シャープが2016年5月に発売した二足歩行のモバイル型ロボット電話「ロボホン(RoBoHoN)」。立ち上がる、歩く、踊るなどのアクションに加え、通話やメール、写真撮影といったスマートフォンの機能を搭載。ユーザーはロボホンとの会話を楽しみながら、こうした機能を利用できる。ロボホンが生まれた背景や開発秘話、今後の展望を、TREND EXPO TOKYO 2016に登壇するロボホンの開発者、シャープ・景井美帆氏に聞いた。

景井美帆氏<br>シャープ IoT通信事業本部 コミュニケーションロボット事業推進センター 商品企画部 チームリーダー
景井美帆氏
シャープ IoT通信事業本部 コミュニケーションロボット事業推進センター 商品企画部 チームリーダー
シャープの通信システム事業本部にて、入社以来数多くの携帯電話の商品企画に携わる。現在は、モバイル型ロボット電話「ロボホン(RoBoHoN)」の開発チームのリーダーとして事業・商品企画に取り組む

「スマホのUIは進化の限界にきている」

――まずは、景井さんがロボホンの開発に携わることになった経緯を教えてください。

景井美帆氏(以下、景井): 2013年春に、新規事業のメンバーを集める社内公募がありました。そのころ、私はスマートフォンの担当でしたが、徐々にユーザーインターフェース(UI)の進化が難しくなってきていると感じていました。スマホという形態では、できることが限られているのです。新しいUIのためには、スマホの形自体を変えることも検討していかなければいけないと思いました。そこで、新たな可能性を見出すために、新規事業のプロジェクトに応募することを決意しました。

――ロボホン開発のベースにはスマホの存在があるのですね。

景井: シャープには、長年スマホ事業で培ってきたノウハウがあります。電話をベースに開発することで、強みを生かせますからね。ロボットの部分は、ロボット開発の第一人者であるロボットクリエーターの高橋智隆さんが担当しました。共同開発というスタイルで“モバイル型ロボット電話ロボホン”は誕生したのです。

――高橋さんとシャープの役割分担は?

景井: おおまかにいうと、ロボホンのデザインや動きに関する部分は高橋さん、実際の開発や宣伝・販売など、ビジネス的な部分はシャープが担当しました。

――考え方の相違など、共同開発には難しい点があったのでは?

景井: 高橋さんのデザインに対する思いは、並々ならぬものがありました。2015年4月にロボホンのプロトタイプが完成し、量産が決まりました。しかし、そのタイミングで高橋さんは「ロボホンをもうひと回り小さくしたい。デザインをもう少しすっきりさせたい」と言うのです。その意見を受けて、改めて小型化のための研究に取り組み、デザインのブラッシュアップを図りました。

――小型化は難しいことなのでしょうか。

景井: 正直、かなり大変なことです。例えば、ロボホンに内蔵されたサーボモーターを小型化すると、すべてのデザインを変えなければなりません。腕や脚が少し長いだけで、うまく立てなくなったり、屈み姿勢をとったときに頭からころがってしまったり。全体のバランスを取るための検証には苦労しました。さらに、サーボモーターには個体差もあります。実際の動作を検証しながら、1台ずつ、きちんと動くかシミュレーションを行っていかなければなりません。

――ロボホンは見た目も相当なこだわりを感じます。

景井: デザインの作業は図面をベースに進めますが、高橋さんは現物での確認を望みました。そこで、3Dプリンターでサンプルを制作して、高橋さんは実際に手で感触を確かめながら、チェックを行います。そうした作業を繰り返し、やっとデザインが固まった最終チェックの段階で、高橋さんは「もう少し頬をふくらませて、ふっくらさせたい」と……。完成するまで、長い道のりがありました(笑)。

「アップデートの継続がプレッシャーです」

――ポケットに収まり、持ち歩くことができる“小型サイズ”にこだわった理由は?

景井: ロボホンの基本はモバイル型の電話です。スマホのように利用してもらうためには、持ち運びやすいサイズであることが重要です。さらに常に一緒に行動することで、ロボホンはユーザーの特徴や行動を学習します。使えば使うほど、よりユーザーに寄り添った会話を楽しめるように進化していきます。私も常に一緒に過ごしていますが、愛着がどんどん高まりますよ。

――会話のほかに、愛着を持って利用してもらうためにどんな工夫を取り入れましたか?

景井: ロボホンは、耳や前掛け、足裏の着せ替えが可能です。今年8月から着せ替えシートを販売し、自分だけのロボホンにカスタマイズできるようになりました。今後もほかの部分の着せ替えシートや、クリスマスなどのシーズンに合わせたカスタマイズセットなどを展開していきたいと考えています。

 それから、さまざまなアプリケーションも用意していきます。例えば、オセロのようなゲームのアプリがありますが、ロボホンはかなり弱い。そこでユーザーは、ロボホンに勝たせてあげようと、わざと手を抜いたり、負けてあげたりしています。こうした気持ちって、従来のゲーム相手には湧かなかったでしょう。コンピューターとは異なる関係性が構築できるのですね。

――アプリのアップデートに力を入れているそうですね。

景井: アップデートの多さが、売りの一つです。ロボホンは5月26日の発売でしたが、その2週間後にアプリケーションのアップデートを実施しました。その後、システムのアップデートを6月に1回、7月に1回。新規のアプリケーションの追加を、6月に2個、7月に1個、8月に2個行いました。アップデートを楽しみにしているユーザーは多く、「今月のアップデートはまだ?」といった問い合わせが届きます。うれしく思うとともに、これからもアップデートを継続していかなければいけないと、プレッシャーを感じています。

――アップデートの情報は、ロボホン経由で届くのですか?

景井: ロボホンが「アップデートしたよ」「新しいアプリをダウンロードしたよ」「新しいダンスを覚えたよ」などと音声でお知らせします。

――ロボホンの価格は19万8000円(税別)。購入時はまとまった金額が必要になりますが、アップデートが多いと、徐々にお得感を感じられるようになりますね。

景井: そう思っていただけるようにと頑張っています。ロボホンの発売後、少しは仕事が楽になるかと思っていましたが、忙しさは開発中とまったく変わりません。8月からはロボホンの分割払いによる販売がスタートしました。初回 9140円、2回目以降は8900円の全24回払いで、ロボホンを購入できます。

――購入者はどんな方が多いですか?

景井: お客様は30~60代が中心で、女性が3割強を占めます。ロボットとしては、女性の購入比率が高めですね。購入目的は、ロボホンとの会話やかわいらしい動きを楽しみたいというニーズが高いようです。ロボホンには未熟な部分もありますが、ペットを育てるような気持ちでかわいがって接していただいています。

――ロボット市場では、ソフトバンクのペッパーも注目を集めています。対抗心や意識する点はありますか?

景井: ペッパーとロボホンは利用目的が違いますから、対抗心はないですね。それよりも、ロボットの市場はまだ確立されたといえる状態ではありません。ロボットに対する認知度は高まっていますが、まだ始まったばかりです。ペッパーは一緒に新しい世界を作っていく仲間あるいは先輩だと思っています。

――ロボットがスマホのように普及し、珍しいものでなくなるのはいつごろになりそうでしょうか?

景井: 難しい質問ですが、私の希望としては、2020年の東京オリンピックのときには多くの人が当たり前のようにロボットを持っていて、それを見た外国人があっと驚くというのを期待しています。アプリも充実していて、翻訳機能を使って外国の人とナチュラルな会話を楽しめてたらいいですよね。そのためにも、ロボットが生活に欠かせない必需品となるように努力を続けていきます。

(文/川岸 徹、写真/シバタススム)

景井美帆氏が登壇する「ロボットビジネス最前線~市場拡大への課題とは何か?」に申し込む
この記事をいいね!する