『哲子の部屋』『ブレイブ 勇敢なる者「硬骨エンジニア」』など、独自の切り口のテレビ番組を企画・制作するNHKエデュケーショナルの佐々木健一氏が展開するコンテンツ論の第29回。今回は佐々木氏が企画・制作したNHKのドキュメンタリー特番『ブレイブ 勇敢なる者』シリーズ第2弾「えん罪弁護士」に登場する今村核弁護士の“本当のすごさ”について。

 今年4月にオンエアし、大きな反響を呼んだBS1スペシャル『ブレイブ 勇敢なる者』シリーズ第2弾「えん罪弁護士・完全版」。放送後にいただいた感想で特に言及されたのが、番組の主人公・今村核(いまむら・かく)弁護士の書斎を映したシーンについてだった。

 「まあ、可哀想な本は、いくつかあるんですけども……」

 まるで我が子を慈しむように、弁護士を志した頃に貪(むさぼ)るように読んだ刑事司法に関する愛読書を手に取る。背表紙ははがれ、テープでつぎはぎだらけの修復が施されている。めくると、バラバラと崩れるようにページが解(ほつ)れた。

 「一生懸命に読むと、こんな感じでボロボロになっていくんですよ。ああ、本当に憐れ、憐れ、憐れ……。もう、形を成してないでしょ?」

 有罪率99.9%という日本の刑事裁判。無罪は約1000件に1件という中で、今村弁護士はこれまでに無罪判決を14件勝ち取ってきた。その並外れた実績を生んだ地道な努力が垣間見えるシーンだった。

 しかし、類い稀(まれ)な弁護士の“本当のすごさ”は、別な部分にある。彼はハッキリとこう断言した。

 「弁護士って一応、法律の専門家とされてますが、重要なのは有罪か無罪かという事実認定なので、法知識なんてほとんど関係ないんですよ。そりゃ、法律を知らないと法廷で馬鹿にされて勝負になりませんから、最低限、勉強もしますけど、本当の勝負ってそこじゃないから。知識として法律だけを知っていても勝てないんですよ」

 弁護士が自ら「法知識だけでは無罪にならない」と言い切っていた。ふと本棚を見ると、確かにそこには、司法関連の本よりもむしろ「人間科学」や「自然科学」に関する種々雑多な書籍が並んでいる。それには訳があった。

 「こと、えん罪弁護に関しては、実は“雑学”がすごく重要なんです。言い換えれば、科学的知識。供述や物証の評価とか、心理学とか、ありとあらゆる科学分野の知識が必要だし、何よりものの見方が科学的じゃないといけないので」

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