IT技術を使った新しい金融サービス「FinTech」。書店に関連書籍がズラリと並ぶなど、ビジネスパーソンにとっては今ホットなキーワードの一つだ。日経FinTech・原隆編集長と、日経トレンディ・伊藤健編集長がコーディネーターを務めたTREND EXPO TOKYO 2016のパネルディスカッション「3大メガバンクが語るFinTech最前線」は、3メガバンクの担当者が集う貴重な機会ということもあり、立ち見が出るほどの大盛況となった。

 このセッションに参加したのは三菱UFJフィナンシャル・グループから藤井達人氏、三井住友フィナンシャルグループから竹田達哉氏、みずほフィナンシャルグループから大久保光伸氏。いずれもメガバンクのFinTech部門をけん引する担当者で、自社の取り組みや今後の金融サービスについて語った。

藤井達人氏 三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタルイノベーション推進部 シニアアナリスト
藤井達人氏 三菱UFJフィナンシャル・グループ デジタルイノベーション推進部 シニアアナリスト
竹田達哉氏 三井住友フィナンシャルグループ ITイノベーション推進部 オープンイノベーショングループ長
竹田達哉氏 三井住友フィナンシャルグループ ITイノベーション推進部 オープンイノベーショングループ長
大久保光伸氏 みずほフィナンシャルグループ インキュベーションPT シニアデジタルストラテジスト
大久保光伸氏 みずほフィナンシャルグループ インキュベーションPT シニアデジタルストラテジスト

FinTechの実現に向けて外部との連携を強化

コーディネーターを務めた原隆・日経FinTech編集長(左)と日経トレンディ編集長・伊藤健
コーディネーターを務めた原隆・日経FinTech編集長(左)と日経トレンディ編集長・伊藤健

 「三菱UFJフィナンシャル・グループは邦銀初のFinTechコンテストや銀行API(注1)を見据えたハッカソンを開催するなど、国内外のスタートアップ企業と連携を強化しています」と語る藤井氏。カブドットコム証券とともに、ブロックチェーン(注2)上で発行する企業コイン「OOIRI」を導入したことも話題を集めている。

(注1)銀行API…自行のネットサービスを外部事業者が利用できるようにするためのインターフェース。例えば銀行のインターネットバンキングの機能を、外部事業者が開発したアプリから利用できるようになる。

(注2)ブロックチェーン…ビットコインなどの仮想通貨の取引情報を保持するデータベースシステムを改ざんなどから守るための仕組み。同じ取引データを保持する複数のデータベースが連動する点が特徴。


 中期経営計画に「FinTechへの取り組み」を明文化しているみずほフィナンシャルグループは、すでに多くの企業と連携しFinTechのサービスを提供している。「ブロックチェーンについても、同技術を用いて国際証券決済の決済期間を短縮する実証実験を、富士通と共同で実施している」と解説する大久保氏。自社の取り組みが外部からも評価され、さまざまなアワードを受賞している点にも言及していた。

 三井住友フィナンシャルグループの竹田氏は、同社のFinTechへの取り組みとして「大きくは、『未来の金融のあるべき姿を見据える』『外部パートナーとの積極的な協業』『新しいアイデア・技術に失敗を恐れず挑戦する』の3つ」と紹介。またイノベーションを世に出した例として、NECとのコラボレーションによる、スマートフォンを使ったバーコード決済の事例を取り上げた。

■変更履歴
初出では「同技術を用いて国際送金の決済期間を短縮する。」とありましたが、「同技術を用いて国際証券決済の決済期間を短縮する」の間違いでした。お詫びして修正いたします。

3メガバンクがFinTechに積極的な理由とは?

 「そもそもなぜメガバンクはFinTechに積極的なのか」という原編集長の問いに対し、「世の中が急速にデジタルシフトするなかで、多業種からの参入もあり、将来には急激な競争環境の変化が起こるのは明白。早く取り組んでおかなければという危機感があった」と語るのは藤井氏だ。

 また「対峙している相手はどこか」という問いに対して、「GAFA Bank」という言葉を紹介したのが大久保氏。「GAFA」とはGoogle、Apple、Facebook、Amazonの4社の頭文字を集めた言葉だが、「GAFAはApple社の『Apple Pay』のようなフィナンシャルの機能を提供している。ユーザーはそのことを意識せず利用している。我々が対峙しているのはそういう相手だ」と説明した。

 また竹田氏も「業種の垣根はどんどんなくなってきていて、あらゆる企業がコンペティターにも、パートナーにもなり得る」と語った。

 「FinTechによって銀行とユーザーの距離はどう縮まるのか」との伊藤編集長の問いに対しては、大久保氏がみずほフィナンシャルグループで提供している、LINEを使ったサービス事例を紹介。初回時にログインすれば、以降はスタンプを送信するだけで残高照会が可能になるというもので、「銀行を意識しなくても金融サービスが受けられる」という。

 これに対し「消費者から銀行が見えなくなって距離が遠ざかるのでは?」と原編集長が指摘。これに藤井氏は「銀行のアプリがスマホのファーストスクリーンに置かれることはないだろうが、銀行APIで外部企業を通じて接点を増やしていくことができる」とし、「生活に寄り添いながら、自然に決済が利用できるというアプローチが重要」だとの持論を展開した。

 竹田氏も「銀行APIだけだと、どこの会社のサービスからわからなくなってしまう懸念はあるが、銀行がユーザーに近づくチャンスでもある」との考えを明らかにした。

仮想通貨が支払いに利用されるのはいつ?

 パネルディスカッションではこの他、改正銀行法やブロックチェーン、ビットコインなどの仮想通貨の深い内容にも話題が及んだ。ブロックチェーンについての検証が行われている一方で、仮想通貨については3社ともまだ動向を注視しているところといった印象だった。

 藤井氏は、「ビットコインなどの仮想通貨は、現状では投機目的に利用されているが、今後実際に支払いに利用されるようになれば、決済にも影響をおよぼす。それがいつなのか注目している」と語った。

(文/太田百合子、写真/中村宏)

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