2017年4月20日、銀座最大の商業施設「ギンザシックス」がついに開業。専門誌3誌による視点を交え、その全貌を徹底解剖する。(関連記事「銀座最大の商業施設「ギンザシックス」の見どころは? 」「ギンザシックスの飲食はマニアックな“日本初”だらけ 」「ギンザシックス開業で銀座の人の流れは変わるか 」「「ギンザシックス」がポイントカードを発行しないワケ 」)

 J.フロント リテイリングと森ビル、Lキャタルトン リアルエステート、住友商事の4社は2017年4月20日、東京・銀座に商業施設「GINZA SIX(ギンザ シックス)」を開業する。以前にあった松坂屋銀座店の建て替えだけでなく、周辺を含む2ブロック(敷地面積9080平方メートル)を統合した再開発により、銀座地区では最大規模の約4万7000平方メートルの商業エリアを備える大規模な施設に生まれ変わった。

 地下3階から13階まであり、地下2階から6階までと13階の一部には合計で241の世界的なブランド企業が出店。地下3階には伝統芸能の拠点としての「観世能楽堂」があり、1階にはインバウンド需要を狙った観光バスの乗降所や観光案内所を設置した。7階から12階と13階の一部フロアはオフィスとして賃貸。屋上は面積が約4000平方メートルの庭園になっている。

 ギンザシックスの狙いは、日本だけでなく「世界のGINZA(銀座)」のアイコンとして、ここにしかないもの、ここでしか味わえない体験を提案して、銀座から世界に発信していくことにあるという。そこで商業施設でありながら、日本の「アート」を強く打ち出すことで、世界に向けて存在感を高めようとしている。

 元々、銀座は数多くの画廊があり、以前からアートのイメージが強かったという。そこで世界的に著名なデザイナーに外観や内部のデザインを依頼したほか、東京・六本木の森美術館の監修で館内フロアにはさまざまな日本人アーティストの作品を展示。来店客はアートに囲まれながら過ごせる。海外からの顧客も、日本人アーティストの作品を目にして、新たな感動を覚えるかもしれない。

 世界に引けを取らない一流の商品やサービス、そしてアートにより、ワンランク上のライフスタイルを実現できるようにするため、ギンザシックスはどのようにデザインされ、どんなアート作品があるのか、その一部を見てみよう。

外観は谷口建築設計研究所の谷口吉生氏が基本設計とデザインを担当し、「のれん」「ひさし」をイメージした(写真:名児耶 洋、以下同じ) 
外観は谷口建築設計研究所の谷口吉生氏が基本設計とデザインを担当し、「のれん」「ひさし」をイメージした(写真:名児耶 洋、以下同じ) 

「のれん」や「ひさし」をイメージした外観

 外観を設計したのは、谷口建築設計研究所の谷口吉生氏。基本設計と外観のデザインを担当し、鹿島建設と協働して設計した。谷口氏は丹下健三氏の下で経験を積み、東京国立博物館の法隆寺宝物館やニューヨーク近代美術館、京都国立博物館の平成知新館などを手がけてきた。ギンザシックスの外観で特徴的な点はファサードの「ひさし」と「のれん」をイメージしたデザインだ。いずれも古くからの日本の商業施設らしい伝統的な形式といえる。将来、店舗や流行が変化した場合にも、のれんを掛け替えることですぐに対応でき、新しいイメージに変えることができるという。

 内部の商業施設では、キュリオシティのグエナエル・ニコラ氏が共用部分のデザインを担当した。店内に入ると2階から5階まで巨大な吹き抜け空間があり、その周囲を通路やエスカレーターが囲む格好だ。天井の明かりには和紙が施され、日本の障子をイメージした柔らかい光が放たれている。吹き抜け空間の周囲は各階とも格子をイメージしたデザインになっており、格子の一部は各階を斜めに横切るようにした。このため吹き抜け空間を下から見上げると、まるで「らせん」のようにぐるぐると回って、天井に向かって進んでいるようだ。

 「ギンザシックスが持つ強力なエネルギーを外に向けて発信したいと思い、共用部分をエネルギーの渦巻きが吹き抜ける格好にしたかった。風水の考え方も参考にしながら、パワフルなデザインに仕立て上げた」とニコラ氏は言う。このほか、共用部分は銀座や京都にあるような路地をイメージし、メーンの通路から枝分かれするような小さな通路もつくることで、「その角を曲がれば何があるのだろうと思わせるように演出し、街をそぞろ歩きする楽しみが生まれるようにした」(ニコラ氏)。共用部分に設置する椅子も、内部に合わせて新たにデザインしている。入り口も巨大な「行燈」をイメージしているなど、「和」の良さを生かした空間つくりにこだわったという。

商業施設の共用部分は、キュリオシティのグエナエル・ニコラ氏がデザイン。天井に向かって「らせん」のようにぐるぐると回り、ギンザシックスのエネルギーを発信しているイメージ。天井には日本人アーティストの草間彌生氏による巨大な「カボチャ」が期間限定で展示されている
商業施設の共用部分は、キュリオシティのグエナエル・ニコラ氏がデザイン。天井に向かって「らせん」のようにぐるぐると回り、ギンザシックスのエネルギーを発信しているイメージ。天井には日本人アーティストの草間彌生氏による巨大な「カボチャ」が期間限定で展示されている
「風水の考え方も参考にしながらデザインに仕立てた」とニコラ氏
「風水の考え方も参考にしながらデザインに仕立てた」とニコラ氏
共用部分に設置する椅子も、内部に合わせてニコラ氏が新たにデザイン
共用部分に設置する椅子も、内部に合わせてニコラ氏が新たにデザイン

パブリックアートの「場」に

 吹き抜け部分などの共用部分は、森美術館の館長である南條史生氏の監修による、現代アートの巨大な展示空間にもなっている。オープニング展示は、世界的に知られる日本人アーティストの草間彌生氏によるインスタレーションで、2018年2月25日まで展示する。白地に赤いドットが入った巨大なカボチャをイメージさせる作品で、合計14個が3種類の異なるサイズのバルーンでつくられた。あたかも、吹き抜け空間を彩るシャンデリアのように天井から吊るされている。

 このほか、堂本右美氏の絵画作品「民」や、大巻伸嗣氏の彫刻「Echos Infinity-Immortal Flowers-」、船井美佐氏の鏡を使った作品「楽園/境界/肖像画」が通路やエレベーターホールに常設展示されている。堂本氏の「民」では、躍動感ある「かたち」が表現され、背景色との対比によって奥行きのある広大な空間の広がりを感じさせるもの。開放的で無限のような空間に誘われそうな印象だ。大巻氏の彫刻「Eohos Infinity-Immortal Flowers-」は江戸小紋の柄である朝顔や桔梗、菊の花や蝶の形を組み合わせたもの。江戸時代の美意識の象徴を表現している。船井氏の「楽園/境界/肖像画」は楽園と境界がテーマで、鏡を使うことで現実と絵画の空間を交差させようとした。絵の前に立つと絵の中に映り込み、見ている人が絵の主役になるわけだ。

 そのほか、内部の2カ所には高さ約12メートルの壁面(リビングウォール)に、対となる2つのアート作品を展示した。一方は、植物学者兼アーティストのパトリック・ブラン氏による、日本に生息する固有種の植物を織り交ぜたアート作品。もう一方は、猪子寿之氏が代表を務めるチームラボによるデジタルクリエーションのアート作品である。共通のコンセプトは「“Life Circulation”生命の循環」でスペースコンポーザーであるジェイ・ティー・キュー(JTQ)の谷川じゅんじ代表がプロデュースした。本物の植物を使った自然と、LEDによる“自然”を対にすることで新たな表現に挑んだ。ブラン氏の作品「Living Canyon」は、土を使用しない垂直な平面を生きた植物で覆った。太陽の光に照らされた崖の頂上から、影に覆われた深い谷底を表現している。どんな環境下でも多様な植物が生息している状況を通じて、「美」「創造力」などを表現。チームラボの「Universe of Water Particles on the Living Wall」は、滝の様子を物理的な水の運動を計算したシミュレーションで表している。時間とともに色合いを変える仕掛けも施した。

共用部分に飾られている、堂本右美氏の絵画作品「民」。森美術館の館長である南條史生氏の監修による(写真左)
共用部分に飾られている、堂本右美氏の絵画作品「民」。森美術館の館長である南條史生氏の監修による(写真左)
大巻伸嗣氏の彫刻「Echos Infinity-Immortal Flowers-」は江戸小紋の柄である朝顔や桔梗、菊の花や蝶の形を組み合わせたもの
大巻伸嗣氏の彫刻「Echos Infinity-Immortal Flowers-」は江戸小紋の柄である朝顔や桔梗、菊の花や蝶の形を組み合わせたもの
船井美佐氏の「楽園/境界/肖像画」は、絵の前に立つと絵の中に映り込み、見ている人が絵の主役になる
船井美佐氏の「楽園/境界/肖像画」は、絵の前に立つと絵の中に映り込み、見ている人が絵の主役になる
高さ約12メートルの壁面に、対となる2つのアート作品を展示。写真は、植物学者兼アーティストのパトリック・ブラン氏による、日本に生息する固有種の本物の植物を織り交ぜたアート作品
高さ約12メートルの壁面に、対となる2つのアート作品を展示。写真は、植物学者兼アーティストのパトリック・ブラン氏による、日本に生息する固有種の本物の植物を織り交ぜたアート作品
もう一方は、猪子寿之氏が代表を務めるチームラボによるデジタルクリエーションのアート作品で、滝の様子を物理的な水の運動を計算したシミュレーションで表している
もう一方は、猪子寿之氏が代表を務めるチームラボによるデジタルクリエーションのアート作品で、滝の様子を物理的な水の運動を計算したシミュレーションで表している
(左から)チームラボの猪子寿之氏、JTQの谷川じゅんじ氏、パトリック・ブラン氏
(左から)チームラボの猪子寿之氏、JTQの谷川じゅんじ氏、パトリック・ブラン氏

特別な顧客のためのラウンジも

 内部では、特別な顧客のためのラウンジ「LOUNGE SIX(ラウンジ シックス)」も、全体がアート空間といえそうだ。新素材研究所の杉本博司氏と榊田倫之氏がデザインを手がけており、内部を穏やかな明かりや木の素材を生かしたつくりにすることで、伝統的な「和」の空間をイメージさせている。

 さらに屋上庭園はランドスケープアーキテクトの宮城俊作氏が設計した。都会の中で自然を身近に感じられる環境を表現。桜や紅葉といった四季を彩る樹木を配置したほか、屋上の床面に水が流れる仕掛けもあり、木々を愛でながら静かな水音が聞こえる。銀座を訪れた人がゆったりと交流する憩いの場として使えそうだ。シーズンに合わせたイベントの実施も予定しているという。

特別な顧客のためのラウンジ「LOUNGE SIX(ラウンジ シックス)」のデザインは新素材研究所が手がけた
特別な顧客のためのラウンジ「LOUNGE SIX(ラウンジ シックス)」のデザインは新素材研究所が手がけた
穏やかな明かりや木の素材を生かしたつくりにすることで、伝統的な「和」の空間をイメージ
穏やかな明かりや木の素材を生かしたつくりにすることで、伝統的な「和」の空間をイメージ
LOUNGE SIXのデザインを手がけた新素材研究所の榊田倫之氏
LOUNGE SIXのデザインを手がけた新素材研究所の榊田倫之氏
屋上庭園では、四季の木々とともに、床面を流れる水音が心地良い気分にさせる
屋上庭園では、四季の木々とともに、床面を流れる水音が心地良い気分にさせる
屋上庭園を設計したランドスケープアーキテクトの宮城俊作氏
屋上庭園を設計したランドスケープアーキテクトの宮城俊作氏

(文/大山繁樹=日経デザイン)

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