「こんなに面白い作品が“0円”で見られるなんて!」

 驚いた。ドラマの話だ。日本のドラマではない。米国のドラマ『MR.ROBOT』の話である。第73回ゴールデングローブ賞の作品賞(ドラマ部門)も受賞したこの作品は、日本では2015年からAmazonの動画配信サービス「プライム・ビデオ」で配信されている(配信から2年後の今年3月にようやくDVDレンタル・販売も開始)。

 「え? そんなドラマ、知らない」という方は、だまされたと思って試しに見たほうがいい。Amazonプライム会員ならタダで見られる。あまりの面白さに、電車の移動中ですらスマホで続きを見たくなるほどだ。

 自己紹介の前に、つい面白いドラマの押し売りを始めてしまった。私は主にNHKのドキュメンタリーや情報バラエティーの特別番組を制作しているテレビディレクターで、出家騒動で話題になった女優・清水富美加さんが出演していた哲学番組『哲子の部屋』、最近では『ブレイブ 勇敢なる者』という不定期のドキュメンタリー特番で第1弾「Mr.トルネード」、第2弾「えん罪弁護士」を自ら企画し、構成・演出した。過去には、民放のフジテレビで放送された『ヒューマン・コード』という特番を企画・制作したこともある。

 と言っても、どれも有名なレギュラー番組ではないので、知らない方が多いだろう。テレビ業界に入って早16年。思えば、高視聴率とは無縁の道を歩んできた。それでも、江頭2:50さんが掲げるモットーと同じく、「1クールのレギュラーより1回の伝説」という気概で、たまたま番組を見てくれた人に“刺さるもの”を作ろうと心がけてきた。

 そんな私はある日、「どうせタダなんだし」という軽い気持ちで『MR.ROBOT』を見た。だが、そのクオリティーは凄まじかった。優れたエンターテインメント作品であるだけでなく、現代社会を鋭く風刺する作品でもあった。それを0円で見られるという衝撃――。

 プライム・ビデオの視聴は、正確には0円ではない。年会費3900円を払った会員特典だ。会員は、100万曲以上聴き放題の音楽サービス「プライム・ミュージック」も利用できる。えげつない囲い込み作戦である。そもそも私が会員になったのは仕事柄、「お急ぎ便」を利用するためであって、0円で動画や音楽を楽しむことを期待していたわけではない。

 たまたま見た『MR.ROBOT』に感嘆しながらも、テレビ屋である私は、ある不安に襲われた。

「近い将来、テレビはこんな作品と同じ土俵に上がるのか」

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