2004年3月に「誰でも参加できる多人数協力アクションゲーム」をコンセプトに開発したハンティングアクションゲーム「モンスターハンター」。シリーズ累計3,800万本(2016年9月末時点)の販売本数を誇り、ゲーム業界においてタイトル通りのモンスターヒットを続けている。シリーズ歴代作品でプロデューサーを担当してきたのがカプコンの辻本良三氏だ。最新作の『モンスターハンター ストーリーズ』では、これまでのアクションゲームからRPG(ロールプレイングゲーム)へジャンルを変更。新たな挑戦に取り組みながらシリーズ展開を続けている。ここでは、辻本氏が考える「ヒットさせる秘訣」に迫った。

辻本良三氏<br>カプコン 執行役員 CS第三開発統括
辻本良三氏
カプコン 執行役員 CS第三開発統括
『モンスターハンターポータブル 2nd G』以来、歴代作品のプロデューサーを多数担当。『モンスターハンター ストーリーズ』でもプロデューサーとしてゲーム全般の監修を行っている

“だれでも参加できる”が口コミを呼ぶ

――「モンスターハンター」シリーズが、これほどまでに消費者に受け入れられた理由をどのようにお考えですか

辻本良三氏(以下、辻本): 「モンスターハンター」シリーズを開発する上で重要視してきたポイントに“誰でも参加できること”というのがあります。「モンスター」を「ハント(狩る)」するという、一見殺伐とした設定を、できるだけ「殺伐としない世界観」に仕上げたのもそのためですが、“誰でも参加できる”ゲームを広めるのに考えたのは「口コミ」の活用です。

――口コミで広げてもらうためにどのようなことを行ったのですか

辻本: 「モンスターハンター」が広く世間に知られるようになったのは、携帯ゲーム機向けのタイトルを発売してからです。そのタイミングでイベントを各地で実施しました。携帯ゲーム機向けのタイトルを使ったイベントということもあり、多くのユーザーにイベント会場へ向かう電車の中や、開場までの空き時間、帰りの電車の中などで遊んでもらえました。そこでプレーしている人たちの様子自体がプロモーションとなり、口コミにつなげることができました。今の時代、ネットとかでデジタルなコミュニケーションは取りやすくなってきたと思うのですが、逆に実際に会ってのコミュニケーションが減ってきてると思うので、色んな方が集まってアナログなコミュニケーションを取れるようなことをしたかったんです。

――それ以降継続的に同じようなイベントを行っています

辻本: 「モンスターハンターフェスタ」として開催しています。日本一のハンターを決める「狩王決定戦」も行い、我々開発者でもかなわないような上級者のプレーを大勢のファンと観戦します。日本でもやっとeSportsが普及してきましたが、自分ではとてもできないと思うような迫力あるプレーを見るのは、楽しいですよね。スポーツでも趣味でやっている人がプロの試合を見て興奮するように、ゲームの世界でも同様の楽しみがあってよいと思いますし、そういう楽しみ方をもっと推奨していきたいです。

――「モンスターハンター」が普及した理由はほかにもありますか

辻本: 色んな理由はあるとは思いますが、携帯機の展開をした時に多くのユーザーが友人・知人に「モンスターハンター」の良さをプレゼンしやすかったというのはあると思います。対戦型ではなく参加者が協力し合って遊べるので初心者も誘いやすい。私たちも「見て楽しい、遊んで楽しい」という部分は、いつも意識して開発していましたので、そのように多くのユーザーの方が他のユーザーを誘っていただけたのは、うれしかったです。また継続して遊んでもらえるよう、発売後のダウンロードコンテンツもかなりのボリュームで用意できたのも大きいかと思います。協力ゲームなので遅れて入ってきた方でもそこで手助けをしてくれる現役でプレーしている方がいるのは重要だと思っています。

――シリーズのタイトルを重ねる中で、次のヒットに向けてどのようなことを考えていますか

辻本: シリーズの新作として、作品自体をステップアップさせるのには何が必要か、ここから考え始めています。あとは、新作を作るときに皆様にどのような「ワクワク感」を提供できるかはポイントとして考えています。

――「ワクワク」とは?

辻本: 新しいタイトルを企画するときには毎回必ずテーマを持って臨みます。そこで考えるのは、ユーザーに次は「どのような仕組み」で遊んでもらうのか、ということです。これまでも新しいタイトルを出すごとに、水の中で行動できるようにしたり、平面だったアクションに高低差を導入したり、より個性のあるアクションを楽しんでいただくためにスタイルを導入したり、それまではできなかった楽しみ方の提案をしてきました。そんな「あれができたらワクワクする」要素であったり、コンセプトはとても大事にします。

[新作を作る時には、ワクワク感を大事にしている」と語る、辻本氏
[新作を作る時には、ワクワク感を大事にしている」と語る、辻本氏

新しい「ワクワク」は、「モンスターに乗って、一緒に行動」

――最新作の『モンスターハンター ストーリーズ』ではどのようなワクワクを用意したのですか

「モンスターハンター」シリーズ初のRPG、『モンスターハンター ストーリーズ』  (C)CAPCOM CO., LTD. 2016 ALL RIGHTS RESERVED.
「モンスターハンター」シリーズ初のRPG、『モンスターハンター ストーリーズ』 (C)CAPCOM CO., LTD. 2016 ALL RIGHTS RESERVED.

辻本: 実は「モンスターハンター」シリーズで一番人気のあるキャラクターは、狩る対象のモンスター達です。『モンスターハンター ストーリーズ』は、このモンスターを題材に、アクションゲームではなくRPGとして企画しました。人気のあるモンスターと行動をともにできるというのは、一つのワクワクですよね。開発中に出来上がってくるイメージイラストや、動きがついたものを見た時には、僕自身「あぁ、モンスターに乗れている!」とワクワクしましたよ。

――RPGにする手応えを感じたのではないですか

辻本: そうですね。自分達が見て、またテストプレーしてワクワクできましたので、ユーザーの皆様にも、楽しんでもらえると自信を持ちました。

――ワクワクしてもらいたいという思い以外に、RPGで企画した意図はありますか

辻本: 「モンスターハンター」は、これまでカプコンが得意としていたアクションゲームとして制作したのですが、シリーズ化を進める中で、「モンスターハンター」に興味はありながら、アクションが苦手でプレーしないという方や、この世界観が好きな方にストーリーもガッツリ感じてもらえるようなものを作りたいという思いがあったんですよ。新たにタイトルを作るのであれば、アクションゲームではなく、別のジャンルで新たな柱を作ろうと。そのため、今回はRPGを採用しました。

多面展開で「モンスターハンター」のキャラクターをフルに生かしたい

――「モンスターハンター」シリーズはこれまでもさまざまなハードウエアの変遷に応じて、作品を提供してきています

辻本: ハードウエアの進化には、ゲームを作りやすくしてくれるという利点があります。それとともに、ユーザー環境の変化というものが、ゲーム開発には大きく影響してきます。例えば、今でこそWi-Fi環境が整備されていますが、少し昔でしたらWi-Fiに対応したゲームを開発しようにも、インフラが整っていないため、困難でした。それが今では実現できる。ハードウエアの進化とともに、それを活用できるような環境が整ってくると、できることの幅が増え、夢が広がります。

――一方で、VR(バーチャルリアリティ)についてはどのようにお考えですか?

辻本: 今僕に具体的なアイデアがあるわけでないですが、夢はあると思います。臨場感をすごく味わえるものなので、ゲームを制作するときには、それに合わせた設計が必要です。ただ、VRはゲームに限らずいろいろな活用ができるはずですよね。プロ野球選手の投げる球を、自分が打席に立って臨んでみたい、という夢を持つ人も多いでしょう。それを実現できるのがVRです。ゲームももちろんそうですが、エンターテインメント全体で活用されていくと思います。

――「モンスターハンター」シリーズはゲームだけではない広がりを見せています。今後についてどのようにお考えでしょうか?

辻本: 「モンスターハンター」はゲームからスタートしたIP(Intellectual Property=知的財産)です。これまでもこのタイトルでいろいろなことにチャレンジしてきました。『モンスターハンター ストーリーズ』では、アクションゲームからRPGへ展開したように、さらに違うジャンルも作り、より広い人達に届けたいという思いもあります。また「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」さんでは、ゲームとして初めて「モンスターハンター」を扱っていただき、2011年以来コラボレーションイベント「モンスターハンター・ザ・リアル」を数回開催しています。テレビでは、『モンスターハンターストーリーズ RIDE ON』というアニメ番組の放送も開始しています。

――これから、どのような新作が登場するのでしょう

辻本:先日発表したのですが、2017年3月18日(土)に、ニンテンドー3DS向けゲーム『モンスターハンターダブルクロス』を発売します。前作『モンスターハンタークロス』にさらに新たな要素をクロスさせた作品です。前作を遊んでいた方は、セーブデータをほぼ引き継いで遊んでいただけます。もちろん、このタイトルから遊んでいただく方にもたっぷり楽しんでいただける内容になっていますので、ご期待ください。また、『モンスターハンター ストーリーズ』とのセーブデータ特典も用意しておりますので、ぜひ両タイトルとも遊んでいただければと思っております。

 それと、ハリウッドで実写版の映画プロジェクトも進めています。詳しくはまだお話できないのですが、順次発表できればと考えています。「モンスターハンター」はゲームとして今後も続いていきます。そしてゲームから発信したIPがどこまでたどり着けるかその限界を追究してみたい。ゲームを軸に「モンスターハンター」をもっと広くアピールすることで、いつしか日本を代表するIPに成長させたいと思っています。トレンドエキスポでは、その辺のことも話せたらなと思っています。

(文/松崎祥悟、写真/シバタススム)

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