舛岡さんが我々に“遊び場”を作ってくれた

 一方で、舛岡さんは、開発メンバーの中に、皆を鼓舞する「まとめ役」も配していた。また、チームの中に自分が叱りやすい「怒られ役」も置き、その部下を通じて自身の考えをほかのメンバーに伝えていたという。各メンバーの個性や性格を見極め、自分も含めたお互いの弱点や苦手な部分を補い、長所を生かすマネジメントをしていたのだ。その結果、それぞれの「個性」とチームとしての「結束」が同時に保たれていたという。

 舛岡さん自身も強すぎる個性ゆえに、東芝社内では毀誉褒貶(きよほうへん)、相半ばする人物と見られていた。周囲から誤解されることも多かったが、研究開発の実務は信頼する部下に一任し、自身は上司としてマネジメントに徹していた。

 フラッシュメモリの開発は当時、社内では冷ややかに見られていたが、舛岡さんは研究費を調達するため、自らほかの部署に直談判に行った。さらには、有望な人材の採用や新人教育にも力を注いだ。部下には国際学会誌への論文投稿を促し、見事、掲載された際は、その論文を職場の壁に飾った。いつしか壁は、部下たちの論文で埋め尽くされた。

 なぜ、フラッシュメモリは東芝から生まれたのか――。フラッシュメモリの開発メンバーの1人、作井康司さんはしみじみと語った。

「舛岡さんが我々に、フラッシュメモリの研究開発という“遊び場”を作ってくれた」

 当時の開発メンバーの強いモチベーション、ワクワク感、自主性、創意工夫などが、“遊び場”という一語に表れていた。私は今回、取材を深めれば深めるほど「フラッシュメモリが約30年前、東芝から生まれたのは必然だった」と強く感じた。

 こうした成功例は、コンテンツ業界にも当てはめられるだろう。前回のコラム「『ディレクター』と『プロデューサー』の違いって?」で私は、テレビ界においてプロデューサーがマネジメントの域を超え、ディレクションにまで介入する現状を憂えたが、そうした形から生み出されたものは結局、“そこそこ”のものにしかならないのだ。

 「現場の人間が前のめりで取り組む状況をいかに作れるか」が、本来あるべきプロデュースやマネジメントの形であり、そうした中から革新的な作品が生まれるのである。




『ブレイブ 勇敢なる者』第3弾 「硬骨エンジニア」
11/23(木・祝)23:00~23:49(NHK総合)

[画像のクリックで拡大表示]

※上記の放送に先立ち、過去の『ブレイブ 勇敢なる者』の一挙アンコール放送も決定!

『ブレイブ 勇敢なる者』第2弾 「えん罪弁護士」
11/19(日)※土曜深夜 1:20~2:09(NHK総合)

『ブレイブ 勇敢なる者』第1弾 「Mr.トルネード~気象学で世界を救った男~」
11/19(日)※土曜深夜 2:10~2:59(NHK総合)



佐々木 健一(ささき・けんいち)

1977年、札幌生まれ。早大卒業後、NHKエデュケーショナル入社。ディレクターとして『ブレイブ 勇敢なる者』「Mr.トルネード」「えん罪弁護士」などの特別番組を企画・制作。NHK以外でも『ヒューマン・コード』(フジテレビ)を企画・制作。『ケンボー先生と山田先生』で第30回ATP賞最優秀賞、第40回放送文化基金賞優秀賞、『哲子の部屋』で第31回ATP賞優秀賞、『Dr.MITSUYA』で米国際フィルム・ビデオ祭 2016ドキュメンタリー部門シルバースクリーン賞、「Mr.トルネード」で科学ジャーナリスト賞2017、「えん罪弁護士」で第54回ギャラクシー賞選奨、第33回ATP賞奨励賞を受賞。『辞書になった男』(文藝春秋)で第62回日本エッセイストクラブ賞を受賞。最新刊は『神は背番号に宿る』(新潮社)、『Mr.トルネード』(文藝春秋)。詳しくはインタビュー記事「『辞書』から『えん罪』まで ドキュメンタリー界の“異端児”佐々木健一とは何者か?」 「ベッキーの『勘』、清水富美加の『才』 異能のテレビマンを驚かせた『ふたりの天性』」 を参照。