DeNAの中核となるゲーム事業。2015年度の決算発表では、ゲーム事業だけで売上高は1096億円(前年比3%減)、営業利益は198億円(前年比13%減)という減収減益となった。DeNAにとって屋台骨を支える事業だけにそのインパクトは小さくないが、ある意味底堅い数字を維持している。その要因は、まずブラウザーを使ったゲームタイトルが着実に売れたこと。特に『グランブルーファンタジー』に代表されるサードパーティ製タイトルが大ヒットしたり、自社制作タイトルのいくつかもヒットした。

 一方、スマホアプリゲーム事業はマーケットサイズが大きいものの生存競争は厳しく、期待を上回る成果はまだ出ていないのが実情だ。この事業領域に加えて、苦戦が続いてきた海外でのゲーム事業も改善させることで、2016年以降の成長を目指す。さらに、任天堂との新しい共同事業もスタートする。2016年の戦略について、代表取締役社長兼CEOの守安功氏に聞いた。 (聞き手/渡辺一正、写真/稲垣純也)

守安 功(もりやす いさお)
守安 功(もりやす いさお)
DeNA 代表取締役社長兼CEO
1998年、東京大学大学院(工学系研究科航空宇宙工学)修了、同年4月、日本オラクル入社。1999年11月、システムエンジニアとしてディー・エヌ・エーに入社。2004年に携帯オークションサイト「モバオク」、アフィリエイトネットワーク「ポケットアフィリエイト」、2006年2月には、「モバゲータウン(現:Mobage)」を立ち上げ、同年6月、取締役に就任。2009年4月、取締役兼COO就任。2010年4月、取締役兼ソーシャルメディア事業本部長兼COO就任。2011年6月、代表取締役社長に就任。2013年4月より代表取締役社長兼CEO(現任)

2015年は『グラブル』が好調

――2015年を振り返って、DeNAのゲーム事業はどのような動きでしたか。

守安功社長(以下、守安氏): 2015年を振り返ると、国内市場では、コイン消費のボリュームが1年間を通して、手堅く維持できたのは、経営的に見て大きいと思います。

 世の中的には、スマートフォンで動かすゲームは「ネイティブアプリ」が常識で、「ブラウザーゲーム」はもう末期的だねとか、プラットフォームとしてもMobageはないね、なんて言われている中で、Cygamesの『グランブルーファンタジー』はブラウザーゲームとして非常に好調でした。やはりクオリティーの高いゲームを作れば、ユーザーはブラウザーだろうと、ネイティブだろうと気にしないで遊んでくれることを示してくれたと思います。

DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏
DeNA代表取締役社長兼CEOの守安功氏

 DeNAのMobage上でリリースするブラウザーゲームの数はある程度限られるので、それなりにトラフィック(流通量)が流れて、ゲーム事業としてのおおよその収益は読めるんです。しかし、アップルストアやグーグルプレイ上にあるネイティブアプリの場合は全く遊ばれないままのゲームも存在しています。作ってみたものの収益が少しも得られない場合もあり、ブラウザーゲームの現状と比べると困難な状況にあるのではないでしょうか。

 ゲーム開発会社によっては、すべてのリソースをネイティブアプリ開発に振り切ってしまったところもあるようです。しかし、飛び出した先のネイティブアプリの市場は、生き抜くのが大変なレッドオーシャンになってしまっていて、もう一度ブラウザーゲームに戻ろうかと考え直している会社の話を聞きます。

海外事業の黒字化と任天堂との新事業で転換

――スマホゲーム市場の状況についてどのように考えていますか。

守安: スマホゲーム自体に大きな違いがなくなってきていると考えています。ゲームに違いを見いだせないと、慣れ親しんでいるゲームから離れるユーザーは少なくなります。誰だって、自分が長期間楽しんできたゲームの中の資産を捨てるのは嫌じゃないですか。だから、よほどの違いがなければ、他社のゲームへ大挙して乗り換えるケースはまれではないかと思います。

 逆に、そういうムーブメントを起こそうとするには、開発費も宣伝費も相当かかってくるということです。資金力が必要になるということは、ますます新規参入が困難になります。そういう意味で、家庭用ゲーム市場が歩いてきた歴史に近いものがあるのではないかと考えています。

――その状況で、DeNAとしては何をするつもりでしょうか。

守安: DeNAの場合、国内のゲーム事業では手堅いブラウザーゲームというマーケットがあります。ただ、成長するマーケットではないと思っていますので、ネイティブアプリゲームでもヒット作品を作って、利益水準を維持していくことが、戦略の基礎になると思います。

 加えて、プラス要因をほかの事業で作っていくことが求められています。例えば、まだ赤字事業なのですが、海外事業が挙げられます。苦戦しているものの、赤字幅を縮めて収支をゼロにするか、プラスにできれば、ゲーム事業全体としてプラス要因になります。

 もう一つプラス要因があります。任天堂との協業です。任天堂は、スマホ市場に最後に登場する大物プレーヤーで、世界中が待ち望んでいます。第1弾コンテンツとして「Miitomo」(iOS版、Android版)を2016年3月17日にリリースしました。故・岩田聡氏(任天堂前代表取締役社長)が考えられたビジョンがありまして、それを両社で進めていきましょうという動きについては、大きな変更なく進んでいます。

スマホゲームのサーバー運用機能に特化して任天堂と協業する

――任天堂と協業で5本くらいコンテンツを作るという話がありますが。

守安: 任天堂とは2017年3月末までに、Miitomoを含めて5本程度のスマホ向けアプリを展開するということで進めています。その中でも、DeNAはいわゆるサーバー側のシステム開発がメインです。家庭用ゲーム機のタイトルはスタンドアローンで動くものが多いのですが、ネットワーク型のゲームタイトルに変化してきた場合、サーバーとの連携を新たに考えなければならない部分があります。

 それから、よく言われていることですが、ネットワーク型のゲームはユーザーの反応をネットワーク越しで分析しながら、常に改良・アップデートを加えていくという開発・運用体制が重要になってきます。そういうネットワークのサーバー側の運営業務といったDeNAの得意なところで協業していきましょうというのが、任天堂との合意になっています。

――任天堂との協業のために、新しく開発・増設していく設備などはあるのでしょうか。

守安: 使用するサーバー自体の価格はそれほど高いものではないので、必要に応じて増設はできる環境にあります。ただし、ネットワーク型のゲームを運用した経験がないと難しいのは、データのトラフィックに合わせて、サーバーの負荷をうまく分散させるための仕組みを構築する部分だと思います。

 普通にシステムを組んでしまうと、「あるデータ量を超えたらデータベース部分がボトルネックになる」とか、「システムのアーキテクチャ(構造)を変更しないと、トラフィックに合わせて拡張できない」といったトラブルが容易に起きることがあります。我々は、いろいろな事業やサービスで経験してきているので、どのようにシステムを構築するのか、必要に合わせた対応策などのノウハウがあります。

 具体的には一番基礎的なところで、トラフィックに合わせて扱えるデータ量のスケールを柔軟に拡大させるノウハウですね。トラフィックが急激に変化したときに、インフラを拡張させることで、ソフトウエア自体(ゲーム本体など)に手を入れなくてもサービスを継続させるということは、経験がないと結構難しいんですよ。

 理論上はできると思っていても、想定外のところでボトルネックが発生するもので、やはり大規模なサービスを運営していないと対応は難しいと思います。ただ、これからは、ディープラーニングなどの新しい技術でビッグデータを動かすことになってきた場合、サーバーのCPUパワーが必要になるとみています。その時にはシステム性能を引き出すための仕組みが別に必要で、コスト構造は現在のシステムから変化するだろうと予測しています。

中国市場では他社IPとの協業で開拓していく

―― 海外事業について教えてください。特に中国市場での動きはどうですか。

守安: 中国市場が日本のスマホゲーム市場のサイズを超えて、全世界で一番大きなスマホゲームマーケットになってきているのではないかと見ています。その中でDeNAとしては、IP(知的財産)を活用したゲームを中心に展開してきました。IPを使ったゲームがヒットする確率は高く、そこに中国市場におけるポテンシャルを感じました。

 ただし、課題も残っています。ヒットした作品であっても数カ月後には売り上げが下がってしまうこともありました。我々の運営力を改善しなければならないところもありますが、中国のスマホゲーム市場は日本以上にレッドオーシャンなんだと思いますね。平均化してみると、タイトルの寿命はおそらく日本よりも短いのではないかと考えています。ヒットを作る時点でも大変なのですが、ヒットしてからもそれを維持するのが非常に難しい。いかにしてトップセールスを維持するか、というところが課題かなと思っています。

 また、中国市場はユーザーの嗜好性も違いますし、法律も違うし、商習慣も違います。その中で、日本市場と同じ感覚で市場参入すると手痛い目にあいます。DeNAは2009年くらいから中国のゲーム市場に飛び込んで、いろいろな苦労を乗り越えて、現地化を進め、現在は社員数500人規模の会社になりました。日本に限らず、欧米系企業全体で見ても、中国のインターネット関連サービス業界で成功しているところはありません。中国市場でチャレンジし続けられている自負があります。

――2016年は中国市場の勝負の年でしょうか。

守安: そうですね。今後も中国で人気のある日本のIPを軸としたゲームをリリースしていきたいです。今年配信する他のタイトルの中から、新しいヒット作品が出るかどうか楽しみにしています。

 中国のゲーム会社が、国外の企業が持つIPを使って、新しくゲームを開発するのは実はそんなにうまく動いていないケースがあります。自社IP以外のキャラクターに自由に変更を加えてしまったり、確認を怠ったりするという、手順を踏まずに開発した結果、IPの権利元からストップがかかり、ゲームをリリースできなくなってしまう。そんなトラブルを耳にしたこともあります。

 DeNAは中国に開発拠点があることに加えて、日本や欧米の企業が守ってほしい約束事も理解したうえで、双方をブリッジできることが強みだと思っています。国外の企業が中国市場で生き残っていくためには、IPを軸に差別化していかないと太刀打ちできませんから。

 中国にはゲーム事業だけではなく、そのほかのサービス事業を持つ“巨人”のような企業がたくさんあります。例えば、コミュニケーションサービスの「QQ」や「WeChat」を持つIT企業最大手の「テンセント」は、それら以外に、生活全般に使える決済システムとか、Uberのようなタクシーサービスなど、ITを使ったさまざまなサービスを抱えていて、それが中国人の生活に根ざしています。完全にインフラサービスになっているので、その影響力という意味では日本の「LINE」もはるかに超えた位置づけだと思います。

 そういう中国企業と、ゲーム事業でしのぎを削らなければならない。だから、自分たちは何らかの差別化ができないといけないのです。その答えの1つが、IPを持つ企業との関係性を生かして、事業展開することだと考えています。

オリジナルタイトルにも投資してトライ

――国内のゲーム開発はどのような状況ですか。

守安: 国内開発のアプリゲームでいわゆるヒットと呼べるものは、スクウェア・エニックスと協業している『ファイナルファンタジー レコードキーパー』、バンダイナムコエンターテイメントより配信されている協業タイトルの『スーパーガンダムロワイヤル』などですね。他社のIPを使ったゲームは一定のヒット率が見込めるので、ゲーム事業の1つの軸になっています。今後も、こうしたIP関連のゲームを開発している最中ですので、手堅い部分になっていくと思っています。

 一方、オリジナルタイトルとなると確かに難しいですね。ただし、ヒットしたら大きな成果となりますので、きちんと投資して、開発にトライしていきたいです。そうした投資をしていくためにも、IP関連のゲームで事業を維持しながら進めていくことが、社内外から求められている事業構造だと思っています。

――新規タイトルはどのくらい作るのですか。

守安: 2年前の夏に、DeNAがブラウザーゲームからアプリゲームにかじを切ったとき、一番昔に作った『怪盗ロワイヤル』の開発方法を導入して、年間に50~60本ものアプリゲームを開発したことがありました。それが、ことごとく失敗しまして。スマホゲーム市場への対応が遅かったんでしょうね。もう少し早いタイミングだったら、その50本の中からヒットが生まれていたかもしれませんが、すでに『パズル&ドラゴン』とか『モンスターストライク』などもリリースされていたタイミングでしたから。

 社内のゲーム開発力はずいぶん上がってきていて、『ファイナルファンタジー レコードキーパー』の成功までつながっていると思います。しかし、オリジナルとなると正直難易度が高くて、社内クリエーターに、「頼む、ヒット作をつくってくれ!」と言うしかない(笑)。

決算発表会資料で説明している事業拡大案<br>(出所:DeNA 2015年度第4四半期 業績のご報告P.9)
決算発表会資料で説明している事業拡大案
(出所:DeNA 2015年度第4四半期 業績のご報告P.9)

VRはいまのところ少し懐疑的

――開発本数はある程度絞っているということでしょうか。

守安: 2年前と比べればずいぶん減らしました。要は数じゃないなと思っています。質が伴ってないと仕方がないですね。開発予算の上限を決めてやっていますので、その中で自信のあるゲームを絶対作ってくれ、という注文を出しています。今や、スマホゲームの開発は1本1億円を超えて、場合によっては3億~5億円という予算感のものもあります。

 スマホゲームはローンチした後、コンテンツの物量がないと、ユーザーにとって物足りないゲームになってしまいます。だから、初期段階でコンテンツをふんだんに作っておこうとすると、開発費は高騰しがちなわけです。

――VRのようなウエアラブルデバイスは、ゲームのプラットフォームとして注目をされていますか。

守安: そうですね。ゲームの歴史はまずアーケード(業務用)ゲームがあって、次に家庭用ゲーム機、そしてPC、スマートデバイスへとプラットフォームの規模が広がって進化してきました。新しいゲームプラットフォームはその都度ユーザーを獲得し、市場規模が大きくなる方向で進んできました。

 そういう一連の動きの中で、VRやウエアラブルという市場を俯瞰して見ると、ある程度のマーケットは存在すると思います。しかし、その規模はというと、少し疑問が残りますね。スマートフォンなどのスマートデバイスは世界中の何十億という人が持つ必需品になりました。それがさらに変化して、メガネやコンタクトレンズ型などのウエアラブルデバイスになって、電話をしたり、コミュニケーションしたり、という将来像は、一部の人たちのツールになっているのか、それとも全員がその世界に移り変わっているのか――。

 個人的には、今のスマートデバイスを超える規模で、VRやウエアラブル機器が利用されることには懐疑的な見方をしています。携帯電話(フィーチャフォン)からスマホにマーケットが移ったときは、フィーチャフォンのゲーム市場はゼロになるかもしれないという強烈な勢いで変化しました。その時の感覚からすると、VRやウエアラブルへの変化はそれほどでもない、というのが現在のDeNAでの考え方です。ここをどう見るかで、それぞれのゲーム会社の戦略が変わってくるんだろうな、と思いますね。

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