2016年は「想定を超える“熱量”で遊ぶゲームファンの増加」に衝撃を受け、ユーザー層の変化と拡大を肌で感じたというコロプラの森先一哲取締役。主力のスマホゲームでは、一部の人気ゲームにユーザーが集中し、固定化するランキングの牙城を切り崩そうと、毎回新たな“挑戦”を盛り込んだ新作を投入し続ける。そうした持ち前の開発力は、他社に先駆けて力を入れてきたVR(仮想現実)ゲームでも生かされている。“スマートフォンゲームの雄”が、今年はどんなアプローチで目まぐるしく変化する市場に挑むのか。

(聞き手/渡辺一正、酒井康治=nikkei BPnet、写真/稲垣純也)

森先一哲(もりさきかずのり):コロプラ取締役 Kuma the Bear開発本部長。コンシューマゲーム業界でデザイナーおよびディレクターとしてさまざまなゲーム開発に携わったのち、2012年3月にコロプラに入社。同年10月にはKuma the Bear開発部長に就任し、『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』『白猫プロジェクト』といったスマートフォンアプリのヒットに貢献。2014年12月、取締役に就任(現任)。
森先一哲(もりさきかずのり):コロプラ取締役 Kuma the Bear開発本部長。コンシューマゲーム業界でデザイナーおよびディレクターとしてさまざまなゲーム開発に携わったのち、2012年3月にコロプラに入社。同年10月にはKuma the Bear開発部長に就任し、『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』『白猫プロジェクト』といったスマートフォンアプリのヒットに貢献。2014年12月、取締役に就任(現任)。

“熱量”を持ったユーザーの消費に応えるボリュームが必要

━━まず、コロプラにとって2016年はどのような1年でしたか。

森先一哲取締役(以下、森先氏): 英国のEU(欧州連合)離脱や米国でのトランプ大統領の誕生など、世の中全体で見れば非常に慌ただしい1年だったという印象ですが、スマートフォンゲーム業界でも『ポケモンGO』や任天堂の『スーパーマリオラン』など、これまでとかなり異なる動きが出てきた年でしたね。こんなことが起こるのか……と思うような変化だったと思います。その中でコロプラは何をしていたか、と考えてみると、2016年は一昨年の勢いを引き継いで順調にスタートしましたが、後半は外的な市場変化に対応すべく内的な変化を模索した1年でした。

 新作スマホゲームを3本リリースし、これまでと同じ運用を続けていたのですが、お客様の動きに大きな変化がありました。例えば2016年6月に『ドラゴンプロジェクト』をスタートしたところ、想定していた以上の“熱量”を持ったユーザーの方たちに遊んでいただくことができました。ゲーム好きの人たちは遊ぶペースが非常に早いので、次から次へとコンテンツを消費します。次第に楽しむものがなくなってくると、当然、他のゲームに流れてしまうというサイクルが生まれます。

 コロプラのゲーム運用の強みは、リリースした後に投入するイベントを生かした楽しませ方にあると思っていたのですが、ユーザーの方々の熱量とペースは想定を超えていました。当時、我々がリリース前に用意していたボリュームでは、追い付かなくなっているのだなと痛感しました。今後ゲームをリリースするときには、最初の段階で十分遊んでもらえるだけのコンテンツ量を用意しておく必要があるなと改めて思いましたね。

━━そうした現象が起こった理由はどこにあると思いますか。

森先氏: いろいろな要因が重なっていると思いますが、一つはスマホでゲームを遊ぶ人の増加により、リリースされるゲーム全体の本数が増えたことです。新作が出ればまず飛び付いてみて、一気に遊び切らないと他のゲームも遊べません。たくさんゲームが出てきますから、熱心なユーザーの方たちは遊ぶペースも早くなります。

 もう一つは、より高度なゲームの運用方法が求められていることです。数年前までは、ユーザーの方々の動向を見ながらゲーム内のパラメーターを調整する方法でも、さほど時間をかけず運用できました。

 しかし、昨今のスマホゲームは開発段階やリリース後の運用でもコストがかかるようになり、さらにその内容は非常に難易度が高くなっています。そういう状況では、ユーザーの方々の動きが加速した場合に、即座に反応できる開発・運用体制がうまくかみ合わなくなる状況が起こり得ます。これまで以上に注意深くユーザーのみなさんの動向を見ていく必要性を感じています。

面白いゲームを作っているだけでは勝負できない

━━それだけ熱心なユーザーが増えているのですから、逆に捉えればビジネスチャンスが広がったとも考えられますよね。

森先氏: もちろんスマホゲーム市場自体は大きくなっていますからね。そこでもう一つ変わったなと思っているのが、ユーザー層です。あまり周囲に流されず、自分が好きなゲームに熱中するようなコアファンだけではなく、みんなが遊んでいるゲームを遊びたいという層が非常に増えている気がします。ゲーム自体に熱気があると、そうしたユーザーの方々も集まってくるのですが、ユーザー数が減ったりするとすぐに別のゲームに乗り換えてしまう傾向が強いのではないかと思っています。

 スマホゲームランキングを見れば一目瞭然で、トップ10のゲームの顔ぶれはあまり変わりませんよね。人気のある一部のタイトルに人が集まり、ずっとそれが伸び続けます。このように人気ランキングが固定されるような状況になったのが2016年だと思います。

 2016年は『激突!! Jリーグ プニコンサッカー』『ドラゴンプロジェクト』『白猫テニス』の3本の新作をリリースしました。最後の『白猫テニス』の配信開始が7月31日で、その直前に『ポケモンGO』がリリースされたのですが、さすがに影響を受けないことはないだろうと予想していました。実際『ポケモンGO』はこちらが想像していた以上の出来でしたし、そんな状況下では『白猫テニス』は健闘したといえると思っています。

『ドラゴンプロジェクト』 (c)2016-2017 COLOPL, Inc.
『ドラゴンプロジェクト』 (c)2016-2017 COLOPL, Inc.
『白猫テニス』 (c)2016-2017 COLOPL, Inc.
『白猫テニス』 (c)2016-2017 COLOPL, Inc.

 このように、2016年は他社がリリースするタイトルとの兼ね合いについても、より考慮しなくてはいけないということが体感として分かりました。先ほど話したように、有名なヒットタイトルに人が多く集まるので、それが盛り上がっている間は他のタイトルに移ってもらえない可能性が高いからです。

━━いいゲームを次々投入していくだけではダメだと……。

森先氏: 当然面白いゲームであることが最重要ですが、それだけでなく他社の動向を注視しておかないと、こちらの事業展開も難しくなります。2~3年前なら、まだコロプラのゲームを選んでもらいやすい状況にあったと思いますが、現在はクオリティーの高いゲームがたくさん出てきています。しかも2016年になって「IP(アニメやゲームのキャラクターなどの知的財産)モノ」と呼ばれる有名なキャラクターを使ったゲームが増えてきました。強いIPを活用したゲームにランキングの上位が固定されてしまうので、今までは普通にゲームの面白さだけで勝負してもなんとかなったのが、それだけではうまくいかなくなりましたね。

新作ゲームに盛り込まれた“挑戦”

━━スマホでも人気タイトルを生み出せるメーカーが固定化されつつあるというのは、据え置き型ゲーム機の状況と似てきましたね。

森先氏: ゲームユーザーということで考えれば、感覚値ですがスマホの普及率がほぼ100%に近いところまできていると思うので、この先新しいユーザー層が入ってきて市場が劇的に変わるようなことはないでしょう。そして、スマホに替わる新デバイスが出てきたわけではないので、この市場がすぐに小さくなる理由もないと思います。役者(ゲームメーカー)がそろい、お客様もそろった中での勝負が続くことになるでしょう。

━━そうした中、コロプラとしてはどのような手を打とうとお考えですか。

森先氏: もちろん、他社と同じようなものを作っていこうとは考えていません。コロプラだからこそできることを非常に大事にしています。ただ、お客様が求めるものはしっかり満たしていく必要があります。その一つはクオリティーや完成度の高さ、加えて長く遊べるようなボリュームとゲームの設計です。そこにゲームの人気の高さを分かりやすく伝えられるようなフレーバーやIPといった工夫が大切になってくるでしょうね。

 そうしたニーズを満たしつつ、これまでリリースしてきたゲーム同様、「コロプラらしさ」を取り入れていきたいと考えています。うちでは新作を評価する際に、何か一つでも“挑戦”しているかどうかを重視します。コロプラのゲームには、挑戦はあってしかるべきなんです。

 例えば『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』では、当時あまりなかったネイティブアプリでリリースし、なおかつオンラインでの運用を取り入れました。また『白猫プロジェクト』では指1本で快適に楽しめる次世代インターフェース「ぷにコン」を開発し、スマートフォンでは難しいといわれていた3DアクションRPGを実現しました。さらに『ドラゴンプロジェクト』でも、たくさんのお客様が同時に楽しめ、アクション要素を強めたMMO(大規模多人数同時接続型)を取り入れることに挑戦しました。

『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』 (C)2013-2017 COLOPL, Inc.
『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』 (C)2013-2017 COLOPL, Inc.

━━『白猫テニス』ではどんな挑戦が?

森先氏: 『白猫テニス』では“白猫”のIP展開を試したことと、ユーザー同士の対戦をメーンとしたPvP(プレーヤー同士の対戦)を取り入れたことですね。このようにコロプラとしてこれまでやっていなかったことを取り入れているかどうかを重視していて、これは今後も続けていきます。ランキングが固定化され、「スマホゲームってこういうものだよね」というユーザーの方々の認識に対し、少しでも新しい提案ができればいいなと思っています。

 コロプラはゲームの“多様性”を大事にする会社です。進化というのは1軸で進んでいくのではなく、さまざまな可能性を同時に世に放って、その中の1つが何かを得てまた次の時代を作っていくようなものだと思います。ですから新作を出し続けるというスタンスはこれからも変わりませんし、そこだけは譲れません。もちろん現在提供している各タイトルにおいても同様で、そのゲームシステム、世界観の中で新しい遊びを開発し続けることを大切にしています。今までとは違った仕掛けをたくさん用意してファンの皆さまに楽しんでいただき、さらにまた新しいゲームを投入して新たなお客様を呼び込んで生きていく……それがうちのスタイルだと思います。作り続けないと、発明も止まってしまいますしね。

海外向けにゲームを変える意味とは

━━海外マーケットについてはどのような戦略を考えていますか。

森先氏: 海外展開については大事にしていますし、現在も継続して取り組んでいるのですが、正直難しいという印象です。なぜでしょう、日本だけが特殊な感じがしますね。隣の国であっても、遊んでもらうにはその国に合わせてゲーム内容に変更を加えたほうが良いと思ってやってきていますが、ひょっとしたら変えなくていいのかもしれない。変えなくてもうまくいくゲームというのが正しい気がしますし……そうした難しさがあります。

 スマホゲームの市場として日本のマーケットは大きく、何万人にも遊んでもらうことを想定してビジネスプランを設計しています。例えば韓国など、全体的な市場が日本よりも小さい状況で、さらに日本のゲームが好きな方をターゲットとすると、ビジネスとして成り立たせるのは大変です。それでも韓国や台湾では『クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ』や『白猫プロジェクト』を展開し、多くの方にプレーしていただくことができました。やはり現地の文化を学んで、カルチャライズすることが大切だと感じましたね。ただ、現地を理解し、そこに合わせることは確かに大切なのですが、一方で違う考え方も同時に持っています。世界的にヒットしているゲームは、言語を変えているくらいで基本的に中身は同じですよね。これはあくまで個人的な考えなのですが、本質的にはそれが正しいような気がします。もっとも、そうしたゲームをどう作ればいいのかが難しいのですが。

 一方、米国は最も困難な市場といえると思います。人気ゲームのランキングがほぼ固定されていて、新しいゲーム会社の新作ゲームが上位に食い込んだという話は、ほとんどないような気がします。私の中で2016年に印象に残ったゲームといえばSupercellの『クラッシュ・ロワイヤル』くらいでしょうか。米国のスマホゲーム会社はものすごくお金をかけてプロモーションしますから、それについていくだけでも相当な体力を要します。

━━最初から海外を視野に入れたゲーム開発というのはいかがでしょうか。

森先氏: それも考えていて、2015年4月にリリースした『ランブル・シティ』は、街作りをコンセプトにしているのですが、他のプレーヤーとのバトル要素を加え、街作りで“勝負”するというゲームです。この辺りは海外展開を意識して設計したポイントといえます。日本では非常に熱心なファンを獲得していて、今でも継続して遊んでいただいていますが、全体のユーザー数は、日本でシミュレーションゲームをやる人はこんなに少ないんだ、と感じる程度にとどまっています。

 海外版のリリース時は、現地の方の趣味嗜好を意識し、日本版にはない機能として、他のユーザーの街に攻め込めるようにしました。もともと、自分自身の街作りと、どこにも属さない街に4人集まって街づくりの腕を競い合うというサイクルを回していくゲームに、「他人の街に攻め込む」という機能を盛り込んだということです。ただ、海外で受け入れられたかというと厳しい状況です。シミュレーションゲームは本来、世界中の誰がやっても遊び方は同じなので、あえて変更を加えずに出しても面白かったのではないかという思いもあります。

 いくつか海外向けに展開して感じたのは、多くの国には日本のモノが好きという層が一定数います。日本版で人気だったゲームを、そういった層に向けて出した方が成功する確度が高いのではないかということです。もちろん、それぞれの市場自体は小さいものですけど。

 海外向けのゲームは、現地の人が作った方がいいと思いますが、海外にオフィスを抱えてやっていくのも大変です。それに人気ゲームの固定化が進んでいる今、米国人が作っても米国でヒットを飛ばせない状況ですから、正直、答えを出すのは難しいです。

『ランブル・シティ』 (C)2015-2017 COLOPL, Inc.
『ランブル・シティ』 (C)2015-2017 COLOPL, Inc.

VRならではのゲームを作り続ける

━━コロプラの動きで気になるのは、VR(仮想現実)ゲームの動向です。現在、どうなっていますか。

森先氏: すぐに投資が回収できるような環境ではなく、市場と呼べる規模になるにはまだしばらくかかるでしょう。2017年も将来の準備期間といったところではないでしょうか。しかし、もともとそう思ってやってきているので、特に驚いているとかいうことはありません。

 2016年は「VR元年」と呼ばれ、大手の有力なVRデバイスが3種類登場しましたが、今はその熱がいったん落ち着いた感じがします。ユーザーの方たちにとってVRはただの夢ではなくなって、多少現実味を帯びてきたからでしょう。ソニー・インタラクティブエンタテインメントの発表によると、今年2月19日までのPlayStation VRの全世界出荷台数が91万5000台ということですから、他のハードを合わせてもそれほど多く出回っているわけではありません。ですから、まだ商売にならなくても当たり前だと思っています。

━━そうなると、今年はVRゲームについては多少、様子見といったところでしょうか。

森先氏: 実はVRにおいて大切なこと、どういう技術の検証が必要なのかといった根本的な考え方は最初の頃とあまり変わっていません。VRにふさわしい体験をしてほしい、VRにふさわしいゲームを作りたいと考えているので、コロプラはVR専用タイトルを開発しているのです。とはいえ、未体験の人に「VRってどうなんだろう?」と思わせるフックのようなものは必要だと考えています。その辺りの試行錯誤をするのが今年でしょうね。

 これまで先行して開発してきたので、さまざまなVRの問題は解決しつつありますから、できることは増えてきました。この先、VRゲーム市場が本格的に立ち上がったときに勝負するために何を上乗せしていくのか、それを考えるのが今だという気がします。開発チームも結構な規模になっていますから、様子見などではなく、今年、そして来年を信じてこれまで通りやり続けていきます。

━━“VRならでは”のゲームとは、どういうものなのですか。

森先氏: 去年の3月に『Fly to KUMA』というパズルゲームをリリースして、最初は「これってVR向きだな」と思っていたのですが、ちょっと操作が難しい。ゲームとしては面白くても、大変だなと感じる人も多いだろうと。もっと感覚的に遊べるものが向いていると思うようになりました。例えばホラーや音楽のように、現実世界では体験できないけれど想像したことはあるようなものを、もう一つ別の世界を用意して再現する、そうしたものが適している気がします。VRである必要があるのかではなく、VRでしか体験できないものを提供するのが正しいのでしょう。

 いろいろな実験も必要になるので、こうした考え方やノウハウは、やはり作り続けなくてはなかなか得られません。新しいプラットフォームが生まれるときは、新しいスターが生まれるものです。それに期待していますし、願わくはその中にコロプラがいたいですね。

『Fly to KUMA』(C)2016 COLOPL, Inc.
『Fly to KUMA』(C)2016 COLOPL, Inc.
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日本ゲーム産業史
ゲームソフトの巨人たち
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