制作者の著作権を尊重することが良質な作品を生む

 アメリカでは1970年代に制作会社が手がけた番組の所有権を3大ネットワークが取得することを禁止するルールなどが定められた。イギリスでも放送局の優先的地位の濫用を防ぎ、番組の著作権は基本的に制作プロダクションに帰属するというガイドラインが定められた。フランスでは、法律によって放送収入の一部が制作者に還元される仕組みができている。

 制作プロダクション「テレビマンユニオン」の重延浩氏は、ATP(全日本テレビ番組製作社連盟)の副理事長を務めていた当時、テレビ番組の著作権に関する国際調査を行った。そして、日本のテレビ業界の特異性に気がついたという。

 「すぐに理解したことは、日本のテレビジョンは放送局を主体としたまま、放送局が権利の運用を主導しているという後進的実態と、制作プロダクションが当然の権利の保有を強く主張していないという実態だった」
(『テレビジョンは状況である―劇的テレビマンユニオン史』重延浩著/岩波書店)

 民放・NHK問わず、現在、放送されている番組の過半数以上は、実は外部の制作プロダクションやフリーの番組制作者が手がけている。だが、日本では、作られた番組の著作権は放送局が保持するのが通例で、DVD化や海外販売などの二次展開の収益も、ほとんどが権利者である放送局のものとなる。つまり、実際に汗をかいた制作当事者には還元されない形になっているのだ。

 すると、番組制作会社やクリエイターは、手間をかけてクオリティーの高い番組を作っても、次から次へと新作を作り続けない限りは収益が上がらなくなる。また、少しでも利益を上げるには、限られた予算を切り詰めるという発想になる。取材に十分な予算をかけず、スタッフは無理をし、演出も挑戦的なことは避けるようになっていく。その結果、現場は疲弊し、面白いコンテンツも生まれなくなるのだ。

 前述の元ATP副理事長の重延浩氏は、番組の著作権のあり方を国際標準の形にするべく尽力された。各放送局との交渉の中で彼は、「放送の免許を受けた制作発注者が、最初からコンテンツの権利を保持できるというのはありえない」と述べたという。著書にその時のやり取りが記されていた。

 「たとえ制作費を支払ったとしても著作権は保有できない。著作権は制作し、制作責任を持つ者に自動的に派生する権利である。放送局は放送する内容上の責任を持っているから、著作権の権利に関わっているという意見もあった。私は反対した。その意見は免許を持つ放送局は法的にみな著作権を保有できるということか。それがほんとうに著作権法の理念なのか。放送局が放送内容の責任を持つのは、公共的責任としての責任であって、制作上の責任とは分離されるべきである」
(『テレビジョンは状況である―劇的テレビマンユニオン史』重延浩著/岩波書店)

 こうした先人の働きかけによって、昨今は日本のテレビ番組でも「製作・著作」に制作プロダクション名が併記されるケースが増えてきた。だが、欧米の先進国の実状には到底、追いついてはいない。

 一方で、Netflixなど動画配信サービスは、コンテンツの独占配信権は求めるが、一定期間を過ぎれば、二次利用の権利は制作プロダクションのものとする契約を結んでいる。  いいものを作り、ヒットした場合、制作した当事者に利益が還元されるのなら、クリエイターは「よりいいものを作ろう」という気になる。そうして良質なコンテンツが生まれれば、結果的に両者が得をする。そのことを新興の動画配信サービスはよく理解している。だから、映画やアニメ業界の優秀なクリエイターが、次々と動画配信サービスのほうへ流れていっているのだ。

 番組の権利の問題は、単なる利益還元の問題に留まらず、業界全体が活性化するかどうかにも関わるきわめて重要な問題だ。5年先、10年先の将来を見据え、番組の作り手である制作プロダクションやクリエイターが真の力を発揮し、報われる形にならなければ、テレビ業界は益々、コンテンツの時代に存在感を失っていくことになるだろう。

佐々木 健一(ささき・けんいち)

1977年、札幌生まれ。早大卒業後、NHKエデュケーショナル入社。ディレクターとして『ブレイブ 勇敢なる者』シリーズ(NHK)、『ヒューマン・コード』(フジテレビ)などの特別番組を企画・制作。『ケンボー先生と山田先生』で第30回ATP賞最優秀賞、第40回放送文化基金賞優秀賞、『哲子の部屋』で第31回ATP賞優秀賞、『Dr.MITSUYA』で米国際フィルム・ビデオ祭 2016ドキュメンタリー部門シルバースクリーン賞、『Mr.トルネード』で科学ジャーナリスト賞2017、『えん罪弁護士』で第54回ギャラクシー賞選奨などを受賞。書籍では『辞書になった男』(文藝春秋)で第62回日本エッセイストクラブ賞、『神は背番号に宿る』(新潮社)で第28回ミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞。最新刊は『Mr.トルネード』(文藝春秋)。詳しくはインタビュー記事「『辞書』から『えん罪』まで ドキュメンタリー界の“異端児”佐々木健一とは何者か?」 「ベッキーの『勘』、清水富美加の『才』 異能のテレビマンを驚かせた『ふたりの天性』」 を参照。