IT・家電の総合展示会「CES 2018」が2018年1月12日に閉幕した。今年は当初の予想通り「AI」や「音声インターフェース」、近年のCESで急速に存在感を強めてきた「コネクテッドカー(自動車)」に関連するトピックスが話題を集めた。

 今年もCESに出展したソニーは、すべてのキーワードにからむ出展内容をそろえたことも奏功し、ブース内は連日大勢の来場者でにぎわっていた。特に、平井一夫社長兼CEOの指揮の下、2014年からBtoB向けビジネスとして本格的に立ち上げた車載向けイメージセンサー事業については、会期中に進展の報告があったことから、「いよいよソニーが“未来のクルマ”に関連したビジネスに参入か」と沸き立つムードが肌で感じられた。

初日から大勢の来場者で賑わうCESのソニーブース
初日から大勢の来場者で賑わうCESのソニーブース
記者会見では平井一夫社長がソニーの2018年以降に向けた製品・サービスの戦略を説明した
記者会見では平井一夫社長がソニーの2018年以降に向けた製品・サービスの戦略を説明した

 AIや自動運転など、来るべき未来に幅広い技術をそろえて踏み出そうとしているソニー。その“ものづくり”はどこへ向かうのか。CES 2018で披露した製品やサービス、日本のジャーナリストを集めて開催された平井社長の合同記者会見でのコメントなどから占ってみたい。

ソニーのテレビ、音声アシスタント連携や8Kはどうする

 昨年のCES 2017で、ソニーはコンシューマー向けの有機EL搭載大画面テレビを発表して注目を浴びた。今年は、現行フラグシップ「A1」シリーズの技術をのせた有機ELテレビのラインアップを広げる。米国では5月の発売に向けて、設置性を高めた4K/HDR対応有機ELブラビア「A8F」シリーズを準備中。液晶の4K/HDR対応テレビも新製品を発表した。どちらも日本での発売については「未定」としているが、どうやら有機ELや4K/HDRはこのまま軌道に乗って、この先のブラビアの進化を引っ張ることになりそうだ。

4K/HDR対応の有機ELブラビア「A8Fシリーズ」を発表
4K/HDR対応の有機ELブラビア「A8Fシリーズ」を発表
米国で発売されているAndroid TV搭載の4Kブラビアは、ソフトウエアアップデートでGoogleアシスタントを搭載した。ブースでもデモンストレーションを紹介していた
米国で発売されているAndroid TV搭載の4Kブラビアは、ソフトウエアアップデートでGoogleアシスタントを搭載した。ブースでもデモンストレーションを紹介していた

 一方で、今年のCESではLGやサムスン電子が自社製の音声(AI)アシスタントを2018年モデルのテレビに本格導入すると宣言して、「AIテレビ」が話題をさらった。対するソニーは、米国で発売するブラビアのAndroid TV搭載機が、ソフトウエアアップデートで「Googleアシスタント」を追加したばかり。テレビのリモコンに「OK グーグル」と話しかけ、音声でコマンドを入力すると、天気予報やニュースを画面に表示したり、照明などのIoTデバイスを遠隔操作したりできる。あるいは、アマゾンの音声アシスタント「Alexa」を搭載するスマートスピーカーにブラビア用のスキルを追加すれば、スピーカーから音声でブラビアを操作することも可能だ。

 日本で発売されているブラビアも、おそらくそう遠くない時期に、GoogleアシスタントやAlexaとの連携ができるようになるだろう。平井社長は「AIアシスタントと音声インターフェースによって実現できる機能には素晴らしいものがある」と認めている。その一方で、これらの機能はあくまで付加価値であり、これからもブラビアは「画質」をテレビの本質的な価値として追求していくと明言した。現在グーグルを中心としているパートナー戦略についても、「場合によってはいろいろな組み方を考えたい」とコメントしている。

 今年のCESのブースには、8K解像度の85型液晶ディスプレーの試作機も展示した。国内では昨年末にシャープが8Kテレビを発売したので、いよいよソニーも8Kブラビアを商品化するのかという期待があるかもしれないが、平井社長は「コンシューマーには4Kテレビがようやく浸透してきた段階なので、今のタイミングで8Kテレビを推すのは時期尚早」と発言。ブースに展示した試作機は、次世代の映像処理プロセッサー「X1 Ultimate」の可能性を示す一例を超えるものではないとくぎを刺した。

 8Kへの対応という意味では、放送用業務機器のほうが早く進みそうだ。平井社長は「コンテンツ制作側は8K時代の到来に照準を合わせながら、今から対応を進めていくべき。ソニーとしても支援していきたい」と述べている。昨年秋から受注を開始した8Kカメラシステムをはじめ、業務用の製品がこれから続々とそろうことになりそうだ。

ポータブルオーディオがGoogleアシスタント対応

 オーディオについては、米国でハイレゾの浸透がなかなか進まないためか、従来と違う角度からイノベーションを打ち出す戦略を採った。スポーツシーンにも便利なワイヤレス、防水対応、ノイズキャンセリングの技術を一つにした完全ワイヤレスイヤホンの第2弾「WF-SP700N」を発表したのだ。米国では春以降に発売予定。価格が179ドル(約2万円)と手ごろなので、ヒットが期待できそうだ。こちらの製品は国内導入も予定されている。

世界初のIPX相当の防滴対応で、ノイズキャンセリング機能を搭載した完全ワイヤレスイヤホン「WF-SP700N」。ソフトウエアアップデートによりGoogleアシスタントに対応する予定
世界初のIPX相当の防滴対応で、ノイズキャンセリング機能を搭載した完全ワイヤレスイヤホン「WF-SP700N」。ソフトウエアアップデートによりGoogleアシスタントに対応する予定
日本でも発売されている「WI-1000X」。1000Xシリーズの最新モデル(MDR-1000Xは除く)もGoogleアシスタント対応になる予定
日本でも発売されている「WI-1000X」。1000Xシリーズの最新モデル(MDR-1000Xは除く)もGoogleアシスタント対応になる予定

 そしてこのWF-SP700Nは、発売後にソフトウエアのアップデートでGoogleアシスタントに対応する。「OK、グーグル」と発声する代わりに本体のボタンをクリックすると、ペアリングされているスマートフォンの音声アシスタントが素速く立ち上がり、音楽再生やウェブ情報の検索ができる。

 平井社長は「オーディオ製品の利便性を高める付加価値機能として、今後もAIアシスタントを取り込んでいきたい」としている。日本で発売済みの1000Xシリーズのヘッドホン・イヤホンも、ソフトウエアアップデートによるGoogleアシスタント対応が予定されている製品として名前が挙がっている。

 音声アシスタントを搭載する新しいカテゴリーの製品がソニーから誕生する兆しもある。スマートスピーカーにディスプレーを合体させた「Googleスマートディスプレイ」をソニーが開発していると、CESの開催に合わせてグーグルが発表したのだ。ただ、今回のCESでソニーからの発表はなかった。広報担当者に確認したところ「Googleの発表は事実であり、商品化に向け検討を進めている段階」とのこと。テレビとの両輪でAIとの音声による会話を「見える化」できる、便利なスマートプロダクトの登場に期待したい。

こちらはレノボの製品だが、スマートスピーカーにディスプレーを合体させた新カテゴリーのデバイス「Googleスマートディスプレイ」が発表された。ソニーもグーグルのアーリーパートナーに名を連ねている
こちらはレノボの製品だが、スマートスピーカーにディスプレーを合体させた新カテゴリーのデバイス「Googleスマートディスプレイ」が発表された。ソニーもグーグルのアーリーパートナーに名を連ねている

「ソニーのコネクテッドカー」が誕生する可能性は?

 ソニーは2014年に、BtoB向けの車載用イメージセンサーを商品化、事業として発展させていく方針を示した。その後、今年のCESまであまり具体的な発表がなかったが、今年のCESのプレスカンファレンスでは、トヨタや日産、NVIDIAにボッシュなどの企業と手を組んで自動運転車の開発を展開していることを明らかにした。

ソニーが車載用イメージセンサーを供給して、ともに自動運転車を開発するパートナーが紹介された
ソニーが車載用イメージセンサーを供給して、ともに自動運転車を開発するパートナーが紹介された
CES会場ではイメージセンサーの役割を紹介するプレゼンテーションを上映している
CES会場ではイメージセンサーの役割を紹介するプレゼンテーションを上映している

 この発表を受けて「ひょっとしてソニーがコネクテッドカーを作っているのでは?」と期待する向きもある。というのも、昨年10月にはソニーが自社のロボティクスやイメージセンサーの技術を搭載したコンセプトカート「SC-1」を発表していたからだ。だが、記者会見で質問された平井社長は「ソニーが自動車そのものの開発に参入することはない」と断言し、あくまでもイメージセンシングの技術で自動運転の領域に貢献していく考えだ。

 平井社長は、車載用イメージセンサーがソニー全体の収益に貢献する時期は「ずっと先になるだろう」としながら、「パートナー各社ともディスカッションを始めたばかり。どの車種に搭載するかなどもこれから決めること。情報については随時、可能な限り開示していきたい」と述べている。イメージセンサーについては、スマートフォン向けデバイスの供給や自社のデジタルカメラも好調なことから、まずはそれぞれで手堅くビジネスの足場を固めていく作戦のようだ。

 一方で、「イメージセンサーを供給するだけではソニーらしさが打ち出せないことも確か。パートナーとの協業の中で“プラスα”の付加価値をつくっていきたい」として、自動運転向けセンサーの価値にとらわれない「新しいこと」にチャレンジする姿勢も表明した。具体的な内容はわからないが、ヒントは「お客様のニーズに合わせたカスタマイズ」(平井社長)だという。

ソニーは世界でウケるロボットをつくれるのか

 もう一つ、今年のCESのトピックとなったのが、エンターテインメントロボット「aibo」だ。海外では初のお披露目の機会になった。発表前は筆者の周囲で「米国なんだから大型犬じゃないとウケないのでは?」という冗談が飛び交っていたのだが、プレスカンファレンスで発表されるや、来場者からは一斉に歓声が上がった。ブースで愛嬌を振りまきながら動くaiboにも、大勢の来場者が笑顔でカメラのシャッターを切っていた。米国での“ツカミはOK”だったようだ。

プレスカンファレンスでaiboが紹介されると大きな歓声が上がった
プレスカンファレンスでaiboが紹介されると大きな歓声が上がった
aiboの展示スペースも大盛況
aiboの展示スペースも大盛況

 aiboの世界展開について平井社長は「当然視野には入れている」という。ただ、aiboは部品点数が多く、組み立てにも手間がかかるため、まずは国内向けの製造体制を整えることが先決と説明している。生産能力が安定したところで、反響が良かった海外地域に投入していくことになるだろう。

 また、平井社長はプレスカンファレンスで「ソニーのAIとロボティクスの技術を生かした、さまざまな製品群の登場に期待してほしい」とも語っている。ロボットとひとくくりに言っても、人型から産業用まで幅広い。aibo以上に私たち一般のコンシューマーをときめかせてくれる製品がすぐにソニーから出てくるかどうかは分からないが、平井社長の言葉に込められたソニーの意気込みに期待を寄せても良さそうだ。

 筆者は当初、今年のCESでソニーが発表した製品やサービスには驚きが少ないように感じていた。だが、平井社長の話を聞くと、ソニーが掲げている、ユーザーとの“ラスト・ワン・インチ”の距離感でのモノづくりに確実な成果が出ているという自信が伝わってきた。2018年はソニーにとって、足場を固めてさらに大きな一歩を踏み出すための大事な年になるのかもしれない。

(文/山本敦)

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