小学生のプログラミング教育に親達の熱い視線が注がれている。早期教育の一環として検討する親もいれば、来るべき必修化に向けて先手を打ちたいという親もいるだろう。TREND EXPO TOKYO 2016の登壇に先駆け、小学生向けのプログラミング教育サービスを運営するCA Tech Kidsの代表取締役社長・上野朝大氏に、設立の経緯と同社の目標について聞いた。

上野朝大(うえの・ともひろ)氏<br>CA Tech Kids 代表取締役社長
上野朝大(うえの・ともひろ)氏
CA Tech Kids 代表取締役社長
1987年、大阪府生まれ。立命館大学国際関係学部卒業。2010年、株式会社サイバーエージェント入社。アカウントプランナー、新規事業担当プロデューサーなどを務めたのち、2013年5月サイバーエージェントグループの子会社として株式会社CA Tech Kidsを設立し代表取締役社長に就任。文部科学省「小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力の育成とプログラミング教育に関する有識者会議」委員。2016年4月 政府閣僚と経済界経済界代表との意見交換会合「第5回未来投資に向けた官民対話」に出席

「社長になったのは、真面目そうだからが理由です(笑)」

――CA Tech Kidsの立ち上げの経緯を教えてください。

上野朝大氏(以下、上野): CA Tech Kidsは2013年5月に設立しました。サイバーエージェントに新卒入社した私が、入社4年目を迎えたある日、人事担当役員に呼ばれて「新規事業としてプログラミング教育の子会社を作るから、社長をやってくれ」と任命されたんです。それまではインターネット広告の営業マンや、ウェブサービスのプロデューサーなどの仕事をしていたので、とても驚きました。

――上野さんご自身がプログラマーだったわけではない?

上野: プログラマーでもないですし、教育ビジネスに詳しいというわけでもありませんでした。なぜ自分が選ばれたのか、きちんと聞いたことはないのですが、保護者の方や学校の先生などとお会いすることが多い事業内容なので、「マジメ」と言われることの多い私のキャラクターが合っているのではないか、ということなのかもしれません(笑)。いつか会社経営に携わりたいという希望もあったので、そのような背景も踏まえて、抜擢してもらえたのだと理解しています。

――なぜ、サイバーエージェントはプログラミング教育の事業に乗り出したのでしょうか。

上野: 「インターネット企業であるサイバーエージェントの強みを生かして社会に貢献できる事業を」という経緯で、CSRのような趣旨でスタートしました。中高生向けのプログラミング教育サービスを運営しているライフイズテック社に投資をしていたということもあり、それならばライフイズテックと協業して小学生向けのプログラミング教室を始めたらどうか、と考えたというわけです。

――内容もライフイズテックの手法を応用しているのですか?

上野: 短期集中型講座の「キャンプ」と通学型の「スクール」を展開するという事業モデルや、サービスコンセプトなど、多くの点をライフイズテックから受け継いでいます。ただし、ライフイズテックに通うのが中学生・高校生であるのに対し、CA Tech Kidsの対象は小学生。小学生と中高生では異なる点も多く、カリキュラムや設計など、そのまま同じ内容で進めるというわけにはいきませんでした。

――異なる点というと、具体的には?

上野: 当たり前のことですが、小学生と中学生では、前提となる知識の量や物事の理解力等が大きく異なります。マウスやトラックパッドの操作が難しかったり、テキストの漢字やアルファベットが読めなかったり。特に小学校低学年の場合は、まだまだ幼稚園児と変わらないというお子さんもいますから。

「子どもがテクノロジーに興味を持つきっかけになればいい」

――低学年のお子さんも通っているんですね。

上野: 創業当初は小学校3年生から6年生までが対象でしたが、親御さんからの関心の高まりを受けて、2015年から対象を低学年まで広げました。学年別の割合としては、3、4年生が一番多いですね。

――コースはどんなものがありますか?

上野: 子ども向けの簡単なプログラミング環境「Scratch(スクラッチ)」を使うコースや、大人も楽しめるようなiPhoneアプリを開発するコース等、全部で8つのコースがあります。最近ではマインクラフトのコースも人気が高いです。中には、小学校4年生にしてオリジナルのiPhoneアプリを開発し、App Storeにリリースしてしまう生徒もいます。

――生徒さんはだいたいどれくらいの期間スクールに通うのですか?

上野: Tech Kids Schoolでは1クールを半年間で設定しています。1回の授業は120分と少し長めですが、お子さんたちの集中力が切れている様子はあまり見られません。ゲームをプレーするのと同じように、楽しみながらプログラミングをしてゲーム開発に取り組んでいます。

――プログラミング学習を始めるのは、やはり早ければ早いほうがいい?

上野: 個人的には、「早ければ早いほどいい」とは考えていません。英語のように自然に学んでいくものや、スポーツのように体の発達に伴って上達するものとは違い、プログラミングはロジックの積み重ねですから。「条件分岐」などの概念は、9歳くらいでないと理解するのが難しいという研究もあります。ただ、プログラミングをやってみたい、アプリやゲームを作ってみたいという本人の意欲があるのであれば、何歳であっても早すぎる・遅すぎるということはないと思います。

――小さい子どものほうが、直感的に理解できるというわけではないのですね。

上野: 多くのお子さんは、パソコンなどのIT機器が大好きで、抵抗感がありません。失敗を恐れずにどんどんトライして、失敗して上手くいかなければまたトライして、という積極性があります。そういう部分は、小さいうちからやってみることのメリットの一つだと思います。また、例えば「自分は文系だから」という理由でプログラミングに興味を持たないといったように、子どもも成長して大きくなるにつれ、自分で向き、不向きを決めつけるようになっていきます。そういう意味でも、好奇心が旺盛で何にでも興味を持てるうちにプログラミングに触れてもらうことは、有意義だと思います。また、早い時期にプログラミング技術を身につけるというよりは、「テクノロジーがあれば世界とつながれる」という認識を持つことがなにより大切と思います。

――テクノロジーに興味を持つきっかけづくりになれば、ということですね。

上野: その通りです。我々は子どもたちの「アイデアを実現できる力」を育てることを目標としています。アイデア実現の手段としてテクノロジーがあるということを、キャンプやスクールを通して伝えていきたいと思っています。

(文/樋口可奈子、写真/シバタススム)

上野朝大氏が登壇する「拡大続く、『プログラミング教育』市場――今、なにが起きているのか」に申し込む
この記事をいいね!する