実は“35年落ち”の中古車を大改造

 側面にはハートをかたどったエンブレムが至るところにつけられている。水戸岡氏はこのことについて、以前、講演会でこう発言していた。「いろいろな人に、何でこんなにたくさんエンブレムを付けているんですかって聞かれるくらい、いやっていうほどエンブレムを付けています。これだと、ホームに着いたときに、みんな一度に記念写真を撮れるからです」。

ハートや星などさまざまなエンブレムが付く。その一つひとつが記念撮影スポットになる
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 たしかに観光列車に乗ると、記念写真を撮ろうとする人は多い(ちなみに鉄道ファンはあまり自分を入れた記念写真を撮ろうとしない。鉄道車両そのものが愛おしい存在だからだ)。たいていは車両をバックに、ということになるが、撮れる時間は乗る前か乗った後か、あるいは短い停車時間ぐらいと極めて限られる。記念写真のバックにできるエンブレムがたくさんあることは、理にかなっているのだ。一見奇抜に見える水戸岡氏のデザインだが、鉄道にもともと興味がない乗客のニーズを考えて、理詰めでデザインされていることがわかる。

 この“超豪華”車両、驚くべきことに実は35年落ちの中古車。しかも、特急車両ではなく、国鉄時代にローカル線の普通列車用に作られたキハ47という車両を大改造している。水戸岡氏は「シンデレラではないけれど、かぼちゃを馬車に作り替えた」と笑う。

 よく見れば入り口のドアは、通勤電車と同じ両開きタイプ。ただ、ガラスが凝った模様のステンドグラスに変わっているので、全く違う印象を受ける。“顔”ともいえる先頭部分は比較的原形を留めているものの、真ん中の窓を丸いものにしたり、ひげのような手すりを付けたりして、特別感を演出している。

 水戸岡氏はこのキハ47がお気に入りのようで、2004年にデビューした「いさぶろう・しんぺい」「はやとの風」から、2011年運行開始の「指宿のたまて箱」、そして今年運行を始めた「かわせみ やませみ」まで、どれもキハ47の改造だ。JR九州では普通列車用としても重宝されているので車両の余裕がなく、或る列車はなんとJR四国で廃車になったものを買い取って改造したのだという。なぜそこまでキハ47にこだわるのか。水戸岡氏いわく「最近の車両は曲面が多くて改造しにくい」とのこと。質実剛健な国鉄時代の車両のほうが大胆な改造ができるようだ。ステンレス車両は窓やドアを埋めたりするのが難しいのも一因だろう。

 鉄道ファンからは、「キハ47を特急や豪華車両として使うなんて」と批判の声も聞かれる。デザインは手を入れているからいいとして、もともと普通列車用に作られているため、空気ばねではなくコイルばねを採用しており、乗り心地がいいとは言えないからだ。ましてや或る列車は車内で食事を楽しむ列車。揺れが激しくては適わない。

 しかし実際に乗ってみると、新幹線のようとまでは行かないが、想像するほどの揺れはなく快適だった。聞けば、車両と車両の間に特急車両などと同じダンパーを追加して横揺れを抑制。それだけでなく、台車にも上下の振動を抑制するダンパーを取り付け、継ぎ目での乗り心地を改善しているという。これは加速度センサーを用いて制御する最新の技術で、鉄道総合技術研究所(JR総研)が開発したものだそうだ。

 国鉄時代の古い車両に豪華な内外装と最新の技術を組み合わせ、特別な車両に仕立て上げる――。驚きのビフォーアフターだ。