勝手に小さなマーケットを設定することで勝つ

小口: ニッチの市場といっても、そう簡単には見つけられないのでは。

井下: 大きなマーケットは、小さく切り刻むことで新しく市場を設定します。たとえば、「mosh!(モッシュ)」です。

小口: 牛乳瓶のような形で、InstagramをはじめSNSでバズったステンレスボトルですね。

井下: これは発売してから1年10カ月で約80万個売れました。ステンレスボトルの市場は大きく、上からサーモスさん、象印さん、タイガーさん、ピーコックさんの4社がひしめいている。この市場で、この4社に真っ向から戦うのは、われわれのニッチ戦略ではありません。そこで、「デザインボトル」というカテゴリーを勝手に設定して、そのマーケットで日本一を目指したのです。

小口: “ない市場”を作るというニッチ戦略。意識高い言い方だと、市場の創造ですね。

井下: また、かつて自宅をクリスマスイルミネーションで飾るブームがありましたが、あれも我々が仕掛けたものです。2003年から2010年にかけては、家庭の電飾の圧倒的ナンバーワンでした。

小口: テレビでも多く取り上げられましたし、うちの近所にもすごい家がありました。あれも、昔は“ない市場”でした。どのように仕掛けたんですか?

井下: 最初の頃は、こう組み合わせるとキレイに見えますよというレシピを作って配布していました。さらにイルミネーションコンテストを実施して、昼間と夜の写真を撮って送ってもらい、表彰しました。かなり多くの応募がありまして、実はその写真が次の商品開発に役立ったんですよ。

小口: あっ、なるほど。それがご近所や街ぐるみでやるほどのブームへと。

井下: その当時は、クリスマスはドウシシャの見本市と言われるぐらいの時代です。今はLEDに代わりましたけど、ミニ球も自社工場で作っていました。ただ、このブームは東日本大震災をきっかけに一気に収束しました。

小口: 幅広く手がけているので、ひとつのブームが終わっても屋台骨は揺るがない。かき氷器といい、クリスマス用品といい、季節ものを得意としているのですか。

井下: シーズン品は、通年で売られている商品よりもインパクトがある開発ができると思っています。というのも、年中置いている商品は市場にアイデアが枯渇しがちですが、シーズン品は担当者がそのシーズンが終わった後も考え続けるので、面白いアイデアが浮かびやすい。担当者には、年中その商品のことを考えろと言っています。画期的なアイデアは年中そのことを考えている人間からしか出てきませんから。

小口: スターアイデアマンがいるというよりも、社員が皆アイデアマン?

井下: 基本的に専門家はいません。担当はちょくちょく変わりますし。かき氷の担当がビアサーバーの担当になれば、素人からのスタートです。昔のものづくりはプロフェッショナルの世界で、その道一筋の人でなければできなかった。今は新卒の営業社員でも、いいと思ったら引っ張ってくる。ただし、ものづくりは興味のない人はダメです。興味がある、好きという姿勢が大事ですね。

【意識低い系ポイント】「基本的に専門家はいません。担当はちょくちょく変わりますし。かき氷の担当がビアサーバーの担当になれば、素人からのスタートです」
素人目線こそ意識低い系マーケティングを実践するのには重要。
「mosh!(モッシュ)」牛乳瓶のような形状がかわいく、Instagramなどで写真が拡散。韓国でもブームに
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まとめ
 大手メーカーがひしめくメジャーな分野は苦手という発言にもあったように、うまくニッチな市場を見つけたり、あるいは作ったりするのが得意なドウシシャ。「大手にはないデザイン性の高さで勝負」などと、メジャーな分野で大手メーカーに挑む会社もあるが、そもそもメジャーな分野というのは、価格競争がはびこる世界であり、意識高い系のマーケティングは失敗することが多い。ドウシシャは、この点をしっかり分かっていると感じた。

 ニッチ市場は季節モノの業界にあるというのもマーケティングのヒントになるだろう。大きい市場は切り刻んで、つまりセグメンテーションしてニッチ市場を作り出すというのもマーケティング的には興味深い。デザインボトルというセグメンテーションされた市場については、一見意識が高そうだが、実際には牛乳瓶をモチーフにするなど、万人に受け入れられる意識低い系の考え方が使われている。

(ドウシシャの秘密[2]に続く)

小口覺(おぐち・さとる)

IT&家電ライター・コラムニスト。SNSなどで自慢される家電製品を「ドヤ家電」と命名し、日経MJ発表の「2016年上期ヒット商品番付」前頭に選定された。現在は「意識低い系マーケティング」を提唱中。