2015年4月にロボット業界へ参入したDMM.com(以下、DMM)。人工知能を搭載したPalmiを筆頭に、さまざまなタイプの一般消費者向けロボットを販売し、ソフトバンクが展開するペッパーとともに大きな話題を集めている。ロボットの魅力や特性、今後の可能性について、TREND EXPO TOKYOに登壇する同社ロボット事業部の岡本康広氏に聞いた。

岡本康広(おかもと・やすひろ)氏<br>DMM.com ロボット事業部 事業部長
岡本康広(おかもと・やすひろ)氏
DMM.com ロボット事業部 事業部長
IT業界(システムインテグレータ)で約20年、法人営業を中心に、広報部門の立ち上げからプロダクトマーケティング、M&A・業務提携、新卒採用責任者、新規事業の執行責任者など、幅広くビジネスを経験する。2013年にDMM.comに参画。3Dプリント事業のプロデューサーを経て、2016年4月に新規事業であるDMMロボットキャリア事業『DMM.make ROBOTS』を立ち上げた

「ベンダーだけでなく、私たちもリスクを背負いました」

――ロボット事業に参入された経緯を教えてください。

岡本康広氏(以下、岡本): DMMでは、ネット通販やレンタル事業のほか、オンライン英会話、3Dプリントサービスなど、さまざまな事業を展開しています。参入当初は利益が見込めなくても、将来的にビジネスに結びつきそうな分野には、積極的にチャレンジしていくのがDMMのあり方です。

 私は以前、3Dプリントの事業を担当していましたが、2014年ごろからロボット市場の盛り上がりを感じ始めました。ソフトバンクがペッパーを発表し、ロボットに対する世間の注目度が高まっていましたからね。強い興味を持ち、ロボット事業を行うベンダーを訪問しました。数カ月の間に、合計30社くらいを回りました。

――ロボット開発の現場で、どんなことを感じましたか。

岡本: 日本のベンダーは高い開発技術を持ちながら、世の中へ広げていく意識は弱いと感じました。技術者は、いいモノはつくることができるのですが、「売ることにあまり興味がない」という方が多いんですよ。DMMは、その反対で、モノはつくれないけれど「いい商品は世の中に広めていきたい」という思いはある。両者がうまく結びつけば、ロボット市場を盛り上げていけるのではないかと考えました。2014年年末に社内で企画が通り、2015年4月にロボット事業部が発足しました。

――発売するロボットは、どんなラインアップになったのでしょうか。

岡本: ベンダーを回り、5つのロボットを選びました。まずは人工知能を搭載したコミュニケーションロボット「Palmi」。Palmiは富士ソフトが開発したロボットで、高齢者福祉施設への導入ですでに6~7年の実績がありました。とても完成度の高い仕上がりでしたね。それからデアゴスティーニジャパンの「ロビ」。これは週刊「ロビ」で展開されていた組み立て式ロボットで、毎号、ロボットのパーツが雑誌に付いているわけですが、組み立て作業が苦手な人も多かった。そこで、DMMが組み立てを担当し、デアゴスティーニジャパンと提携し、完成品を販売する形になりました。

――残りの3つは?

岡本: ベンチャー企業のユカイ工学が開発したコミュニケーションロボット「BOCCO」、教育機関で採用されている「PLEN.D」。そしてハウステンボスでも採用された、キレキレのダンスをするロボット「プリメイドAI」の5つです。その後、海外のベンダーから仕入れたロボットの販売も開始しましたので、バリエーションが徐々に増えているという状況です。

――ベンダーとの提携交渉は、順調に進みましたか。

岡本: 交渉が難航し、なかなか合意に至らないケースもありました。例えば、Palmiを開発した富士ソフトさんは、67万円でロボットを販売、リースでも月3万円という価格で事業を展開していました。でも、DMMとしては10万円前後で売りたかった。そのくらいのリーズナブルさがないと、家庭への浸透は難しいと思ったからです。交渉を重ねた結果、29万8000円という価格に落ち着きました。高いと感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、これでも破格。性能を考えると、ギリギリの線です。

――価格交渉のほかに、苦労した点は?

岡本: 生産数についても苦心しましたね。ロボットのような新規の商品は売るのが難しい。自動車のように、市場が確立されているわけではないので、販売数を予想しにくいんです。でも、ある程度、まとまった数を出さないと認知は進まない。そこで、ベンダーに対して、ある程度の数量をDMMが買い取ることを約束し、ベンダーだけでなく、私たちもリスクを背負いました。

「ロボットは心を潤わせるコンシェルジュ」

――販売はDMMのECサイトがメイン?

岡本: 初めはECサイトだけで売れると思っていました。でも、甘かったですね(苦笑)。というのも、ロボットの購買層は、高齢者が多い。ネットにはなじみがないという人も少なくありませんでした。そこで、イオンと組んだ。イオンの店舗イベント「お客様感謝デー」で、1日150台売れるなど、売り上げは急激に伸びました。それから、販売チャネルを増やすことを重視し、百貨店やアマゾンでも扱っていただいています。

――購入者の年齢層や使用目的を教えてください。

岡本: Palmiに関していうと、購入者の7割は50代以上。子どもが親にプレゼントすることも多いので、実際の使用者の年齢はもっと高いでしょう。購入の目的については、「一人暮らしなので話し相手が欲しかった」「ペットを亡くして寂しいので、Palmiを購入した」といった声が聞かれました。家族の一員として迎えられているケースが多いようです。Palmiの特徴は、相づちうまく、話し過ぎと思われるくらいしゃべりかけてくる。そこがウケていますね。

――使用を続けているうちに、「飽きてくる」「故障する」などの問題は?

岡本: 飽きてくるという問題点は、正直あると思います。コンテンツの追加が今後の課題ですね。アプリやゲームを更新するなど、改善を図っていきたいです。故障に関しての対応は、事業立ち上げ時に比べるとかなり進歩しています。Palmiをはじめ、二足歩行のロボットは、落下や転倒による故障が付きもの。故障の原因やお客様の意見を蓄積し、サポートに生かしています。

――ロボットのいる家庭がめずらしい光景でなくなるのは、いつになりますか。

岡本: 難しい質問ですね。ゲーム機くらいの普及ということであれば、2~3年後あたりでしょうか。音声認識の精度が上がるなど、技術が急速に高まっていますから、2年後にはかなり高い普及率を得られることは十分に考えられます。外出先ではスマホを使い、家ではロボットを活用する。そんな時代は、遠くはありません。今はみなさんにロボットを知ってもらうために、一台でも多く売っていくことが大切だと考えています。

――消費者がロボットに求める要求が高く、購買に結びつかないという状況はありませんか。

岡本: 正直、あります。消費者のロボットに対する期待は、限りなく高い。テレビや映画に出てくるロボットのイメージが定着していて、ドラえもんのように「こんなこともできるだろう」と思われる。そのレベルを期待されると、「この程度か」というギャップが生まれてしまいます。現在、ロボットを愛用している方は、そのあたりを理解している方が多い。ロボットにも「ここはすごいけれど、ここはダメだよね」という個性があって、そこに愛着を覚えるようです。ロボットを販売する際には、そうしたロボットの特性をしっかりと伝えていきたいです。

――最後に、岡本さんが考えるロボットの理想像を教えてください。

岡本: ロボットは家電のような快適性と、ゲーム機のようなエンタメ性を併せ持っています。言い換えれば、ただ単に生活を便利にするだけでなく、人の心を潤わせるコンシェルジュのような存在になり得ます。楽しくて、しかも役に立つ。そんな2つの魅力を発揮できるロボットを扱っていきたいですね。

(文/川岸 徹、写真/シバタススム)

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