この記事は「nikkei BPnet」に2014年12月12日に掲載された「「エンジニア魂」が創り上げた焼き鳥!」を転載したものです。内容は基本的に掲載日時点のものとなります。
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東京・JR山手線の大塚駅南口から徒歩3、4分ぐらいの商店街にある「与志万」。店長は元ロボット技術者だったが、先代店長に見初められて与志万に「転職」した。焼き場に立つつもりはなかったのだが、焼き方の職人が突然辞めてしまったので、焼き始めた。以来22年間、独学で磨き上げてきた焼き鳥は、他店とはまた一味違う独特のおいしさを持つようになった。その根底には、「エンジニア」のこだわりがあったのだ。

 以前に引き続き、東京・大塚の「与志万」を取り上げる。

 与志万・店長の嶋方充さんは、もう22年焼き鳥を焼いているが、焼き始めた頃は全くの素人だった。元々ロボット技術者だった嶋方さんの研究心に火が付いたのだろう。今日まで、とにかく様々なことを試してきた。そうやって創り上げてきたのが、与志万の焼き鳥なのである。

 嶋方さんは焼き方のコツを知ろうと、とにかく本を何冊も読んだが、よく分からない。ある日、趣味のキャンプ料理の本を見ていたら、偶然ヒントを見つけた。それは意外なことだった。

 その本の著者が、築地の焼き鳥の名店で聞いた話らしい。素人が鶏肉を焼くとパサパサに硬くなってしまうのは、酸味が足りないからだと書いてあったのだ。ということは、酸性の液体に浸せば柔らかくなるのではないか……。

 最初はお酢に浸してみたのだが、どうもにおいがきつい。試行錯誤の末、現在のものにただり着いたのだという。それが何だか、教えてもらった。レモン水である。ただ、どれぐらいの割合がいいのか、あるいはどれだけの時間が浸せばいいのかまでは僕にも分からない。ぜひ試行錯誤してみてほしい。

 その柔らかさを知りたければ、「正肉」が一番分かりやすいだろう。与志万の正肉は、もも。胸と両方を試してみたのだが、最終的にはももに落ち着いたのだという。これが、もうプリップリッとしか言いようのない歯応えなのだ。パサパサ感などどこにもない。

プリップリッの正肉(もも)
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手羽先の焼き焦げを出すには

「手羽先」にも苦労したという。あの焼き焦げがなかなか出ないのだ。じっくり焼いてみたが、白っぽいまま。ぶりの照り焼きのように、みりんで照りをつけようとしたが、今度は真っ黒になってしまう。日本酒がいいのではと塗ってみたら、やはり真っ黒になる。霧吹きで吹きかけてみたが、塗るよりはましだが、やはり黒くなる。

 結局は、日本酒を水で割って、吹き付けたら今のちょうどいい焼き焦げがつくようになったという。もちろん、皮の部分はパリっとしている。

試行錯誤で生まれた焼き焦げがちょうどいい手羽先
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 手羽先の食べ方も教えていただいた。串から抜いて、骨をつかんでひねれば、きれいに骨だけ取れる。試してみたら、僕にも簡単にできた。

 この手羽先には逸話がある。千葉に宮内庁御用達の料理人がいる。その彼がうまいと言って、「おひねり」をくれたのだそうだ。知る人ぞ知る料理人で、これは嶋方さんの自信の源となっている。