独自の顧客構造を設計

 マーケティング戦略の根幹は、「サービス企画部で開発するアプリを軸に顧客との直接の接点を構築する」という考え。その理由を光田氏は「魅力的な商業施設が開業するたびに、新しい施設へと消費者は移り変わっていく。そんな、ほかの施設に浮気しがちな顧客を引き止めたり、帰ってきてもらうには、しっかりとした関係性を構築しなければならないから」と説明する。

 このマーケティング課題を解決するために、ギンザシックスではCRM(顧客関係管理)施策を、従来の百貨店事業のやり方を踏襲せず、新たに設計した。「百貨店はどこも、ポイントカードや外商カード、クレジットカードなど、たくさんの種類のカードを発行している。そのため顧客構造が分かりにくくなっている。データも分散化しているため、(従来型の百貨店のクレジットカードは)CRM用途には使いにくい」(光田氏)。そのためギンザシックスでは、従来型百貨店の轍を踏まないよう、「(親会社である)J.フロントリテイリングからも、サービスとツールの整合性が取れた新たな顧客構造を設計するよう求められた」(光田氏)という。

 実際、ギンザシックスのロイヤリティープログラムは、非常に明快な構造になっている。顧客のステージは年間購入額で3段階あるだけ。100万円以下の「ブロンズステージ」、100万円以上300万円未満の「プラチナステージ」、300万円以上の「ダイヤモンドステージ」である。ステージが上がると、駐車場を無料利用できる時間が延びるなどの優遇が受けられる。最上位のダイヤモンドステージでは、5階に設けられたラウンジを利用できる。

 このように顧客の構造を明確にする一方、会員のすそ野は広げる。その中核を担うのが「アプリ」だ。来館者はアプリをダウンロードして会員登録するだけで、一定のサービスを受けられる。まずはポイントプログラム。アプリには一人ひとり異なるバーコードを表示する機能があり、商品購入時にアプリを提示するだけでポイントがたまる。

アプリがポイントカード代わりになる
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 一方で、無料発行するポイントカードは用意していない。その理由は想定している顧客層にある。「百貨店は一部の優良顧客によって支えられている。一方、ギンザシックスは外国人観光客なども含めて、来店回数が年に数回の顧客をどれだけ作れるかが重要になる」(光田氏)。これだけさまざまなカードがあふれている時代に、年数回しか来館しない施設のポイントカードを常に財布に入れて携帯してもらうことは難しい。

 アプリであれば、普段は使わなくても、物理的に財布を圧迫するようなことはないため、ポイントカードをアプリ化することが、ギンザシックスの顧客に広く利用してもらうには最適、と判断した。そしてアプリの登録情報にひも付く形で、どういった店で買物をしているかをデータとして蓄積する。この情報に基づき、それぞれの顧客の趣味嗜好に合わせて、パーソナライズした情報発信に活用していく。

 アプリにはほかにも、便利にギンザシックスを利用するための機能が多数、盛り込まれている。「レストラン予約」機能はギンザシックス内のレストランをアプリから予約できるもの。駐車場の空き情報もアプリに配信していく。アプリから、来店する前に混雑状況を把握できる。

 こうした機能はあくまでギンザシックスの利用を想定した機能だが、ギンザシックスの外でも利用できる機能も用意した。それが「MAGAZINE」機能だ。グライダーアソシエイツ(東京都港区)が提供するキュレーションメディア「antenna」と連携し、antennaの記事がギンザシックスアプリでも読める。銀座に関する情報はもちろん、ファッションやライフスタイルに関するさまざまなコンテンツが配信される。こうした情報も充実させ、店舗外でもアプリを利用してもらうことでブランドとの接点の拡大を狙っている。

「antenna」と連携してコンテンツを配信
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