット・リサーチの結果がヒットにつながった、といわれた。技術職として入社し、その後営業に転身して副社長にまでのぼり詰めたアイアコッカのキャリアが生きていた。

 面白い話がある。1962年につくり出されたマスタングの最初のプロトタイプはV4エンジンを搭載したミッドシップ2シーターであった。世はミッドシップがまさに市販車として生まれようとしていた時期。話題性にも富んだプロトタイプは、フォードのイメージアップに貢献すると思われた。

 しかし、アイアコッカの判断は「No」であった。実用性のある4シーターが条件として加えられた。そうした実用性を持ちながら、しかもスポーツカーらしいクルマをつくりたい。実際に市販されたフォード・マスタングを見ると、彼のいうコンセプトが実に明快に伝わってくる。