佐々木:しかし、競合他社が効率化追求を優先し、ブロックチェーンを活用してサプライチェーン管理を刷新すると、競合他社に圧倒的なコスト優位性を作られてしまいかねません。意思決定は極めて難しい状況に追い込まれます。

 こうした、既存の管理方法を刷新する際に浮上する課題は、自動車分野に限ったことではありません。既存のサプライチェーンマネジメントや管理手法を用いているさまざまな分野の企業でも同様の課題が生じるでしょう。

だからこそ、実証実験によって「どのくらいの影響があるのか」を見積もっておく必要があると。

佐々木:そういうことです。競合がブロックチェーンを使ってビジネス上の非効率なところにメスを入れようとしたときに、自社がそれに追随できないのでは競合に取り返しのつかない差をつけられてしまいます。そういう事態にならないように、ブロックチェーンが分かる技術者を自社内に確保し、ちゃんと実証実験し、変化への準備をしておく意義はあります。そうしておけば、世の中の動きに対し、すぐにでも追随できるでしょう。実際、各社は「いざというとき」に乗り遅れないように、という意識を持ちつつ実証実験を進めています。

企業にとっては、非常に悩ましいところですね。ブロックチェーンの効果はありそうだが、今の仕組みを変えるには痛みを伴う可能性があり、簡単には踏み出せない。でも誰かが踏み出すと、ビジネス環境が一気に変わる可能性すらある。

佐々木:おそらく、真剣にブロックチェーン活用の実証実験を進めている企業ほど、大きな変化への準備という側面が強いと思います。ブロックチェーンが、今すぐにビジネス環境を大きく変えるようになると、正直想定していないでしょう。しかしながら、現段階から準備しておかないと近い将来大きな問題に直面するとの危機意識が、実証実験の関係者から伝わってきます。

 実証実験の内容については、以前に比べてブロックチェーンの本質を突いたケースが出てくるようになりました。1年前は、「本当に大丈夫か?」と、首を傾げたくなるケースも散見されました。「はやっているから」という意識から、実証実験するようなケースも見受けられました。前述したパブリック型とプライベート型の設定の違いについて、おそらく半年前、1年前はあまり議論がなされていなかった印象です。何のためにブロックチェーンを使うのかが曖昧だったり、プライベート型の話とパブリック型の話が混同された議論が交わされたりといったことが結講見受けられました。

 それに対して現在は、ブロックチェーンに関する文献もそろってきており、理解は深まってきたと感じています。何を問題として捉えて、どこをブロックチェーンで効率化すればいいのかという、かなり地に足の着いた議論になりつつあります。

5年後や10年後、ブロックチェーンは社会にどのようなインパクトを与えていると推測していますか。

佐々木:なかなか予測するのは難しいのですが、5年以内に大きな変革を起こしているかというと、あまり想定はできないですね。ただし、10年、20年といった長期的なスパンで見ると、大きなインパクトを社会に与えていると考えています。

 10年超で起こり得る変化の1つに、私は証券決済システムがあると予測しています。証券の取引がすべてブロックチェーンを使うとなった瞬間に、取引所は不要になり、物事が大きく変わったという印象を世間の多くの人たちが実感することでしょう。「そういえば昔、証券取引所というものがあったな」と過去の記憶を思い返し、その変化の大きさを感じることでしょう。ブロックチェーンのインパクトは、過去を振り返ったときの変化の大きさから実感するようなものなのかもしれません。

(文/大久保 聡=日経BP総研)

この記事は、日経BizGateに掲載したものの転載です(本稿の初出:2018年5月2日)。

2030年、あなたの会社は存在していますか?
競争環境ががらりと変わる、多分野を巻き込んだ大きな変革が起ころうとしています。変革の潮流に乗ってチャンスをつかむキーワードが、ブロックチェーンです。日経ビジネススクール「テクノロジーインパクト2030 ブロックチェーン編」は、ブロックチェーンの可能性を理解できるだけでなく、今後のビジネスに結びつける手法を学ぶ、次世代リーダー層向け研修プログラムです。