『哲子の部屋』『ブレイブ 勇敢なる者「Mr.トルネード」「えん罪弁護士」「硬骨エンジニア」』など、独自の切り口のテレビ番組を企画・制作するNHKエデュケーショナルの佐々木健一氏が展開するコンテンツ論の第19回。

 「アメリカよ、これが“日本人”だ。ラーメンだ!」

 そう快哉を叫びたくなる映画だった。2018年1月27日からシネマート新宿などで上映されているドキュメンタリー作品『ラーメンヘッズ』(監督:重乃康紀、製作:ネツゲン)。2013年から「TRY(東京ラーメン・オブ・ザ・イヤー)大賞」を4連覇した「中華蕎麦 とみ田」の店主・富田治への密着取材を中心に、ラーメン通なら知らぬ者はいないという名だたる名店を取材し、日本が世界に誇るラーメン文化の奥深さに迫った快作である。

 この映画のプロデューサー・大島新は、企画のきっかけが『二郎は鮨の夢を見る』(2011年制作)だったことを明かしている。米国人監督デヴィッド・ゲルブが東京・銀座のすし店「すきやばし次郎」の店主・小野二郎の姿を追ったドキュメンタリー作品だ。

『二郎は鮨の夢を見る』は、海外のさまざまな映画祭で上映され、大きな反響を呼んだ。外国人が日本の食文化に迫り、その映画が評判になる。そのことを誇らしく思う半面、日本の映像作家としてはどこか悔しさも覚える。日本人自ら、日本の食文化に迫る作品が生み出せないか。そこで白羽の矢が立ったのが、ラーメンだった。

 もちろん、ラーメンは日本起源のものではない。だが、大陸から伝わってきたその食は、日本という島国で独自の多様な進化を遂げた。その味に日本を訪れた外国人観光客も魅了されている。彼らが日本で最も印象に残った食べ物は、ラーメンがダントツ1位だという米国・ニューヨークなど、海外でもラーメン店は行列ができるほどの人気ぶりだ。世界で最も愛される日本の食は、すしでも天ぷらでもなく、いまやラーメンなのだ。

 映画『ラーメンヘッズ』は、冒頭から“キング・オブ・ラーメン”富田治の“クレイジーぶり”を余すところなく描いていく。20時間かけて煮込んだ特濃スープは毎朝、富田自ら、前日、前々日のスープとブレンドしながら微調整して完成する。麺・具材にも一切の妥協がない。富田は開店から閉店まで一度もトイレに行かず、昼食もとらずに黙々とラーメンを作り続ける。健康を害さないかと心配になるほどだ。

「いつの間にか、こういう体になっちゃったんです(笑)。ウチの従業員もそうですよ」

 そう富田はこともなげに語る。その様子を見ながら、私の脳裏には「勤勉」の二文字が浮かんだ。怠け者にはとてもじゃないが務まらない世界。それが“ラーメン道”なのだ。

 次に一転してカメラは、早朝の店の外の様子を映し出す。午前10時の開店の4時間以上も前からすでに客が列を作っている。店主もクレイジーなら、客もクレイジーだ。日本以外で、ラーメン一杯を食べるためにこんなに朝早くから並ぶ国民などいるのだろうか。

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