あえて「まちの下着屋さん」を支援

 「2012年に、全国を都市別に細分化し、女性人口や年齢構成、売り上げなどを分析したところ、特に地方で顧客との接点が十分でない地域が存在することが分かった」と、ワコール総合企画室事業企画部の河口陽二氏は語る。

 接点を増やす方法の1つとして構築したのが、地元の専門店と組んだ「ワコールガーデン」の展開だ。地方の専門店を取り巻く状況は確かに厳しい。だが、地域に根付いた小売店ならではの強みを生かせる。

 1つは、地元出身のオーナーが持つ人脈だ。ワコールが直営店を出すよりも地域の理解を得やすく、出店も円滑に進む。賃料交渉でも有利に働いているようだ。岩澤氏は開業時の駅ビルとの交渉を振り返り、「駅ビルには30年前から出店している。今回ワコールガーデンを出店するときも、岩澤さんだから、ということで賃料を考慮してもらった」と語る。

 さらに、低コストでの出店も可能だ。ワコールは開業費を一部負担したり、低価格の什器を紹介したりすることで、オーナーの負担が少ない形で開業できる仕組みを整える。ワコール側にとっても、店舗の運営費や人件費はオーナー負担のため、直営店のような負担がない。都心の一等地にあるような店舗ほどの売り上げを見込めなくても、かかるコストが低いので採算が取れる仕組みだ。

 岩澤氏の店舗は、当初の予想売上比150%で毎月推移している。ワコールガーデンの一つの成功事例と言える。

 だがこの成功は、茅ヶ崎というある程度大きな都市に店舗があることや、5代目として老舗を引っ張ってきた岩澤氏の手腕によるところも大きいだろう。すべての専門店が岩澤氏のようにうまくいくとは限らない。

 ワコールも、すべての専門店を支援するわけではない。14年からはじめて現在までにワコールガーデンとして展開しているのは12店舗だけだ。そのためこの取り組みによって、地方の専門店の状況が劇的に変わるわけではないだろう。

 だが、小売りの主役がチェーンストアやネット通販などに移った中で、あえて原点に立ち返ったワコールの取り組みは面白い。地方の人口減少や高齢化が加速するにつれて、このような地域に根付いた小売店の必要性が今後改めて認識されるかもしれない。

 話は少しずれるが、岩澤氏は、初めてワコールの担当者と会ったとき、「我々の仕事は、ゆりかごからゆりいすまでの仕事です」と言われ、驚いたという。その言葉はまさに呉服店の3代目だった祖父に言われ続けてきた言葉だからだ。その言葉をきっかけに開業を決め、現在は呉服店などとともにワコールガーデンも経営している。志を一つにできるのも、ワコールが地方の専門店と組んだ理由なのではないかと感じた。

(文/白井 咲貴=日経ビジネス)