村井説人氏 株式会社ナイアンティック 代表取締役社長
村井説人氏 株式会社ナイアンティック 代表取締役社長

 TREND EXPO TOKYO 2016の2日目の基調講演では、『ポケモンGO』の開発元である株式会社ナイアンティックの社長・村井説人氏が登壇。『ポケモンGO』が、これから社会に与える影響について語った。

 『ポケモンGO』を開発したナイアンティックは、2012年に『イングレス(ingress)』という位置情報ゲームのベータ版をリリースしている。イングレスのユーザーは、2つのチームに分かれて、街の中にリアルに存在する歴史的な建造物などに設置された“ポータル”と呼ばれる場所を奪い合い、テリトリーを拡大していく。

 『ポケモンGO』も『イングレス』も、プレーヤーが歩いて移動しなければ進行しないゲームだ。村井氏によれば、『イングレス』のユーザーが歩いた総距離数は2億5800万キロメートル。地球から太陽までの距離の約2倍にあたる。一方の『ポケモンGO』は、既に45億キロメートルに達していると明らかにした。なんと地球から冥王星や海王星までの距離に相当するのだ。

社是「ADVENTURES ON FOOT」の意味とは?

 これほどの人を動かした『ポケモンGO』は、今後、社会にどのようなインパクトを与えることになるのか。村井氏によれば、イングレスのこれまでの歩みを振り返ることが、『ポケモンGO』で何が起こるのかを推測するのに役立つと言う。

 イングレスはリリース直後から現在まで、公式または非公式のリアルイベントが、多数行われている。リリース直後の2013年に宮城県・石巻市で行われたイベントに集まったのは、わずか数十人。それが2014年の東京や、2015年の京都で行われたイベントでは5000人以上が参加。京都市長までが来場し、「歴史ある京都は『イングレス』のために作られた」と言わしめた。

 既に『ポケモンGO』でも、こうした流れが見られるようになっているという。鳥取や神奈川県・横須賀市など、自治体もイベントを開催。多くのプレーヤーが、同じ場所に集まるという動きを見せている。また、オーストラリアでは、ユーザーが自発的に集まり、街を歩くというイベントが行われた。同様の現象は、サンフランシスコやシカゴでも起こっているという。

 『ポケモンGO』は、プレーヤーに移動することや集まることだけを促しているわけではない。村井氏は「医療や教育、産業、さらには人と人とのコミュニケーションにも影響を与えてきたと考えています」と語る。例えば、「歩行の困難な子どもが、ゲームをきっかけに歩きたいと思うようになり、リハビリに励み始めたというような報告も多い」という。

 「ADVENTURES ON FOOT」という言葉は、ナイアンティックが掲げる社是だ。その究極の意味は、「人は歩けば幸せになる」というもの。『イングレス』や『ポケモンGO』が、ゲームを進行させるうえで、“歩く”という行為を前提にしているのは、このためだ。そんな社是を持つナイアンティックの村井氏は、次のように語り講演を締めくくった。

 「我々は、人が動くことで、世の中は色々な形へと変わっていくと考えています。そして我々は、“人が動く”ということをキーワードにして、今後もさまざまなサービスを提供していきたいと思います」

(文/河原塚英信、写真/中村宏)

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