普段ゲームをしないカジュアル層を取り込んできた、LINEが運営するゲームプラットフォーム「LINE GAME」(ラインゲーム)。このLINE GAMEに立ち上げから関わってきたゲーム事業本部副事業本部長の奥井麻矢さんによると「2017年は準備の年」だったという。LINE GAMEが目指す方向性、そして2018年の戦略について話を聞いた。
(聞き手/小沼理(かみゆ)、写真/田口沙織)
私たちが与えられる「WOW」は何か
――2017年はLINE GAMEにとってどんな1年でしたか。
奥井麻矢氏(以下、奥井氏): 2017年は、次に向けて準備をする年でした。業界の流れをみながら、今後どんな戦略を採るべきか迷ったこともあり、『LINE:ディズニー ツムツム』『LINE バブル2』など得意領域であるカジュアルゲームを継続的に運営しながら、ミドルコア層に向けたタイトルの準備をしていました。
――「迷った」というのは?
奥井氏: どの会社でも同じだと思いますが、市場が成熟するに従って、より良いものを作る必要に迫られ、次第に開発費が高騰して開発期間も長くなって……というループに入ってしまうんですよね。その中で、自分たちにできること、自分たちにしかできないこと、市場状況の3方向を把握した上で戦略を立てていかなくてはいけない。2017年は新しい戦略を立てる1年だったといえるかもしれません。私たちの社内用語で「WOW(=ユーザーに感動や驚きを提供すること)」と言っているのですが、タイトル単体、またはもっと大きな戦略として、私たちが与えられるWOWって何なのかをみんなでずっと考えていましたね。
――――その結果、生まれた結論は?
奥井氏: LINE GAMEはスマホゲームが台頭した時代に参入し、リアルグラフ(現実世界と同じ人間関係を背景にもつグラフ)を利用したカジュアルなゲームで基盤を作ることに成功しました。今後はカジュアルゲームだけにとどまらず、ミドルコア層へのアプローチもタイトルごとにフィットした方法で積極的に行いたいと思います。
LINEの強みをあえて使わない
――ミドルコア層に対しては、具体的にどのような準備をしていたのでしょうか。
奥井氏: LINE GAMEの強みは、リアルグラフを利用することで、友だち同士が交流できるゲームをシンプルに展開できる点です。
しかしミドルコア層に関しては、必ずしもそれがプラスにならない場合もあります。端的に言うと、リアルグラフを使わず、純粋なミドルコアゲームへの挑戦を始めようと決めた年でした。もちろん以前からミドルコア層向けゲームも提供していましたが、今回はより深く踏み込みます。分かりやすい例では、2017年7月に新会社「LINE GAMES」を設立し、ミドルコアゲームを中心にグローバル展開をしている韓国NextFloor社と手を組みました。
その象徴的なタイトルが、2017年11月にローンチした『デスティニーチャイルド』。手応えのある結果だったと思います。まだまだ改善が必要な点もありますが、知見のあるNextFloor社と連携したことで、ノウハウをためながら改善していけると考えています。
――2018年には、それに続くミドルコア層向けタイトルが登場するということでしょうか。
奥井氏: 2018年2月から4月にかけて、これまでに準備していたタイトルが続々リリースされました。LINEキャラクターが登場する戦略シミュレーションゲームの『LINE リトルナイツ』や、マーベラスとの共同事業『千銃士』、週刊少年ジャンプのキャラクターが勢ぞろいしたパズルRPG『ジャンプチ ヒーローズ』、そしてアソビズムとの共同タイトル『LINE トロッコウォーズ』など。今のところ、幸いなことに結果もついてきており、LINE GAMEとしての幅を広げる一歩につながったかなと思います。
LINEのゲームをFacebookへ
奥井氏: IP(キャラクターなどの知的財産)を使ったタイトルに限ったゲーム業界トレンドで言うと、知名度のあるIPを使ったタイトルは出尽くしたうえで、次はどんな「ゲーム」が支持されるのか、という段階に来ていると思います。例えば、『ジャンプチ ヒーローズ』は、関係者たちの週刊少年ジャンプへの深い理解があることはもちろん、かわいい2頭身のキャラクターと裾野の広いパズルRPGにLINE GAMEらしさも相まって、ご支持いただいていると考えています。簡単ではないですが、我々も挑戦していくつもりです。
また、『千銃士』では、あえてリアルグラフの要素を入れないようにしています。リアルグラフはLINEが得意としていたものですが、「それがゲームにとって必要なのか」を突き詰めた結果の決断です。そこまで振り切っているんです。
――この連載でこれまでに登場したLINE GAMEのキーパーソンからは、リアルグラフがLINE GAMEの強みだという言葉が何度も出てきました。それを使わないのは思い切った戦略ですね。
奥井氏: もともとリアルグラフを必ず使うというルールを決めているわけではありませんし、ルールに縛られるとお客さんに何を届けるべきなのかがぼやけてしまったり、強みが逆に足かせになってしまったりするケースもあります。生かせるところは生かすけれど、それ以外はタイトルに合ったものでいいと考えています。
「こだわらない」という意味では、近日中に『LINE:ディズニー ツムツム』をFacebookのインスタントゲームとして海外の市場で提供開始する予定があります。「LINEがFacebookで出すのか」という“突っ込み”が聞こえてきそうですが(笑)、現状では海外の市場で多くの人にアプローチする方法や、通信環境が整っていない国にも届ける方法としてはこれがベストだと考えたからです。
アップデートとは異なるアプローチも
――カジュアルゲームについては何か目立った動きはありましたか。
奥井氏: 長寿サービスが増えていく中で、今までと違った動きでユーザーへのサプライズやより幅広い層に遊んでもらう工夫はいろいろ考えていました。
象徴的な例が、『LINE:ディズニー ツムツム』の「ツム顔メーカー」。パーツを組み合わせて自分や友人に似たオリジナルのツム顔を作って遊ぶもので、ゲームの内容とは直接関係ありませんが、これをきっかけに『LINE:ディズニー ツムツム』に愛着を持ってもらおうというのが狙いでした。
この反響が大きかったんです。Twitterでも話題になりましたし、テレビでも取り上げられました。顔メーカーというサービス自体は少し前にはやったもので、それ自体に新鮮さはなかった。それでも実際に遊んだことがない人がたくさんいて、彼らに向けて「ツム顔メーカー」として発表することで、革新的な新しさがなくても WOWを届けられると分かりました。
カジュアルゲームの場合、ライバルは他のゲームというより、可処分時間の使い方として動画やマンガなど、さまざまな選択肢がある中で、 LINE GAMEが選ばれるにはどうすればいいか、という考え方をしています。だから大衆が本質的に何を必要としているか、しっかり見極める力が大事なんです。ゲームとしてどんなアップデートをしていくかに気を取られがちですが、それとは違うアプローチもできる。ツム顔メーカーの事例で、一歩引いた視点で考えていくことが大切だなと実感しました。
「自分たちはゲーム事業を行っているんだ」
――先ほど『LINE:ディズニーツムツム』を海外向けにFacebookインスタントゲームでリリースするという話が出ましたが、2017年、2018年の海外戦略はいかがですか。
奥井氏: 2018年1月にローンチされたオンラインゴルフゲームの『LINE PANGYA(ライン パンヤ)』は、タイ・台湾を含む東南アジアで人気になり、タイではストアランキングの上位に入りました。東南アジアは我々が強みとしている地域なので、積極的に展開していきたいと思います。
長期的な視点で言えば、中国・米国は市場規模の観点で魅力的です。自分たちの方向性を大切に、選択しながら進めていきたいですね。
――海外展開ではやはり、LINEというプラットホームを広めていきたいという考えもあるのでしょうか。
奥井氏: 2015年ごろまではそうした意識が強く、LINE GAMEはLINEユーザーの満足度を高めるためのものという位置づけでしたが、次第にゲームそのものの重要性が増してきました。海外に限らず、日本でもここ数年は「自分たちはゲーム事業を行っているんだ」という自覚がどんどん強くなっています。
――最後に、2018年への意気込みをお願いします。
奥井氏: 2017年に準備したタイトルが2018年に1つでも多くヒットしてほしいというのが素直な気持ちです。その中でLINE GAME全体として私たちが描くシナリオに対して、実際自分たちが今どういう状況にいるのかを俯瞰し、真摯に受け止めていきたいです。うまくいけばそれは喜ばしいし、世の中に受け入れてもらえなければ軌道修正を行う。どちらにしても学びはあるし、それをスピーディーに行うことで、その先のやるべきことが新たに見えてくると考えています。