テレビアニメ、ゲーム、ライブエンターテインメントなどのクロスメディアプロジェクトを得意とするブシロード。2017年は、『BanG Dream!(バンドリ!)』のヒットに続き、新プロジェクト『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』もスタートした。また、創業者であり、これまで社長を務めてきた木谷高明氏が社長の座を退き、代わって橋本義賢氏が就任。次々と新たな形のエンターテインメントを投入する同社の取り組みについて、2人に話を聞いた。
(聞き手/秦和俊、写真/稲垣純也)

 ●木谷高明(きだに・たかあき、写真右): ブシロード取締役。1960年石川県生まれ。大学を卒業後、山一證券勤務を経て、1994年にブロッコリーを設立。2001年にJASDAQ上場を果たす。2007年ブロッコリーを退社し、ブシロードを設立、代表取締役社長に就任。2014年からBushiroad South East Asia(現・Bushiroad International)のCEOを兼任し、シンガポールに駐在した。2017年10月に代表取締役を辞任、デジタルコンテンツ事業および広報宣伝を管掌する取締役、子会社・ブシロードミュージックの代表取締役社長を兼任し、コンテンツ開発の最前線に立つ。2018年3月末シンガポールより帰国予定。

 ●橋本義賢(はしもと・よしたか、写真左): ブシロード代表取締役社長。1964年栃木県生まれ。大学を卒業後、日本IBMを経て、1995年にコスパを設立。2006年にはタブリエ・コミュニケーションズ(現・コスパグループホールディングス)の代表取締役社長に就任。2012年1月からブシロード顧問、2015年9月より同社取締役に就任し、経営企画部門及び海外事業の一部を管掌した。2017年10月に同社の代表取締役社長就任。

稟議書に書きにくい企画ほどプロモーション効率がいい

──2017年は創業10周年を迎えた年でした。2017年から今年にかけて、状況はいかがですか?

木谷高明氏(以下、木谷氏): 2017年春にリリースしたスマートフォン向けゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(以下、ガルパ。Craft Eggとの共同制作)が大ヒットしました。『ガルパ』は、ガールズバンドをテーマにしたゲーム、アニメ、ライブなどのメディアミックスプロジェクト『BanG Dream!(バンドリ!)』から生まれたリズムゲーム。ゲームに先がけてアニメを2017年1月にスタートし、その時点からゲームのプロモーションに全力で取り組みました。 その効果もあって、先日、500万ダウンロードを突破することができました。

 2018年1月には、JR山手線で『ガルパ』のラッピング車両を10編成走らせました。同じ時期に『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』(KLabとの共同制作)のラッピング車両も10編成走らせたので、山手線全52編成中、20編成がブシロードのゲームでラッピングされていたことになります。こんな規模で展開するのはJRさんでも初めてのことだったそうです。

『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(iOS/Android、配信中)
『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(iOS/Android、配信中)
2018年1月2日から27日まで、JR山手線で運行したラッピング車両
2018年1月2日から27日まで、JR山手線で運行したラッピング車両

――それはすごいですね。

木谷氏: 2018年の元日には、21時から翌朝10時まで13時間にわたり、TOKYO MXテレビで『バンドリ!&ガルパお正月13時間スペシャル!』を放送しました。テレビアニメ全話のほか、過去のライブイベントの映像などを一挙に流す企画だったのですが、オンエアされている夜中じゅう、私も局に詰めて立ち会い、実況ツイートしながら、ファンの方とも交流しました。

 全く同じものをYouTube Liveでも流していたのですが、同時接続数は一番多いときで1万4000人ぐらい、延べ視聴者数は40万人ぐらいに達しました。

――夜中とはいえ、元日に地上波テレビで13時間もの枠を取れるんですね。

木谷氏: 元日って暇じゃないですか。店も開いてないし、テレビ番組もバラエティーばかりだし。だから、やってみようと。TOKYO MXさんとの長年のお付き合いの関係で、13時間という枠をご用意いただき、結果、ユーザー層を広げることができました。TOKYO MXさんには本当に感謝しています。

――昨年のインタビューでは「プロモーションにもシナリオが必要」と話されていました(関連記事:ブシロード、『バンドリ!』は声優ライブやアニメと連動)。

木谷氏: これは僕の主義なのですが、稟議書を書きづらい方法ほど、プロモーション効率がいいと思っているんです。結果の予測が数字としてちゃんと出てこない、というやつです。

 上司は「それはどれだけ効果があるんだ、数字で出せ」というじゃないですか。先ほどの交通広告にしても、1日の乗降客がこれだけある、というのは示せるけれど、「じゃあ、どれだけの人が広告を本当に見ているのか」と問われると、実数は分かりません。その結果、普通の会社なら「だったら、だめだよ、そんなの」となってしまいます。そして、ダウンロード当たりの単価が見えるネット広告に流れてしまうでしょう。でも、うちは、そこをあえてやってみる。だから、みんながびっくりしてくれるんだと思っています。

――なかなか、他にはまねできないことかもしれませんね。

木谷氏: 今の時代、コンテンツを立ち上げたり伸ばしたりする、とりわけ立ち上げるときに、何が一番重要かというと、どうやって“勝ち組感”をつくるか、ということです。一度、負けたイメージが付いてしまうと、なかなかひっくり返せません。全部は無理だけど、何か1つに集中して、一点突破していく。それで、“勝ち組感”をつくっていくのです。

 10年前に比べ、エンタメの種類はものすごく増えている。スマホのゲームだけでも、とんでもない種類があります。接する情報量も格段に増えています。そんな中で、大切な時間とお金を何かに費やすというのは、投資することと同じだと思います。下がる株をわざわざ買いに行く人はいないですよね。勝ち馬にしか乗らないですよ。だから、勝つ雰囲気を出すことが、コンテンツを立ち上げて伸ばすうえで、一番大切なことなのです。

新作はミュージカルを起点にクロスメディア展開

――新プロジェクト『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(以下、レヴュースタァライト)も2017年にスタートしました。

木谷氏: 今度はミュージカルが原作で、アニメ、ゲームへと展開していくプロジェクトです。アニメやゲームなど原作が既にあるものを舞台化することは、2.5次元ミュージカルとして人気ですが、『レヴュースタァライト』はミュージカルのために書き下ろしたコンテンツです。

 原作があるものを舞台化するのは、すごく楽なのですが、半面、原作の影響から逃れられない、という側面があります。どこか抑えた演出、演技になってしまうと思います。

 その点、『レヴュースタァライト』はミュージカルのためにつくった作品で、しかも舞台のキャストが夏から始まるアニメの声優も務めます。2.5次元とは全く違うアプローチです。影響されるものがないですし、原作者や誰かにチェックされるものじゃなくて自分たちで考えてつくり出すので、のびのびとしていて、発信するオーラも違いますね。

『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』。舞台女優を目指す少女たちの物語。ミュージカル×アニメーションで紡ぐ、二層展開式少女歌劇 (C) Project Revue Starlight
『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』。舞台女優を目指す少女たちの物語。ミュージカル×アニメーションで紡ぐ、二層展開式少女歌劇 (C) Project Revue Starlight

──『レヴュースタァライト』と2.5次元ミュージカルと比較した木谷さんのツイートが反響を呼びました。

木谷氏: これはある意図を持ったうえでつぶやいたのですが、予想通り、多くの反応が寄せられました。肯定から入ると話題は一瞬にして終わりますが、否定は続くんですよね(笑)。今回のツイートも最終的には2700以上もリツイートされ、プチ炎上してしまいました。でも、それで初めて『レヴュースタァライト』を知ってくれた方もたくさんいると思うんですよね。

──ブシロードのプロジェクトで、ミュージカルからコンテンツをつくり始めるのは初めてだと思いますが、何か意識していることはありますか?

木谷氏: “舞台の常識”にとらわれないようにしています。あくまで、『レヴュースタァライト』というコンテンツのファンを増やしたいわけで、舞台が好きなファンを増やしたいわけではありません。だから、普通の舞台であれば観劇チケットを一般販売しますが、『レヴュースタァライト』はCDやBlu-rayを買ってくれた人に先行申込券を付けたっていい。よく飲み屋に舞台のチラシが置いてありますが、チラシなんて作らなくてもいいよ、と言っています。

 また、舞台は「見ていると眠くなる」というイメージがあるかもしれませんが、『レヴュースタァライト』ではそんなことはありません。2時間あってもおかしくないようなものを1時間10分くらいに凝縮してやっています。例えば、登場人物が舞台から去っていくときも、若干早歩きか小走りぐらいで去っていく。常に動き回りますし、場面転換も結構多い。これはすごく意識しました。

 一方で、評判が良すぎると同じ方が何度も来て、新たなファンが広がらない、というデメリットが舞台にはあります。実際、2017年9月の初演の評判がとても良かったので、先日の2018年1月の再演では、同じ方が何度も見に来てくれる、ということが多かったようです。そうなると見られる人が限られてしまうので、最終回の公演を全国の映画館でライブビューイングして、1300人くらいの方に見ていただきました。

 今度は10月に新作の公演があります。本公演は小さな劇場となりますが、再演は2000人以上入るような大きい会場でやってみたい。舞台ファンは、細かいところまで見たくて何度も通って、1回1回見るところを変えたり、公演ごとに表情が違うところを楽しみます。でも、コンテンツのファンというのは、そのコンテンツが好きな仲間が一堂に会して、こんな大きな規模で一緒に楽しんでいる、ということがいいわけです。今回の『レヴュースタァライト』では、コンテンツファンが楽しめる公演にしていきたいですね。

2018年1月に再演した『「少女☆歌劇 レヴュースタァライト ―The LIVE―」#1 revival』 (C) Project Revue Starlight
2018年1月に再演した『「少女☆歌劇 レヴュースタァライト ―The LIVE―」#1 revival』 (C) Project Revue Starlight

新社長との出会いはコスプレがきっかけ

──昨年は社長の座を橋本さん(橋本義賢氏)に引き継がれました。その経緯を伺えますか?

木谷氏: 今のエンターテインメントは、現場に張り付いてないと無理だと感じています。現場に張り付くまでいかないにしても、現場感を持ってちゃんとやっていないと難しい。今だって6タイトルぐらいプロデュースしていますが、社長業をやりながらでは無理があります。まあ、シンガポールに行って離れていながらよくできたなと思うんですけれど(編集部注:木谷氏は2014年から海外法人のあるシンガポールに拠点を移し、日本と行き来しながら生活してきた)。

 これまで、社長に加え、広報宣伝、デジタルコンテンツ事業を統括し、子会社のブシロードミュージックの社長を務めてきました。僕はやっぱり音楽に力を入れたいからブシロードミュージックの社長は今後もやると。広報、宣伝はずっとやっているので、広報宣伝部長も引き続きやる。デジタルコンテンツはすごく大事なので、アニメを含めてコンテンツ本部の本部長もやる。こうやって並べてみると、一番いらないなと思ったのが社長だったのです(笑)。それで、取締役になり、代表取締役社長を橋本に引き継ぐことにしました。

 「前線から最前線へ」をキャッチフレーズに、私はコンテンツに専念し、経営は橋本に任せています。

――橋本さんは2012年にブシロードに入られていますが、木谷さんと出会ったきっかけを教えていただけますか?

橋本義賢氏(以下、橋本氏): 1980年代、私が日本IBMで働いていた時代ですが、“異業種交流会”というものが盛んに開かれていました。ある団体を木谷がやっていて、私も違う団体をやっていて、幹事クラスの横のつながりで名刺交換したのが最初の接点です。

木谷氏: 交流会というと聞こえはいいですが、もっとくだけた“社交的なサークル”といった感じでしょうか(笑)。誰か講師を呼んで話を聞こう、というようなものでした。

橋本氏: まあ、そうですね(笑)。その後、1994年にブロッコリーを設立した木谷が、「コミックキャッスル」という同人誌即売会のイベントを立ち上げました。それを見に行って、「こんなマーケットがあるのか」とびっくりしたんです。その周辺には、アニメ、ゲームといった分野が広がっており、「日本から世界に輸出できるのは、これだ!」と確信しました。そもそも、日本IBMに入ったのは、グローバルな仕事がしたいという動機でしたから、なんとかこの分野でビジネスにしてみたいと思うようになりました。

木谷氏: 同人誌即売会では、コスプレをする人たちもいたので、その部分を手伝ってもらったんです。

橋本氏: 当時はコスプレ用の衣装に既製品というものはなくて、みんな自分で作っていました。そこで、アパレルメーカー「コスパ」(創業時の社名は「コスチュームパラダイス」、後にコスパに社名変更)を立ち上げ、渋谷の店舗でオーダーメードを手がける一方で、セガさんやカプコンさんといったゲームメーカーから版権を得て、既製品も出すようになりました。KONAMIさんの『ときめきメモリアル』の制服を出させていただいたところ大ヒットになり、会社の成長が軌道に乗りました。このマーケットを最初に教えてくれたのが木谷だったのです。

──橋本さんの大きな転機に、木谷さんがかかわられていたのですね。その後、コスパグループを離れ、2012年にブシロードに加わられます。

橋本氏: 私はコスパグループのグローバル展開を見据えた成長戦略を描けるよう、上場なども視野に入れ、ベンチャーキャピタルからの資金調達も活発に行っていました。一方で「ステークホルダーからあれこれ言われることなく、自由にビジネスしたいよね」という声も経営陣の中で高まり、私のビジョンを共有することがかないませんでした。

木谷氏: 当時、既にブシロードを創業していましたが、より大きなステージで企業活動をしたいという思いが僕にはあったので、「だったら、こっちで一緒にやらない?」と誘ったのです。ステージを上げていこう、という彼の志向に合っていることもありますが、自分たちのオリジナルIP(知的財産)を作り出せる、ということもブシロードの強みだと思いました。

“0→1”は本当に難しい

──橋本さんが社長になられて、どんな役割を意識されていますか。

橋本氏: 木谷が10年かけて、このグループをつくり、木谷ほぼ一人でコンテンツを開発してきたというところがあります。ここから先は、木谷には引き続き陣頭指揮を執ってもらいつつも、下から上がってくるアイデアを拾い上げ、コンテンツを生み出せるような組織にしていきたいですね。

 幸い、グループ内では、コミック、アニメ、ゲームが制作でき、広告会社機能があり、声優もグループ会社に所属していて、マーチャンダイズもできて、カードも作れて――。他の会社でコンテンツを立ち上げるよりも、うちのグループの方が実現しやすいと思うんですよね。

木谷氏: とは言っても、「ゼロからイチを生み出す」のは、本当に難しいです。最初のお題、先ほどの『レヴュースタァライト』でいう「ミュージカル原作」といったお題を見つけることが難しいと思うんですよ。これは、空気を読むのではなく、時代を読まなければなりません。それが読めるかどうかはセンスの問題です。

 例えば、2017年末に発売したトレーディングカードゲーム『ヴァイスシュヴァルツ』で、『ガルパ』とコラボしたブースターパックを出したのですが、発売後2日で完売となる大ヒットでした。僕は、トレーディングカードのトレーディングの部分に立ち戻り、1000枚しか出せなくてもいいから、「もっと光らせろ」とか「声優のサインをいろいろなパターンで入れろ」と言ったんです。これで、カードを買ってパックを開けた時のドキドキ感や面白さを、もう一度思い出してほしかった。

 100種類もの声優のサイン入りカードなんてアイデアは、お店やお客さんに直接聞いても出てこない。お店やお客さんの潜在意識を読んでニーズをつくり出すのがメーカーのやることだと思います。

売り切れも続出した『ガルパ』コラボのブースターパック、声優のサイン入りカードが高額で取り引きされる現象も起こった
売り切れも続出した『ガルパ』コラボのブースターパック、声優のサイン入りカードが高額で取り引きされる現象も起こった

──もっとデジタル連動に向いた方向性なのかと思いましたが、アナログの部分にフォーカスしたのですね。興味深いです。

木谷氏: 少し話は変わるんですが、ネット社会になって、いろいろな情報が入るようになったと思いがちでも、実際は自分の興味・関心に最適化された情報ばかりが大量に入ってくるようになり、それ以外の分野の情報に触れる機会はむしろ少なくなっているという現実があります。その人にとって見える情報が偏ってしまう世の中になったのです。

 先日、書店に行って、売り場をぐるぐる歩き回ったのですが、普段ネットでは全然目に触れないものにぶち当たるんですよね。デジタルを使いつつも、アナログの俯瞰した視点や感覚と組み合わせることが大切だと思いますね。

──カードゲーム分野では、スマートフォン向けアプリ、デジタルカードファイト『トリプルモンスターズ』(以下、トリモン。ゲームスタジオとの共同制作、2018年4月末配信開始予定)に期待がかかります。

木谷氏: 『トリモン』は世界観・ストーリー、ゲーム、タレントが三位一体となって展開する新感覚のオンラインカードゲームです。オンラインカードゲームなのに、リリースより先に、ゲーム内キャラのユニットソングCDの発売やライブの開催を発表したりと、SNSが盛り上がるような新しいことをやっています。

 オンラインカードゲームでは、『トリモン』の次にも本命とも言える大きなプロジェクトが控えています。現在開発を進めている『カードファイト!! ヴァンガード』のスマホ向けゲーム『ヴァンガード ZERO』です。『トリモン』のチームには、「『ヴァンガード ZERO』の露払いになってくれ」と言っているんです。それくらい言ってハードルを下げて(笑)、面白いことをのびのびとやってほしいと思っています。

『トリプルモンスターズ』(iOS/Android、2018年4月末配信開始予定)(C) bushiroad All Rights Reserved. illust:ヤスダスズヒト
『トリプルモンスターズ』(iOS/Android、2018年4月末配信開始予定)(C) bushiroad All Rights Reserved. illust:ヤスダスズヒト
『ヴァンガード ZERO』(iOS/Android、2018年冬配信開始予定) (C) bushiroad All Rights Reserved.
『ヴァンガード ZERO』(iOS/Android、2018年冬配信開始予定) (C) bushiroad All Rights Reserved.

もう次のアイデアもあるが――

――2017年に発売された「Nintendo Switch」は国内での販売台数が300万台を超えました。アナログのカードゲームから、スマホゲームに移行するまでの間の年齢層に向けてSwitchで展開する、という考えはありますか?

木谷氏: 全く考えていないですね。スマホゲームは、ブランドバリューがなくてもまだ参入できると思うのですが、据え置き型は、やっぱりその会社にブランドバリューがないとだめですね。気持ちとしてはやってみたい部分もありますが、うちでは無理だろうな、というのが率直なところです。

橋本氏: 会社の規模が2倍くらいになってくると、また違った判断になる可能性がありますが、現状では、大人向けであり、コアファン向けが我々の戦略分野かなと思いますね。

木谷氏: 戦略と言ったらかっこいいですが、できる人がいないですね(笑)。うちの場合はライブイベントなどと絡めたメディアミックス型がやっぱり得意ですから、それが有効なコンテンツしかやっちゃだめなんだと思います。

――海外展開はいかがでしょうか。昨年のインタビューでは国内回帰の傾向が強まる、と話されていました。

橋本氏: スマホゲームとカードゲームを中国に出していく計画です。ゲーム担当役員の広瀬(和彦 取締役)が中国の上海に駐在することも視野に入れています。中国タイトルを日本に持ってきてリリースするということもあれば、日本の自社タイトルを中国に持っていくこともあり、その両方の動きを広瀬を中心にやっています。カードゲーム『フューチャーカード バディファイト』については、アニメのライセンスもして、中国語版カードを2018年中に発売する予定です。海外全体としては、米国と、中国を中心としたアジアを強化しようとしています。

『フューチャーカード バディファイト』日本では2018年4月よりアニメ新シリーズが放送開始予定 (C) 相棒学園2018/テレビ愛知
『フューチャーカード バディファイト』日本では2018年4月よりアニメ新シリーズが放送開始予定 (C) 相棒学園2018/テレビ愛知

木谷氏: 中国人社員の数も増えました。日本拠点だけでも10人くらいはいます。一般の採用募集でも、最近では中国人、韓国人の応募が普通に来るようになりました。

 米国では、プロレスとカードゲームの展開に加え、スマートフォン向けゲーム『ガルパ』の英語版をリリースしようとしています。世界のゲームマーケットは、日本、中国、米国と、英語圏と華僑を合わせると、たぶん全売上の9割を超えていると思います。ですから、中国語版、英語版、日本語版以外はやる必要がないと考えています。

――今後、ますますIPの持ち方が重要になってきますね。

木谷氏: 映像分野では製作委員会方式によるプロジェクトが主流でしたが、今後はリスクを抱えても自社で100%出資するものが増えてくると思います。

 かつては、地上波テレビで放送し、パッケージを販売し、映画に展開し――という座組みの中で、放送局や関連する何社かで出資し合う必然性がありました。今は違います。アニメのファーストランはネット動画配信でいい。YouTubeであれば、配信コストはほぼかかりません。

 自社で100%出資にすれば、ロイヤルティーを払わなくてもよくなりますし、映像の使用制限もかかりません。どこの配信サイトに流そうが、誰にも文句を言われない。

 「あれはだめ、これはだめ」といわれるようでは、もうコンテンツは立ち上がりません。ですから、コンテンツの性質によっては、アニメの座組み、ゲームの座組みといったものを全部変えていかなければならない時代になったと思います。

――最後に2018年の抱負をお聞かせいただけますか?

橋本氏: 去年までやってきたことを、さらにレベルを上げていく年なのかな、と思っています。この10年で、IPを生み出し、育て、世の中でヒットさせるところまでをつくれる機能をグループ内に持てたので、これを生かしていきたいですね。昨年10周年を迎え、社員のビジネスマインドが高まってきたように思いますので、事業を熟成させる年にしたいと考えています。

木谷氏: やはり自社IPということで、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』をヒットさせていきたいですね。でも、もう次のアイデアもあるんですよ。バンド、舞台ときて、その次なんですよね。まだはっきりとは言えませんが、自信は結構あります。早くやってもらう人を見つけなきゃいけないんですがね(笑)。

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