日本人にはわかりにくい「買えるから買う」

 日本人は自分がお金をどれだけ持っているかに関係なく、「使うべき」と判断すれば、仮に借金してでもそのお金を使う。そういう傾向がある。130円の飲み物の例のように、どんなに少額であっても、他人からお金を借りたら必ず返す。この日本社会の規範意識はまことに確固としたもので、中国をはじめとする海外で日本人、日本企業に対する信用が高いのはここに大きな理由がある。

 その代わり、お金を使うかどうか、例えば、ある商品を買うか買わないか、投資するかしないか、といった判断を迫られると、そのお金を出す明確な「根拠」が必要になる。「あるから使う」というわけにはいかない。そのため、なかなか決められず、時にチャンスを逃がすということも起きる。

 私の配偶者は上海でシルクやカシミア製品を主体にしたブティックを最近まで経営していたのだが、そこには日本人のお客様も多かった。女性が大半だったが、配偶者が接客していると

 「これって日本では売ってないですよね?」
 「今季の限定色なんでしょ?」
 「全部、手刺繍なんですよね?」

 などと幾度も念を押した後、

 「上海に来ることも二度とないかもしれないし」
 「亭主はいつも外で遊んでるんだから、私だって」

 などと、こちらが聞いてもいないことをつぶやきつつ、結構高額な商品を購入してくださる。要は自分が「お金を払う根拠=スジが通る理由」を探しているのである。ここで背中を一押しすれば、まず売れる。配偶者はいつも「自分のお金なんだから、あるのなら使えばいいのに。なんで自分を説得するのかな」と面白がっていた。

「お金のある人」しかお金を使わない中国人

 一方、中国人はまったくこうではない。

 中国人は、その時点で自分にお金があると、決断は早い。「買える」のだから「買ってしまう」。そのお金を使う「べき」かどうか、そこは深く考えない。要するに「そのお金を使っても、現実の生活に大きな影響がない」のであれば、考える必要は生じないのである。中国人が物品の売買や取引、投資などに関して即断即決ができるのは、このためだ。

 だから中国人を相手に商売をするなら、お金を持っている(使える)人を相手にしないと埒が明かない。持っていない人は買わないのだから、口説いて買わせるのは非常に難しい。

 「スジ」で売るか、「量」の発想で売るか。このあたりの戦略は結構大きな意味を持つ。この話はいずれ稿を改めて考えてみることにしたい。

(文/田中 信彦=BHCCパートナー)