2018年1月12日に閉幕した「CES 2018」。会場は「AI」や「音声インターフェース(音声UI)」の話題で持ちきりだった。IT・家電分野のメイントピックとなりつつあるこれらの技術は、今後どのように展開するのか。日本メーカーはどう対応するのか。国内外のAV事情に詳しいライターの山本敦氏が分析する。
日本では2017年の秋以降にグーグルとアマゾンのスマートスピーカーが発売されて、AIや音声UIへの注目が一気にヒートアップした。比較的安価なこともあって、筆者のように物珍しさに釣られて購入した方も多いはず。年末にはオンキヨーやソニーなど純オーディオ製品を展開する国内・海外のメーカーからも“音のいい”スマートスピーカーが登場した。
ただ、日本では、スマートスピーカーにつながるスマート家電やスピーカー以外の音声アシスタント搭載機器がまだ少ないせいか、いまひとつ、使いこなしのイメージが見えないという人も多い。そこで筆者は、2018年1月9~12日に開催されたCES 2018で、日本よりも先にスマートスピーカーやIoTデバイスが普及して「スマートホーム」を導入する家庭が多いといわれる、米国の最新事情を見極めようと思いながら取材した。
韓国勢に水をあけられた日本メーカー
「つながるスマート家電」を多数展開していたのは、CESの出展社の中でも数少ない総合家電メーカーであるサムスン電子とLGエレクトロニクスだ。両社の白物家電は日本にほとんど紹介されていないのでなじみが薄いかもしれないが、もともとインターネットにつないでスマホアプリで動かせる冷蔵庫や洗濯機、ロボット掃除機、キッチン家電など充実の製品群をそろえている。両社の家電は、グーグルやアマゾンの音声アシスタントを介して音声で操作できるのに加え、サムスンは「Bixby(ビグスビー)」、LGは「LG ThinQ(シンキュー)」という独自のAIプラットフォームも開発。ディープラーニングを活用し、ユーザーが便利に感じることを「先読み」して実行するスマート家電、スマートホームの開発に本腰を入れている。
一方、日本のブランドはどうだったかといえば、ソニーがスマートテレビ「ブラビア」の北米モデルで「Googleアシスタント」と「Alexa」に対応したこと、パナソニックが欧州で発売するUltra HD BDプレーヤーでAlexaに対応することが発表された程度。「AIに全力」を熱烈にアピールした韓国勢に大きく水をあけられたように感じた。
日本のユーザーはもともと音声でスマート家電を操作することに消極的とも言われているが、グローバルのトレンドは必ずしもそうではない。世界で売れる商品を展開するためには、日本のメーカーもグーグル、アマゾン任せにせず、AIへの本気度をもう少しアピールしてほしい。今回のCESでは、日本でスマート家電をリードするシャープが残念ながらブースを構えていなかったが、秋のIFAや来年のCESではぜひ世界をあっと言わせてもらいたいものだ。
スピーカー以外にも音声アシスタントが拡大
CES 2018では、スマートスピーカーのほかにも、AIと音声UIを活用したさまざまな製品が登場した。トピックとして挙げてみよう。
●イヤホン/ヘッドホンはAI対応が当たり前
「OK、グーグル」のようなトリガーワードを発声する代わりに、本体のボタンをクリックして音声アシスタントを起動。音声操作で、聴きたい楽曲を検索・再生したり、ウェブを検索したりできる。ソニー、JBL、LG、Jabra、ベイヤーダイナミックなどが対応する製品を発表した(関連記事:完全ワイヤレスイヤホンはスポーツ仕様 AI連動も)。
ポータブルオーディオでは、Googleアシスタント、Alexa、アップルのSiriといった音声アシスタントと既に連携している製品が多く、操作性が改善される程度では新製品としてのインパクトが正直弱い。スマートフォンにつながなくても、単独でLTEやWi-Fi経由でクラウドの音声アシスタントを呼び出せる製品が増えれば展開も広がりそうだが、今回のCESでそのような製品を見つけることができなかった。オーディオのIoT化にはまだ少し時間がかかるかもしれない。
●パソコンはスマートホームの要になるか
パソコンでは、エイスーステック・コンピューター(ASUS)、エイサー、HPがAlexaを組み込むことを発表した。それぞれのパソコンが採用するWindows 10には、既に「Cortana(コルタナ)」というAIアシスタントが搭載されているが、各社の新製品ではこのコルタナとAlexaを連携させ、音声によるハンズフリー操作ができるようになるらしい。
筆者はMacを使っていて、macOSの最新版にはSiriが搭載されているが、ほとんど使ったことがない。パソコンにはマウスとキーボードという、パソコンに最適化された最強のインターフェースがあるので音声で操作する必要はないと筆者は考えている。ただ、ホームネットワークにつながって、パソコンから音声で操作できる家電機器が増えれば話は別だ。音声だけでは不便な操作はキーボードとマウスで補えるし、スマートデバイスの状態を画面で確認することもできる。スマートホームのコントロールセンターとしてパソコンが持つ可能性は大きいと思う。
●スマートテレビはリモコンに話しかける?
リビングに鎮座する家電の王様、テレビでスマートホームをコントロールできれば便利になりそうだ。筆者は今、自宅のリビング、テレビの隣にスマートスピーカーを置いて使っているので、これをテレビに組み込めたら見た目にもすっきりするのにとよく思う。その期待に応えてくれそうなAIアシスタント搭載のスマートテレビをサムスン、LG、ソニーがCESで発表した(関連記事:薄型テレビのトレンドは「有機EL」「高画質回路」「AI」 )。
このうちLGとソニーの製品がGoogleアシスタントに対応する。できることはスマートスピーカーとほとんど一緒らしいので、スマートスピーカーはプライベートルームに置いて、リビングではテレビでスマートライフを楽しもうかと期待が膨らみかけた。
ところが、操作方法を両社のスタッフに確認したところ、テレビに直接話しかけるのではなく、付属のリモコンを手に取り、ボタンを押してからマイクに向かって「OK グーグル」と話しかけなければならないらしい。スマートスピーカーの登場で一度は要らなくなったはずのリモコンが復活してしまった。これでは到底便利とは感じられない。
テレビの場合は画面を常時オンに、あるいは本体を常時スタンバイにしておく習慣がないので、テレビに内蔵マイクではなくリモコンを使う方が妥当という判断も分からなくもない。テレビを点けていない時の振る舞いをどうするかという課題を乗り越えない限り、スマートスピーカーの利便性を超えることは案外難しいのかもしれない。
●スマート・ディスプレーは必要か?
新たな製品分野として登場したのが「スマート・ディスプレー」だ。昨年、アマゾンが「Echo Show」を米国で発売。CESではグーグルが「Google Smart Display」を発表し、初期パートナーにレノボ、JBL、LG、ソニーが名を連ねた。ソニーを除く3社は、北米で夏に発売予定の新製品をCESで披露している。
グーグルのSmart Displayは画面サイズを8~10インチと規定、マイクやビデオ通話用カメラをのせることを条件としている。グーグルとしては、「マップやフォト、Allo(ビデオ通話)などビジュアルのインターフェースが必要なアプリも楽しめる」から、“スマートスピーカーに画面を合体させたような製品”を発表したとしている。それならスマートフォンやタブレットでいいのではという気もするが、実機で使い勝手を試してみないことには判断は下せない。なお、アマゾン、グーグルのデバイスともに日本での発売は未定だ。
●ウェアラブルスピーカーに“本命”として期待
筆者はスマートスピーカーを自宅で使っていて、「これを身に着けて動き回れたら便利なのに」と思うことがしばしばある。例えば、キッチンで仕事をしていると、リビングのスピーカーの音が聴きづらくなるし、音声の認識精度が下がる。音声アシスタント対応のイヤホンやヘッドホンを使う手もあるけれど、家族とのコミュニケーションが取れなくなるのが厄介だと思っていたところ、オンキヨーがウェアラブルタイプのスマートスピーカーを試作してCESに出展した(関連記事:オンキヨー、身に着けるスマートスピーカー開発の狙い)。
筆者は耳をふさがず音が聴けて、マイクとの距離が近接している機器がスマートデバイスの“本命”のひとつだと考えている。オンキヨーがCESに展示した試作機は単独でインターネットにつながらないが、宅内・宅外で“スマホレス”で使うためにはWi-Fi、あるいはLTEによる通信機能がほしい。
オンキヨーの試作機は「AIの声をカスタマイズできる」という提案がとてもよかった。身に着けるウェアラブルデバイスで、話し声を自分の好きなアニメやゲームのキャラクターの声などに設定できたら、ものすごく愛着が持てそうだ。AIアシスタントが大ブレイクするきっかけにもなりかねない。
音声の次は脳波
前述のほか、今回のCESでは、車載エンターテインメントにGoogleアシスタントやAlexaを内蔵すると発表したメーカーもあった。ただ、自動車分野では古くからカーナビなどで音声アシスタント機能が採用されており、自動車メーカーや周辺機器のメーカーにもノウハウの蓄積がある。車の中で便利に使えるAIアシスタント、音声UIについては、トヨタが展開する「Concept 愛-i」やホンダの「感情エンジン HANA」といったスペシャリストによるプロジェクトがより良いものを育て上げる可能性も高い。
最後に、今年のCESでは人間の脳波を活用する製品やサービスも少しずつ姿を見せ始めていた。フランスのスタートアップであるmyBrain Technologiesは、脳からの電気信号を読み取るセンサーをヘッドホンに付け、取得したデータを基にユーザーの心の状態を可視化するアプリ「Melomind」を発表した。脳科学の研究施設とともに開発したという「リラックスできている状態」をキープするためのトレーニングメニューも合わせて提供する。
日産自動車は脳波を活用した運転支援技術「Brain-to-Vehicle(B2V)」のコンセプトをCES会場でお披露目。ドライバーの脳波を測定・解析しながら安全運転をサポートする技術やプレッシャーを軽減するためのユーザーインターフェースを実演を交えて紹介した。
音声UIの是非を議論していたら、音声も飛び越え、脳波で家電がコントロールできるようになる日が来るかもしれない。
(文/山本敦)