九州に“ノロノロ特急”が爆誕……。7月から運行が始まった「ゆふいんの森91~94号」のダイヤに鉄道ファンから注目が集まっている。博多駅と由布院駅の間を小倉、大分経由で走り、最も足が遅い92号は5時間49分を要する(7月末までのダイヤ。現在は5時間16分)。平均時速は41.4kmと、特急らしからぬ鈍足ぶりだ。

博多駅発 小倉駅発 大分駅発 由布院駅着 所要時間
91号 8:45 10:30 12:45 13:35 4時間50分
93号 11:00
(土休日は11:08)
12:17 14:55 15:45 4時間45分

由布院駅発 大分駅発 小倉駅発 博多駅着 所要時間
92号 15:18
(7/31までは14:45)
16:28
(7/31までは15:35)
18:52 20:34 5時間16分
(7/31までは5時間49分)
94号 17:06 18:18 20:30 21:35 4時間29分


 なぜこんな特急が誕生したのか。その背景には意外にも、自然災害が起きてもタダでは転ばないJR九州の執念が秘められていた。

 鉄道好きなら91~94号という号数で気づくかもしれないが、この列車は臨時列車。もともとは「ゆふいんの森1~4号」が走っていた。博多駅から久留米駅までを鹿児島本線、そこから久大本線(ゆふ高原線)に乗り入れ、由布院駅、大分駅を結ぶルートだった。ところが7月5日から6日にかけて福岡県や大分県を襲った九州北部豪雨により、光岡駅-日田駅間の花月川橋梁が流出。運休を余儀なくされたのだ。

 しかし、JR九州の動きは素早かった。由布院駅から大分駅方面の線路には問題がなかったため、博多駅から鹿児島本線を反対方向に小倉駅まで走り、そこから日豊本線を大分駅まで南下。久大本線を逆に由布院駅へと向かう迂回ルートで運行することにしたのだ。運行の発表は豪雨から1週間後の7月13日。15日から運行を再開するという早業だった。

夏休みを前にいち早く運行再開を決めた
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 JR九州によると、異例のルートでの運行再開を決断した背景には、過去の災害での経験が生かされているという。

 例えば、2016年4月の熊本地震では、湯布院は大きな被害を受けなかったにも関わらず、宿泊の予約がキャンセルされるなどの風評被害に苦しんだ。今回の豪雨災害も湯布院には被害はなく、1日も早く運行を再開することが重要という認識があったという。

 もう一つの苦い経験が5年前、2012年7月の豪雨災害。やはり日田駅周辺で路盤流出などが起こり、久大本線は1カ月以上、不通となった。このとき、ゆふいんの森は日田駅~大分・別府駅間の折り返し運行としたが、利用客が極端に少なかったという。やはり九州の中心地である博多まで乗り入れなければ意味がないことを痛感したというわけだ。

 このような教訓から、通常とは全く異なる小倉回りで無理やり運行を再開したゆふいんの森。ただ、このルートは博多と大分を結ぶ大動脈で、特急「ソニック」が1時間に2本も走っている。さらに博多から小倉までは日常の足である普通列車や快速列車も多数運行。1日2往復とはいえ、特急列車をねじ込むのは困難を極め、結果としてノロノロ特急にならざるを得なかった。

 実際、どんな走りをしているのか。乗って確かめることにした。選んだのは博多駅を朝の8時45分に出発する91号。終点の由布院駅まで4時間50分かけて走る。経路は違うものの、通常の運行なら由布院駅まで2時間12分。実に2倍の時間がかかるわけだが、ホームには早くからゆふいんの森目当ての乗客が集まっていた。驚いたことに、多くはアジア系のインバウンド客だ。

 ゆふいんの森はJR九州を代表する観光列車として海外でも有名で、以前から乗客の半分以上が外国人という日もあるほどだったという。迂回運行後はその傾向がさらに強まったそう。彼らにとっては早く着くことは必ずしも重要ではない。ゆふいんの森というブランド、さらには乗り換えなしで確実に湯布院に行けることが選ぶポイントなのだ。

 8時30分過ぎ、小倉方面の2番乗り場にゆふいんの森専用のキハ71系が入線。普段は逆側の熊本方面のホームに入ってくるのでかなり違和感がある。出発までの時間に余裕があり、記念写真を撮ったりできるのはうれしいところ。ゆふいんの森のエンブレムの前でカメラを構える外国人が目立っていた。

ゆふいんの森91号に使われるのは、89年から活躍するキハ71系。JR九州の観光列車の元祖だ
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出入り口では客室乗務員が出迎えてくれた
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