拡大を続けるネットでのライブ動画配信サービス。さまざまなジャンルのコンテンツがあふれるなか、多くの視聴者を集める分野の1つがゲームだ。ゲームのプレー画面をそのまま動画で配信する「ゲーム実況」は、いまや人気配信者を多数輩出し、ゲームファンだけでなく、人気配信者目当てに視聴するユーザーも多い。
ゲーム分野に特化したプラットフォームとして2011年にスタートしたTwitch(トゥイッチ)は、2014年に米アマゾンが約10億米ドルで買収したことでも話題となった。2015年以降はグローバル展開にも積極的で、日本でも認知度を高めている。
Twitchが日本における展開で目指している存在は親会社でもあるアマゾンだという。日本の消費者にとって、今やなくてはならない存在となったアマゾンのように、いかに日本のユーザーになじんだ使いやすいサービスになれるか。同社の取り組みについて、アジア太平洋地域を統括するレイフォード・コックフィールド氏に話を聞いた。
(聞き手/森井一徳、秦和俊)
グローバルでは220万人が配信中
――まずはTwitchの成り立ちを教えてください。
レイフォード・コックフィールド氏(以下、レイ): 米国で生まれた「Justin.tv」というサービスが基になっています。Justin.tvは創業者のJustin Kanが自分の暮らしを一日中ネットで配信したい、というアイデアからスタートしました。その後、総合的なライブストリーミング・プラットフォームとなっていくなかで、2011年にそこからゲームのプレー動画の配信に特化してできたのが「Twitch」です。
――日本でのサービス開始はいつですか。
レイ: 2015年にグローバル展開を始め、日本向けにもサービスを開始しました。昨年2016年は、日本のユーザーがTwitchをどんなふうに楽しんでいるのかを理解するために時間を費やしてきました。また、言語を中心としたローカライズにも本格的に取り組み始めました。UIなど、日本のユーザーに「日本のサービスを使っているようだ」と思ってもらえるようになる必要があるからです。この目標に向けた改善を今年中に完了すべく、取り組んでいるところです。
――プラットフォームとしての現在の規模を教えてください。
レイ: 2016年時点で、グローバルで220万人の配信者がいて、1年間に2920億分(48.7億時間)の視聴がありました。日本では現時点で、毎月3億分(500万時間)の視聴があり、数万人の配信者がいます。日本での視聴時間は、この1年で2倍になりました。
――2倍とはすごいですね。日本以外のアジア太平洋地域ではいかがですか?
レイ: 台湾ではゲーム動画配信でNo.1のプラットフォームになりました。日本、韓国でもNo.1を目指しています。東南アジアや、オーストラリア、ニュージーランドでも規模は拡大しています。
――台湾での成功の理由はどこにありますか?
レイ: 台湾には、韓国における「AfreecaTV」や、日本における「niconico」といった競合プラットフォームがありませんでした。そんな中、いち早くマーケットに入っていけたことでしょう。
――日本は、ローカライズという点で難しい地域だと思いますが、いかがですか。
レイ: その通りです。ローカライズは翻訳会社を雇って、単に英語を漢字やカタカナに置き換えればいい、という話ではありません。真の意味で日本のコミュニティーに入り込んで、コミュニケーションの仕方やどんなコンテンツを見たがっているのか、サイトでの反応などを一つひとつ理解しなければいけません。Twitchの親会社はアマゾンですが、Amazon.co.jpのように言葉遣いやユーザーインターフェースはもちろん、日本に根差したサービスを目指したいのです。
配信者が物販によるロイヤルティーを得る仕組みを導入
――親会社のアマゾンと今後、連携をさらに強めていくのか、Twitchとしての独自性を保つのか、方向性はどちらでしょうか。
レイ: TwitchはTwitchとしてあり続けます。アマゾンのサービスの中に入りたいとは思っていませんし、アマゾンもそれを望んでいません。ですが、アマゾンがどうやって日本に定着したかということを学ぶ必要があると思っています。
アマゾンには我々と大きく関係するプラットフォームが2つあります。1つはAmazonプライム・ビデオなどの映像制作分野、もう1つは小売分野です。これに対して、Twitchにはライブ動画とコミュニティーがあります。両社は互いに学び合えると考えています。
――日本における会社の規模はどれくらいですか。
レイ: 現時点で従業員は5人です。日本で優秀なスタッフを見つけたいと思っていますが、現在は韓国や東南アジア、オーストラリア、場合によっては本社から、サポートで弾力的に運営しています。日本でも徐々にTwitchという名前が知られるようになってきましたが、まだまだ期待しているほどではありません。知名度が上がっていくことで、ゲームや動画コミュニケーションに関心を持っている才能のある方にTwitchで働きたいと思ってほしいですね。
――ゲーム分野の動画配信以外にも事業を広げているのでしょうか。
レイ: 1つは、コンテンツ面で、料理や食事といった動画や、アートやプログラミングといったクリエーティブ分野などに広げています。
もう1つは、アマゾンの協力を得て、動画配信者にメリットを提供する取り組みをしています。具体的には、Amazonプライムと連携して、ゲームメーカーから特典を得られる「Twitch Prime」というプログラムを始めました。また、ゲームメーカーが、配信者のチャンネルを通じて、ゲームやダウンロードコンテンツ、Tシャツのようなアイテムなどを販売できるようにしました。これによって、配信者はロイヤルティーを得られるようになりました。
――ダウンロード版のゲームだけではなく、パッケージ版も売ることができるのですか?
レイ: はい。ダウンロード版もパッケージ版も販売できます。配送はアマゾンが行います。現時点では米国のみのサービスですが、今後サービス地域を拡大していきます。日本は優先順位が高い国です。
――日本ではいつごろスタートできそうでしょうか。
レイ: 今年にはスタートしたいとは思っていますが、まだはっきりとは決まっていません。
人気チームと独占契約などeスポーツにも注力
―― eスポーツの分野にもビジネスを展開されていますね。
レイ: はい。eスポーツはTwitchで大変人気のあるコンテンツの1つですから、eスポーツをサポートすることは、我々のビジネスにとって重要だと思っています。eスポーツを配信するだけでなく、eスポーツリーグそのものを主催したり、関連のビジネスに投資したりと、関わりを拡大しています。
韓国では、人気ゲーム『League of Legends』のチーム「SKT」と独占契約を結びました。“神プレーヤー”とも呼ばれるFakerのプレーを見たければ、Twitchにアクセスすることになります。
――統計データを見ると、世界でのeスポーツ市場は拡大を続けていますが、日本ではどうなると思いますか?
レイ: 世界では、多額の賞金を用意して、強豪チームの参加を促し、その結果、大会が盛り上がるという構図です。しかし、日本は賭博法などの関係で賞金を出すことが制限されているため、同じような構図を作ることができません。
ただ、日本には強いプレーヤーがいますし、多額の賞金を出せなくてもeスポーツの将来は明るいと思います。eスポーツで競いたい人には、それを配信するプラットフォームが必要ですし、我々も地道なサポートを続けることで、ユーザー層の底上げを図ります。やがて世界中の大きな大会に出ていけるようになると確信しています。
――日本でeスポーツ拡大の障壁になっているのは賞金の問題ということでしょうか。
レイ: 賞金の問題とは思いません。いつかは、世界と同じような仕組みのeスポーツイベントを日本でも見たいと思いますが、それまでの間は、決められた範囲の中でイベントが開催されること、同時に日本からは配信を通じて世界のイベントを楽しめることが実現できていればいいと思っています。
―― eスポーツにおける日本と世界でのトレンドの共通点はありますか。
レイ: はい、あります。1つ目は、『League of Legends(LoL)』が大きな成功を収めていることです。RPGやパズルが人気の日本と、海外とでは人気タイトルが違うと考えていたので、LoLの成功は少し驚きでした。
また、格闘ゲームは世界と同様に日本でも人気ですね。ゲームジャンルの違いはそれほどないと思いますが、国内での関心度や、どんな人がゲームをするか、といった点では、少し違いがありそうです。
ハードメーカーとも協業し、プレー動画配信を広める
――さて、PlayStationやXboxといった家庭用ゲーム機は、独自にプレー動画を配信できる機能を組み込み始めています。家庭用ゲームの規模は大きなものですが、Twitchとしては、それ以外の分野に注力していくのでしょうか。
レイ: 家庭用ゲーム機が持つ配信機能とTwitchのサービスは競合するものではなく、互いに市場を盛り上げていけると考えています。Twitchは、家庭用ゲーム、パソコン、スマートフォンといった1つの分野にフォーカスしていくつもりはありません。どんなプラットフォームでもTwitchを使って快適に動画配信ができる環境を、ソフトメーカーやハードメーカーと協業して作り上げていきたいと思っています。
――ハードメーカーとも協業しているのですね。
レイ: そうです。任天堂、ソニー、マイクロソフトと密に協業しています。繰り返しになりますが、家庭用ゲームに限らず、ウェブからでも、モバイルからでも、どんなプラットフォームからでも、Twitchの動画配信やチャットシステム、新たに立ち上げたショッピング機能などを、できるかぎりスムーズに体験していただくために、関係するすべての企業と協業しているのです。
――新たな機能としてSNSサービス「Pulse」を始めましたね。
レイ: はい。これまでも、動画配信中には多くの人がSNSを通じてチャットを楽しんでいましたが、配信が終了してしまうと、そのつながりも切れてしまっていました。PulseはTwitchを通じて、ずっとつながっていられるSNSサービスです。
Twitchは単なるビデオプレーヤー、動画配信サービスではありません。Pulseのような機能で、コンテンツをまるごと楽しみ、シェアし、インタラクティブなコミュニティーが育っていくことを期待しています。
――3月には、『Power Rangers』(日本の特撮テレビシリーズ「スーパー戦隊シリーズ」の米国ローカライズ版)のシリーズ全作品を17日間にわたり、連続で配信するという試みをしました。
レイ: Twitchのユーザー層であるゲームファンには『Power Rangers』のようなコンテンツがとても好まれます。ですから、今回、このような企画を実施できたことは自然な流れだと思っています。
――日本のユーザーに向けて、例えばアニメを流す、といった考えはあるのでしょうか。
レイ: アニメには放映権の関係で、グローバルで配信できるコンテンツが少ないという問題があると思っています。Twitchが大切にしている考えの1つに、コンテンツは地域制限なく世界中で見られるようにすべきだ、というものがあります。現時点では、Twitchで地域制限をかけているコンテンツはありませんし、今のところ、このポリシーを変えるつもりはありません。
――とすると、あくまでグローバルのユーザーが楽しめるコンテンツを流していく、という考えなのですね。
今年の東京ゲームショウでは新たな発表も
――日本の東京ゲームショウ(TGS)には、2015年にアマゾンと共同で、2016年には単独で出展しました。いかがでしたか。
レイ: 2015年は試験的な参加でした。アマゾンから誘いがあり彼らのブースの中に出展したのですが、TGSがどんなイベントか、ユーザーはTwitchとどう関わりたいのか、他国のイベントとどう違うか、といったことを知ることができました。実際には、他の国の大きなゲームショウとほぼ同じであることが分かりました。
そして、2016年には満を持して単独で出展し、ステージショー、インタビュー、パートナーの登壇など、Twitchらしい演出で出展を成功させました。
2017年には、新しいことに挑戦したいと思っています。これまでの2年間と少し違うのは、日本のコンテンツクリエーターをもっとステージに呼びたいと思っていることです。また、TGSに来てくれたTwitchのコミュニティーを、配信を通じて世界中のユーザーに紹介したいと思っています。
――今年のTGS(2017年9月21~24日に開催)で何か新しい発表はありますか?
レイ: はい。今年のTGSでは、いくつかエキサイティングな発表ができそうです。楽しみにしていてください。
――最後に日本における2017年の抱負について教えてください。
レイ: 目標は、Twitchが日本のユーザーに、「日本のサービス」と思ってもらえるようになることです。日本のコミュニティーが望むことを、どれだけ実現できるかが、その鍵になると考えています。それが達成できれば、2018年にはより多くのユーザーがTwitchを使ってくれるようになるはずです。
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