『パズドラレーダー』に対戦機能を導入するなど主力タイトル『パズル&ドラゴンズ』(以下、パズドラ)の強化に加え、PlayStation 4向けの『LET IT DIE』で海外市場でも手応えを得るなど、2017年も多くの実績を積み上げてきたガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下、ガンホー)。『パズドラ』が日本eスポーツ連合(JeSU)のプロライセンス発行タイトルとなるなど、eスポーツにも力を入れる姿勢が注目されるガンホーの新戦略について、代表取締役社長の森下一喜氏に話を聞いた。(聞き手/佐野正弘、写真/中村宏)
『パズドラ』『LET IT DIE』で海外に手応え
――2017年はどのような年だったと感じていますか?
森下一喜氏(以下、森下): 一番大きかったのは、海外市場でプレーヤーに受け入れてもらえるためのゲームの中身、考え方、展開について、成長できる要素がたくさんあったことだと思います。『パズドラ』は米国でサービスを提供してから5年以上たっていますが、派手なことはしてないにもかかわらず、日本の次に多い1200万程度のプレーヤーを抱えていますし、サービスが途絶えることなく継続できています。
そしてもう1つが『LET IT DIE』ですね。先日(2018年2月9日)、全世界累計400万ダウンロードを突破しましたが、数が多いのは米国、欧州、アジア、日本の順です。北米や欧州をターゲットに作ったタイトルだけに、大きな手応えがあったと考えています。売り上げはそこまで大きくはないですが、『LET IT DIE』ではこの1年のうちに色々なことを経験させてもらっています。
――海外市場で前進できた要因はどこにあったと感じていますか。
森下: 『パズドラ』米国版に関しては、日本とほぼ同じサービスを提供しています。日本で同じ売り上げを出すのが相当大変なくらい、収益面は決して悪い数字ではない。それが実績として積み上がっているという形ですね。
一方『LET IT DIE』は、ゼロからの挑戦でしたが、実際に始めてみると僕らが想定していた考え方とは全く違っていることが多かった。それゆえどうやったらプレーヤーに受け入れてもらえるか、アップデートを繰り返し、結果に一喜一憂しながら、経験を積んでいったという状況です。
日本と欧米のプレーヤーはどう違う?
――欧米と日本とで、どのような点に違いがあるのでしょう?
森下: 何が違うかというと具体的には説明しづらいのですが、みんな「そうだったんだ!」と驚くようなことを多数経験しましたね。ちょっと粗削りなところがありましたけど、やっていきながら修正を加えることで、少しずつ洗練されていく感じでしょうか。
例を挙げますと、当初『LET IT DIE』の手荷物預かり所のソート機能が使いづらく、不満の声が多かったのですが、それを直したら「こんな美しいソート機能は初めてだ!」という反応があって驚きました。機能を直しただけの当たり前のことでもリアクションが非常に面白いですし、イベントをやっていても、やはり日本と米国では反応の大きさが違いますね。
米国のプレーヤーは日本人が作ったゲームだからといって評価を変えることはなく、良いものをつくれば評価してくれる。日本のプレーヤーは多数派の意見に流されやすいですが、米国のプレーヤーは悪いことも明確にする一方、良いところはとてもほめてくれます。実際、プレーヤーの中には「このゲームをプレーして、僕の人生は大きく変わった。ありがとう!」と書かれた長文のメールを恥じらいもなく送ってくれる方もいるんですよ。
――会社としてだけでなく、自身が大きく成長したと感じたのはどのような点でしょうか。
森下: 2つありますね。1つは『LET IT DIE』を北米欧州先行でサービス提供したことで、北米プレーヤーへの手応えを非常に感じられましたし、これはグローバルでのゲーム展開においてとても大きな成果です。
これまでの日本市場に合わせた開発、運営では得られない様々な経験を積めましたし、それによって開発に対する考え方にも変化がありました。実際のゲーム制作の中においては、世界観の考え方、キャラクター、ゲームシステムの部分など、どういうふうにすれば多くの人に遊んでもらえるか、これからのゲームに生きてくると考えています。
一つひとつのステップは小さいかもしれませんが、着実にステップアップできていると感じますし、2017年の経験は今後の大きな足掛かりになると思います。
『パズドラ』のeスポーツに力を入れる理由
――もう1つ、成長を感じたこととは何でしょう?
森下: 文章への抵抗感がなくなったことでしょうか(笑)。もともと活字がとても苦手だったのですが、アニメのシナリオプロットを書いていくうちに、文章への抵抗感がなくなってきたと感じています。
ちょうど4月からは新たに、その名も『パズドラ』というタイトルのアニメが始まります。『パズドラクロス』とは異なり現代が舞台で、主人公がスマートフォンを使って『パズドラ』で戦っていく、僕が昔からやりたかったスポコン人情劇になっています。
――今回のアニメはプロゲーマーによる対戦がテーマとなっています。『パズドラレーダー』の対戦機能実装と、eスポーツが大きく影響しているのでしょうか?
森下: 対戦がなければこのアニメは難しかったでしょうね。『パズドラ』は、もともとアクションゲームが作りたかったのですが、殴ったり切ったりするのではなく、アクションには見えないけれどアクション性を重視した、カジュアルに遊べるゲームがコンセプトでした。
ですが6年が経過し、プレーヤーの修練度が上がりプレーがうまくなっています。そこで競い合う要素を入れたいと思い、これまでにも『パズドラチャレンジ』を提供し、「パズドラジャパンカップ」を5回実施するなど競技性の部分にも力を入れてきました。ですが『パズドラレーダー』の対戦では、1対1でのバトルの仕組みにも力を入れており、スキルによる駆け引きや、パズルアクションのうまさをより求めるようになっています。
――『パズドラ』はJeSUのプロライセンス発行タイトルにもなりました。eスポーツに力を入れているのはなぜでしょう。
森下: eスポーツという言い方はしていないのですが、実は2003年から『ラグナロクオンライン』で、チーム戦やギルド戦などで競い合う大会を展開してきましたし、それに『パズドラ』も大会を5年間継続して展開してきました。それゆえeスポーツは、僕らからしてみれば普通の流れでしかないのです。
プロライセンスを発行する団体を作ることには賛否がありますが、どこかで何かを踏み込んでいかないと状況は大きく変わりません。そのためには団体が閉鎖的になるのではなく、メーカーやプレーヤー、コミュニティー含め開かれた形で意見を交わしながらやっていかないといけないと思っていますし、そのことが問題を解決する突破口の1つとなり、関心を持たれることが産業全体にとってもいい影響を与えるのではないかと思っています。
五輪種目選出のための開発には「興味がない」
――『パズドラ』は海外での人気が高いわけではないことから、そうしたタイトルをプロライセンス発行タイトルとすることに疑問の声も出ています。
森下: 日本の人気タイトルで大会が実施されても別にいいと思います。日本で人気があるスポーツだって、世界的に見れば盛んではない国がたくさんあって、そうしたスポーツを五輪の種目にすることに賛同しない人たちもたくさんいるわけですから。
――eスポーツのために新しいゲームを開発するという考えはないのでしょうか。
森下: まったくないです。ゲーム単体で面白いことが常に念頭にありますから。その上で、イベントを実施する中で大会を実施したほうが盛り上がると思ったものをeスポーツとして展開することはあるかもしれません。
ですから、結果的に五輪の種目に自社タイトルが選ばれることはうれしいことかもしれませんが、五輪の種目に選ばれるために開発をするとか、そういう興味や考えはないです。
――五輪の種目にまでなれば色々なメリットが出てくるかと思いますが、それでも興味がないというのはなぜでしょう?
森下: eスポーツを使ってゲームメーカーが収益を上げようとしていると勘違いしている人もいますが、メーカーにとってeスポーツは、直接的な利益にはつながらないものです。盛り上がれば知名度が高まったり、プレーヤーが増えたりといった間接的なメリットはあるかもしれませんが、メーカーにとっては先々を見据えた広がりへの可能性でしかないのです。でもわれわれは、やはり面白いと思ってもらえるゲームを作ることがまずは大事だと思っています。
11本の開発ラインで幅広い新作を投入
――『カルチョファンタジスタ』など新しいタイトルが徐々に出てきていますが、ゲーム開発に関して、従来と変わった取り組みなどはありますか?
森下: 特別なことはないですね。泥臭い取り組みを続けているだけです。弊社ではプラットフォームも限定していませんから、スマートフォンだけでなくPCもありますし、個人的にはコンシューマーゲーム機が好きなので、そこはやはり取り組んでいきたい。
――開発ラインが11本とのことで、かなり多い印象を受けます。
森下: そんなに本数が多いとは感じていません。色々なことがあって今年これだけの本数になっているだけで、計画して11本にしているわけではないですから。何本かつくりたいものをつくっていて、中には渋滞している企画もあったりしますが、市場の流れを見ながらタイミングよく出していきたいと思います。早すぎても遅すぎてもヒットにはなりませんからね。
僕たちは金融や投資事業をやっているのではないので、ポートフォリオという考え方は採用しません。ターゲットがかぶったとしても、つくりたいと思うもの、面白いと思うものをやっていきます。
――Nintendo Switchが品薄となるなど、コンシューマーゲーム機が再び盛り上がっている印象を受けます。
森下: コンシューマーゲーム機はゲーム業界のけん引役ですから、いいことだと思います。スマートフォンはあくまで「何でもできる小型PC」ですから、コンシューマーゲーム機とはゲーム体験のレベルが違います。コンシューマーゲーム機が盛り上がらないと、ゲーム業界の行く末が怖いですからね。弊社でもNintendo Switch向けのタイトルはもちろん取り組んでいます。詳細はその時がきたら発表します。
――コンシューマーゲーム機は特定のゲーム機に絞るのか、それともマルチプラットフォーム戦略をとっていくのでしょうか。
森下: メーカーとしていえばマルチプラットフォームのほうが販売面で有利ですが、グラフィックを低い性能の機種に合わせなければいけないなど、必ずしもベストな選択ではありません。やりたいことを削ってまでマルチプラットフォーム化することがいいのかというと難しい部分があるので、タイトルによって決めればいいのではないかと考えています。
――一方で、パブリッシングを手掛けている『ディズニー マジックキングダムズ』も、200万ダウンロードを超えるなど、好調です。
森下: こちらはPCのオンラインゲームを運用していた部隊が、そのノウハウを生かして運営を手掛けています。僕の発想ではこうしたゲームは作らないと思いますが、自分の発想が全て正しいわけではないですから、そうした部分を彼らがサポートしていく形になっていくと思います。
AIやVRはゲームにどう生きてくるのか
――昨年にはVR(仮想現実)に関する取り組みを打ち出していましたが、現在どのような状況でしょうか。
森下: AR(拡張現実)は2005年ごろからやっていました。VRについても収益化が目的ではないですが取り組んでいます。余裕があるうちに技術的な可能性を探ることが目的で、あくまで技術的な検証や研究を重視したものになります。
――技術という意味でいうと、最近はAI(人工知能)への関心が急速に高まっています。AIとゲームとの関係について、どのように見ていますか?
森下: ビッグデータと機械学習を活用し、プレーヤーのプレーデータからいかに新しい体験を提供できるかという取り組みは、『LET IT DIE』を開発しているときから考えていました。AIはゲームの未来の中で重要なポイントになると考えていて、ゲームにどのような形でAIを取り込み、面白さとして展開していけるかは非常に重要な研究課題だと考えています。
ですが最終的には、どのような技術を使っても中身が面白いかどうかが問われる世界ですので、その軸を見失うことなく、いかにAIを活用していくかは今後大きなテーマとなってくるのではないでしょうか。
――最後に、『パズドラ』の6周年を迎えるに当たって新たな戦略「パズドラプロジェクト2018」を打ち出しましたが、『パズドラ』が最終的に目指すところを教えてください。
森下: あくまで短期的な収益ではなく、長期的視野に立ったとき、IPとしてどうブランディングしていくかを考えています。5年後、10年後にはスマートフォンが存在しないかもしれませんし、そのとき自分たちで提供するゲームをどう収益化するかは非常に重要なこと。そのためにもブランドをいかに根付かせるかが、大きな意味を持つと考えています。
eスポーツ、プロゲーマーといった施策も長期的なロードマップの一環で、『パズドラ』というIPを育てるための施策なのです。あくまでパズルアクションをコアとしながら、それをどう広げていくか、色々なことをやり続けていくことがすごく大事です。『パズドラ』も6年やってきましたが、まだ6年ですから。
――ありがとうございました。