疑問3 税制優遇は魅力的か?

 積み立て投資のメリットとしてあげられる所得控除についても疑問がある。今年制度拡大されたiDeCoは投資額がそのまま所得控除の対象となり「絶対得する制度」と唱われることも多い。確かに確定申告で税金が還付されるので得ではある。しかし、世の中に全て良いだけの話など無い。iDeCoの場合、60歳までは運用資金の引き出しが出来ないというデメリットもある。

 例えば30歳で年収が500万円の場合、年間10万円をiDeCoで積み立て投資すると税金が3割戻って来る。つまり実質7万円の投資となる。仮に運用によるリターンがゼロの場合、60歳時点では7万円が10万円として返ってくる。

 これを1年あたりに平均すると約1.2%の利回りとなる。これは果たして、30年の引き出し制限を上回るほどの利点なのか。若くて収入が低い時期ほど、急な出費でお金に困ることも多いだろう。一方、50歳で年収1500万円の場合は、税率が高いため所得控除の恩恵が大きく、利回りが年6%弱になる。こちらの方が魅力的だ。

 本来積み立てが必要な若くて収入が少ない人ほど、所得控除のメリットは受けにくい。半面、デメリットは大きくでる。必ずしも税制メリットがバラ色の内容というわけでは無い。

米国を参考にされても……

 これら3つの疑問を考えると、「貯蓄から資産形成」を推奨する政府や証券各社の言葉には首を傾げたくなる。当然、個人も分かっているからマイナス金利になっても貯蓄から貯蓄のまま。日本の個人が保有する金融資産のうち、株式や投資信託が占める割合は14%弱に過ぎない。米国の46%に比べて極めて低い水準だ。

 証券会社にせよ政府にせよ、「長期投資は絶対成功する」という前提に立っている。それが商売だから仕方が無いと言えばそうかもしれないが、やはりどこか一般個人の感覚として受け入れられない部分が残る。

 恐らく長期投資を絶対的な正義と見る背景には、投資大国アメリカの影響があると思われる。

 米国では1981年に確定拠出年金制度が実質的に始まった。この頃のダウ平均は1000ドル弱。1990年には2000ドル台半ばまで成長し、リーマンショック時の落ち込みはあったものの、足元の株価は2万ドルを上回っている。個人の資産形成開始時期と株価の拡大時期が重なり、長期的な投資による成功体験が生まれた。ドルコスト平均法など様々な投資理論も普及した。

 一方、日本では日経平均が1989年末に3万8957円を付けて以降、株式市場は長期停滞を迎えている。直近の株価は2万円に近づいてはいるものの、最高値の半分の水準。過去約30年間に酸いも甘いも味わった株式市場を持つ日本で、米国の過去30年間を振り返った成功例を取り上げられても、ピンとこないのは仕方が無い。

 アメリカの歴史から学ぶべき教訓は「コツコツ投資は報われる」ではなく「右肩上がりの相場が個人投資家を作る」という事なのかも知れない。

 もちろん個々人が資産形成を考える事は大切だ。公的年金だけでは老後生活を支えられなくなる時代はやってくる。しかし、それは政府や証券会社に急かされて始める事では無い。

 日本には少子高齢化という大きな課題があるし、世界経済も新興国の成長や米国の好景気に支えられた時代は終わりを迎えようとしている。株式市場にバラ色の将来は当面見通せない。しかし、もう10年待てば世界経済の景色も大きく変わっているかも知れない。長期投資の強みは、その名の通り長い時間軸を持っているということ。数年くらい様子見したって問題はない。

(文/武田 健太郎=日経ビジネス)