2013年7月に発売を開始した『妖怪ウォッチ』シリーズが、2014年に放送を開始したテレビアニメをきっかけにブレイク。いまや日本を代表するゲームメーカーの1社になったレベルファイブ。同社はゲームだけでなくアニメシリーズや玩具などを含めたクロスメディア展開を10年近く実践してきた。2017年は、4月に新クロスメディアタイトル『スナックワールド』のアニメ放送がスタート、10月には『イナズマイレブン』の新シリーズも予定されるなど、アニメとゲームのクロスメディアは一層の発展を遂げそうだ。同社の日野晃博社長/CEOは、「2017年は新しいことにどんどん挑戦する1年になりそう」と語る。同社の今後の戦略を日野氏に聞いた。

(文/上原太郎、写真/飯山翔三)

日野晃博(ひのあきひろ): レベルファイブ 代表取締役社長/CEO。福岡の開発会社でメインプログラマー、ディレクターを経て、子供たちにワクワクしてもらえるゲームを作りたいという思いから、1998年10月にレベルファイブを設立。世界累計出荷1600万本以上を記録した『レイトン』シリーズなど、幅広いユーザーに向けた温かみのある作品づくりが特徴。またクロスメディア展開を得意とし、『イナズマイレブン』シリーズ、『妖怪ウォッチ』シリーズなどヒット作を次々とプロデュースする
日野晃博(ひのあきひろ): レベルファイブ 代表取締役社長/CEO。福岡の開発会社でメインプログラマー、ディレクターを経て、子供たちにワクワクしてもらえるゲームを作りたいという思いから、1998年10月にレベルファイブを設立。世界累計出荷1600万本以上を記録した『レイトン』シリーズなど、幅広いユーザーに向けた温かみのある作品づくりが特徴。またクロスメディア展開を得意とし、『イナズマイレブン』シリーズ、『妖怪ウォッチ』シリーズなどヒット作を次々とプロデュースする

2016年は『妖怪ウォッチ』や映画などを多数展開

――昨年のインタビューで「2016年は『妖怪ウォッチ』シリーズにとって区切りの年になりそう」とおっしゃっていた通り、7月に『妖怪ウォッチ3 スシ/テンプラ』、12月に『妖怪ウォッチ3 スキヤキ』と2本のゲームを発売。12月には『映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!』が公開されました。アニメーションパートと実写パートとを登場人物が行き来するという斬新な設定でしたが、こうしたアイデアはどこから生まれたのですか?

日野晃博社長(以下、日野氏): 『妖怪ウォッチ』の映画は年に1本ずつの公開ペースを守りたいと考えているのですが、そのスケジュールで実写パートを挿入するとなると40分しか作れないと言われたんです。その40分しか使えない実写パートをうまく使って1つのお話にするに当たり、オムニバスのようなやり方も考えられたのですが、それでは前作(2015年12月公開の『映画 妖怪ウォッチ エンマ大王と5つの物語だニャン!』)と同じなのでちょっと変わったやり方でやろうということになったのです。

――実写とアニメを融合させたいというところからアイデアが出てきたということですね。

日野:  ただ、実写パートを作るに当たってはいろいろ大変でした。そもそも実写パートとアニメパートでは演出上の違いがあって、自分が思っていたようなシーンになっていなかったりするんです。例えば、実写とアニメでは“間”がやっぱり違うんですよね。実写だとどうしてももたついているように感じてしまうというか。どうやったらアニメのようなテンポ感を持たせられるかは、すごく悩んだところでしたね。テンポ感がなくなると『妖怪ウォッチ』らしさもなくなるので。試行錯誤の結果、何とかテンポの速い映像になりました。分からないことは結構多かったですが、実写はやっぱり面白い。挑戦して、僕はかなり良かったなと思っています。

 今年の12月に公開予定の映画『妖怪ウォッチ』第4弾でも、新たな挑戦をします。映画はやっぱりエンターテインメントとして面白いことをやらないといけないと、常に考えています。かなり冒険的なので、いつもは僕がシナリオの大筋を書いた後、細かく詰める作業は別のスタッフに任せたりするんですが、次回の映画は1人で最後まで書き上げました。あまりにも冒険的なので、いわゆる『妖怪ウォッチ』だと思って観るとびっくら仰天ですね(笑)。新しいエンターテインメントとして楽しんでもらえるはずです。もちろん『妖怪ウォッチ』ですから、大人も子供も楽しめます。近日中には、具体的な情報をお出しできると思います。

『映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!』。アニメパート(左)と実写パートから構成されている<br>(C)LEVEL-5/映画『妖怪ウォッチ』プロジェクト2016
『映画 妖怪ウォッチ 空飛ぶクジラとダブル世界の大冒険だニャン!』。アニメパート(左)と実写パートから構成されている
(C)LEVEL-5/映画『妖怪ウォッチ』プロジェクト2016

――ゲーム『妖怪ウォッチ3』は、『スシ/テンプラ/スキヤキ』の3タイトルを合計して、200万本以上の売り上げという結果になりました。

日野:  やっぱり『妖怪ウォッチ2』(2014年7月)のころよりは、だいぶ落ちついているというのが正直なところですね。関連商品の売り上げもそれに伴っています。要因は1つで、『妖怪ウォッチ2』の大ブームのときは、小学生だけでなく、もっと上の人たちまで購入者層が広がっていました。それが、時間がたつにつれ、子供向けコンテンツというイメージになってきている。200万本はゲームとしては十分ヒットしているといえる数字ですが、今後もゲームをビジネスとしてやっていくには、その上の層をしっかり取り返さなければならないなと、いろいろ考えているところです。

――コンテンツとしては完全に定番化しています。

日野:  そうですね。ただ僕は、定番化や安定収益化にはあまり価値を見い出していないんです。おかげさまでテレビアニメの視聴率は好調なのですが、ゲームも売っていかないといけないわけですから、毎回違う面白いことをしてソフトや商品を買いたいと思ってもらわないと。だから『妖怪ウォッチ4』は、いろいろ趣向を凝らしたものにしなきゃいけないと考えているところですね。今年公開の映画から、新しい流れが始まるはずです。

『妖怪ウォッチ 3 スシ』<br>(C)2016 LEVEL-5 Inc.
『妖怪ウォッチ 3 スシ』
(C)2016 LEVEL-5 Inc.
『妖怪ウォッチ 3 テンプラ』<br>(C)2016 LEVEL-5 Inc.
『妖怪ウォッチ 3 テンプラ』
(C)2016 LEVEL-5 Inc.
『妖怪ウォッチ 3 スキヤキ』<br>(C)2016 LEVEL-5 Inc.
『妖怪ウォッチ 3 スキヤキ』
(C)2016 LEVEL-5 Inc.

『スナックワールド』ではゲームと玩具が連動

――2016年は自社での番組配信や音声収録の拠点となる「L STUDIO」が稼働し始めました。

日野:  配信スタジオとしては既にかなり使っていて、すごく効果的かつ快適です。この4月からは、音響スタジオとしても稼働していて、声優収録関係の自由度がかなり上がると思います。環境も最高レベルに整えていますし。もちろん声優さんのスケジュールには左右されますが、それ以外の細かな調整などの制約が少なくなるということですね。今後、うちの作品はほぼ全部ここで収録するようになります。

L STUDIOは番組配信や音響スタジオの拠点となる
L STUDIOは番組配信や音響スタジオの拠点となる

――2016年10月には、福岡本社と同じビルに、フリースタイルワークという会社を設立されました。グラフィック制作の会社で、デザイナーが好きな時間帯を選んで働けるという新しい試みをされているそうですね。

日野:  クリエーターの素質を持っているのに、いろいろな状況で働けない人たちがいると思っていました。例えば、子供が生まれてフルタイムでは働けなくなるけれど、1日3~4時間ぐらいだったらクリエーティブワークをやりたいなとか。あとは、勉強や経験の意味でグラフィック制作に触れたい学生なども想定しています。もちろん面接して実力も見せてもらうので、誰でもいいわけじゃないですが、いろいろな事情でクリエーティブな仕事をしたくても会社には入れない状況にある人たちに、気軽に働いてもらえるような環境を整えたいと考えました。今、人数を絶賛増やしている最中です。

――2017年に話を移すと、4月からクロスメディアプロジェクトの第4弾となる『スナックワールド』のテレビアニメ放送が始まりました。7月にはゲーム『スナックワールド トレジャラーズ』が発売予定です。ゲーム内に登場するアイテムである「ジャラ」や「スナック」は、NFCチップを内蔵した玩具としても発売され、ゲームと玩具が連動するとアナウンスされています。

日野:  自分たちでも改めてゲームと玩具が連動する仕掛けがすごいなと思えるようになっています。春にテレビアニメが始まり、夏にゲームや玩具などが一斉に出ると、そこからまたいい形で話題になっていくんじゃないかと考えています。

 アニメではテンポの良さを大切にしました。お話とか会話のテンポとかも、ほかのアニメよりずっと速いんですよ。その辺はぜひ注目してください。子供たちは頭の回転が速いので、ついて来られると思うんです。

 あとキャラクターの動きは、普通に作った映像からわざわざ中抜きをしているんですね。人形劇のコマ撮りみたいにカクカク動いて見えるように。飛ぶシーンとかは、いつも通りなめらかな動きで見せつつ、キャラクターのアクションに関してはわざとそうしています。ギャグで自然に笑えるようにしたいし、やっぱり独特の雰囲気みたいなものが出てほしいと思うので。ディズニー作品のようになめらかに動かした方がいいのか、モーションキャプチャーでやるのかなどいろいろな実験をした結果、今回は現在の方法が一番面白くなると考えています。

――ブラックユーモアを交えた展開も話題です。

日野:  中盤くらいでビックリすることが起こるかもしれません(笑)。1話から徐々に羽目を外していく感じ。上の年代の視聴者にも見てもらえるようにそういう方向でやっているんですけどね。

テレビアニメ『スナックワールド』は今年4月から放送を開始した<br>(C)LEVEL-5/スナックワールドプロジェク卜・テレビ東京
テレビアニメ『スナックワールド』は今年4月から放送を開始した
(C)LEVEL-5/スナックワールドプロジェク卜・テレビ東京
ゲーム『スナックワールド トレジャラーズ』は7月13日発売予定<br>(C)LEVEL-5 Inc.
ゲーム『スナックワールド トレジャラーズ』は7月13日発売予定
(C)LEVEL-5 Inc.
ゲーム内に登場するアイテム「ジャラ」が製品化され、ゲームと連動する仕掛け
ゲーム内に登場するアイテム「ジャラ」が製品化され、ゲームと連動する仕掛け

『イナズマイレブン』新作はファンと一緒に作っている

――10周年を迎える『イナズマイレブン』は、今年9月に「大復活祭」というイベントを開催、10月にテレビアニメの新シリーズ『イナズマイレブン アレスの天秤』の放送が開始されます。アニメ放送の1年以上も前から、パイロットフィルム的な映像や日野社長も出演されている番組をL STUDIOからネット配信するという、これまでになかった試みをされています。

日野:  そうですね。ちょっと新しいアプローチでコンテンツを打ち出してみています。今のネット時代の1つの手法として、こういうやり方もやってみようということで。今は、配信番組をほぼ毎月やっていて、その中でお客さんと一緒にキャラクターをどうしようとか決めたりしているんですよ。ファンの方と一緒に作品作りをしているみたいな雰囲気です。反応がかなり熱いんですよ。例えば、2月の「イナズマイレブンとのバレンタイン2017」では、各キャラクターに送りたいチョコの写真をツイッターに投稿してもらうという企画を行いました。4451個の投稿があったのですが、1個1個手が込んでいて本当にすごいんです。

――大復活祭はどんなイベントになりそうですか?また、新作ゲームはどのようなものになりそうでしょうか?

日野:  まだ決まってない部分が多いのですが、何千人か集まれる会場で行いつつ、全国何カ所かの劇場でライブビューイングを見られるようにもするという感じになりそうです。新作ゲームの情報はまだはっきり話せないのですが、高品質のゲーム機でも出すということは先日の配信番組で言いました。その新作は、同時にスマートフォンでの展開も考えています。スマートフォンへの子供たちの憧れは、急速に強まっていると思います。

10月から放送開始予定の『イナズマイレブン アレスの天秤』<br>(C)LEVEL-5 Inc.
10月から放送開始予定の『イナズマイレブン アレスの天秤』
(C)LEVEL-5 Inc.

――小学生ぐらいの子供にとっても、早晩スマートフォンがメインのゲーム機ということでしょうか。

日野:  いや、それは何とも言えないですけど。ただ、スマートフォンは近い将来、子供が持つアイテムになるとは思います。

Nintendo Switchの対応ソフトを制作中

――据え置き機としても携帯ゲーム機としても遊べる「Nintendo Switch」が3月に発売になりました。

日野:  Switch、いいと思いますね。『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』がめちゃくちゃ面白くて。やばいなっていうくらい(笑)。実は自分でSwitchで遊んでみて、開発段階のときとすごく印象が変わったんです。家の外と中で一緒に遊ぶスタイルってどうなのかなと思っていたのですが、相当可能性があると感じています。

 まず『ゼルダ』がやたら面白いので、僕自身持ち歩いて飛行機の中でも一生懸命プレーしています。任天堂さんにもらった本体は、コントローラーに赤と青の色が付いているモデルだったのですが、あまりに頻繁に持ち歩いていると周りの目が気になり始めて、周辺機器としても発売している黒のコントローラーを自分で買って増設しました(笑)。

 このSwitchのスタイルは対戦型のゲームにすごくフィットしていると思います。実際に集まっても遊べるし、オンラインでもプレーできる。例えば、会社内のゲーム好きで集まって『マリオカート』をやるとか、すごく魅力的で楽しそうだなと思うんですよね。うちでも、まだ内容は言えませんが、対応ソフトを作っています。

――対戦型のゲームと言えばe-Sportsが注目を集めています。

日野:  e-Sportsに関しては、ゲーム業界全体としてこれから積極的に取り組んで良いのではと思うんです。例えば『スプラトゥーン』みたいなゲームが出てくると、上手なプレーヤーの格が上がるというか、ゲームがうまい人を尊敬するということがあり得るんだろうなと思います。e-Sports的なイベントを通じて尊敬されるプレーヤーが出てくることで、ゲームをするということ自体にメジャー感が出てくる。それがゲームの地位の向上にもなるかなと。

 ただ、どういうゲームを扱うかはちょっと何か考えなきゃいけないですけどね。特定のゲームだけがe-Sportsの対象ソフトとして認められるということで良いのか。

――確かにそれでは各メーカーの我田引水になってしまい、盛り上がりに水を差すことになるかもしれません。

日野:  だからe-Sportsも、例えば1つのゲームだけで競い合う大会じゃなくて、さまざまなジャンルのゲームで選手を総合評価するみたいな形があってもいいかもしれません。「この人は『スプラトゥーン』で強いだけじゃなくて、パズルゲームの謎解きも早いんだよ」と。そういういろいろなゲームで評価されるような、プレーヤーステータスのようなものがあると面白いと思います。PlayStation 4に「トロフィー」(ゲーム内で一定条件を満たせば獲得できる。PS3やPS Vitaにも同サービスがある)機能がありますが、あれをモチベーションにしている人っていると思うんですよね。

――最後に改めて2017年はレベルファイブにとってどのような年になりそうですか。

日野:  2017年は、『スナックワールド』をはじめとして、新しいものが目白押しになりそうですので、やっぱり挑戦する年になるかなと思っています。これからは『ファンタジーライフ オンライン』『オトメ勇者』『レイトン ミステリージャーニー カトリーエイルと大富豪の陰謀』とリリースが続いていきますので、ぜひ期待してください。

『ファンタジーライフ オンライン』<br>(C)LEVEL-5 Inc.
『ファンタジーライフ オンライン』
(C)LEVEL-5 Inc.
『オトメ勇者』<br>(C)倉花千夏 (C)LEVEL-5 lnc.
『オトメ勇者』
(C)倉花千夏 (C)LEVEL-5 lnc.
『レイトン ミステリージャーニー カトリーエイルと大富豪の陰謀』<br>(C)LEVEL-5 Inc.
『レイトン ミステリージャーニー カトリーエイルと大富豪の陰謀』
(C)LEVEL-5 Inc.
TOKYO GAME SHOW 2017 公式サイト
日本ゲーム産業史
ゲームソフトの巨人たち
日本ゲーム産業史 ゲームソフトの巨人たち


コンピュータゲームが誕生してから半世紀あまり。今や世界での市場規模は10兆円に迫る一大産業の成長をリードしてきたのが日本のゲーム会社だ。ベンチャー企業であった彼らが、どのように生まれどうやってヒットゲームを生みだして来たのか。そして、いかにして苦難を乗り越え世界で知られるグローバル企業になってきたのか。その全容が日経BP社取材班によって解き明かされる。

日経BP社 ゲーム産業取材班 著
価格3024円(税込)

AMAZONで買う

この記事をいいね!する