『真・三國無双8』や『進撃の巨人2』など人気シリーズの新作を2018年前半にリリースしたコーエーテクモゲームス。2017年度第3四半期決算では、営業利益や経常利益が過去最高を記録するなど、経営は堅調だ。新旧タイトルをPlayStation4やNintendo Switchなどの家庭用ゲーム機だけでなく、SteamなどのPC版へ展開することで、世界的に売り上げが伸びた。さらにグローバル市場での存在感を高めるために開発体制、プロモーション施策などを練り直す。鯉沼久史社長に2018年の方針を聞いた。
(聞き手/山中浩之=日経ビジネス、渡辺一正=コンテンツ企画部、写真/中島正之)
家庭用ゲーム機の好調で明るい兆し
――「台北ゲームショウ2018」(現地時間1月25日~29日)はいかがでしたか。
鯉沼久史社長(以下鯉沼氏): 例年、ソニー・インタラクティブエンタテインメントブース内に出品しており、今年は『真・三國無双8』と『進撃の巨人2』の2作品を展示しました。またスクウェア・エニックスさんのタイトルで、当社が開発した『ディシディア ファイナルファンタジー NT』もありましたので、非常ににぎやかでした。
――『三國志2017』のアジア圏向けの配信も始まります。
鯉沼氏: そうですね。中国から配信をスタートして、あっという間に300万ダウンロードを超えました。中国はアプリが非常に強いです。台湾や韓国はアプリも強く、パッケージも売れるような市場になっています。東南アジアも今後、非常に魅力のある市場になるのではないかと思います。
――2017年を通じてはいかがですか。第3四半期の数字まで見ても、かなりいい1年だったのでは?
鯉沼氏: 2017年上期は少し苦戦しましたが、リリースしたタイトルが長く売れる状況は続いていると思います。家庭用ゲーム機向けは今まで厳しい状況が続いてきましたが、PlayStation4(PS4)が伸長していること、Nintendo Switch(Switch)が強力なハードウエアとして加わったことで、2018年は明るい兆しが見えるのではないかと思います。
スマホ向けアプリも「日本市場は頭打ち」といわれていますが、「非常にいいところでの頭打ち」といいますか、好調をキープしているイメージです。
――2016年と2017年を比べてみて、トレンドの違いはありますか。
鯉沼氏: 2017年はハードウエアが伸びたことで、新作タイトルもそれなりに売れましたし、旧作も長くリピートオーダーが発生する傾向がありました。加えてPC向けゲーム配信サイト「Steam」をはじめとしたダウンロード販売も、かなり数字を伸ばしました。2016年よりは堅調だったのが、2017年でした。
PC移植版が収益を底支え
――堅調な実績の柱になったのは、タイトルでいうと?
鯉沼氏: 発売から時間が経過したPS4向けゲームソフトをPC版に移植し、Steamで配信して、そこで年に何回かセールを実施しています。セールによって確実に売り上げが跳ね上がるのが、堅実さにつながったと思います。
例えば、『進撃の巨人』と『同2』、『真・三國無双7 with 猛将伝』など、Steam版のラインアップは増えています。セール価格になると「この金額だったら」というお客様がいらっしゃいますし、家庭用ゲーム機が普及していない国でもSteam版によって幅広く浸透したと思います。
――Steam版が売れているエリアはどこでしょう。
鯉沼氏: アジアでは簡体字版が売れていますから、中国圏の方々が買われているのでしょう。欧州は一時期PCプラットフォームが下火に感じられる時期があったのですが、最近はPCが見直されていて、非常に需要が高いと思います。
これは私の個人的な見解で、あくまで推測ですが、eスポーツが注目されて、ハイエンドなゲーミングPCが再び元気になってきているのではないでしょうか。ゲームタイトルのダウンロードビジネスで言うと、やはり欧米市場のダウンロード販売の割合は、日本と比べて高いと感じますね。
――パッケージと比べると、どれぐらいの割合ですか。
鯉沼氏: イメージとしては、日本はダウンロードで2割、北米・欧州は3~4割だと思います。全世界マーケットでも、日本単独で見ても、今後さらにダウンロード販売は伸びていくと考えています。スマホを通じて、コンテンツのダウンロードやゲーム内課金という遊び方に徐々に慣れてきたのではないでしょうか。ただ、最近感じているのは、スマホゲームは少し単調ではないか、ということです。
――単調というと?
鯉沼氏: スマホ向けのゲームは手軽に遊べるのが利点ですが、逆にじっくり遊びたいというユーザーにとっては操作性が良くないとか、画面が小さいなどのストレスを感じるかもしれません。ゲームに没頭したい方が再び家庭用ゲーム機に戻ってきてくれていて、PS4やSwitchが売れているんじゃないかと思っています。
以前は子どもがゲームで遊んでいると、親は嫌な顔をしたものですが、最近は年配の方も結構遊んでいらっしゃいますよね。昔のように「ゲームなんて」という言葉を聞く機会も少なくなっている気がしますから、ゲーム業界にとって良い傾向ではないかと思います。
Switchタイトルのリピート率高く、堅調
――2017年に好調だったタイトルは何ですか。
鯉沼氏: 目立つのは、アクションRPG『仁王』(2017年2月発売)、タクティカルアクション『ファイアーエムブレム無双』(同9月発売)ですね。Switch向けにはローンチタイトルとして、3月に『三國志13 with パワーアップキット』や『信長の野望・創造 with パワーアップキット』などの移植版を出しましたし、スクウェア・エニックスさんから発売されたアクションRPG『ドラゴンクエストヒーローズI・II for Nintendo Switch』(同3月発売)は当社が開発を担当しました。2018年3月には『ゼルダ無双 ハイラルオールスターズDX』をリリースする予定です。
バンダイナムコエンターテインメント(BNE)さんと約3年前に開発したアクションゲーム『ワンピース海賊無双3 デラックスエディション』も、昨年12月にSwitch版をリリースしたところ、しばらく欠品状態になるくらい反響がありました。非常に好調とBNEさんから聞いています。Switch版で販売したタイトルは、初回出荷本数こそそれほど多くありませんが、ずっとリピートが続いていて、手堅く売れているというイメージがあります。
このほかに、ガストブランドの『リディー&スールのアトリエ ~不思議な絵画の錬金術士~』や『よるのないくに2 ~新月の花嫁~』『戦国無双 ~真田丸~』などの無双シリーズもSwitch版を発売していますし、2018年3月15日に出す『進撃の巨人2』もSwitch版に対応しています。ローンチ前からSwitchに対応できるものは積極的に仕掛けていて、かつSwitch本体の販売がとても好調ですから、マルチプラットフォームに対応してきて良かったです。
「一緒にゲームを作る」姿勢で中国市場開拓へ
――海外市場はいかがですか。
鯉沼氏: アジアや南米もそうですが、経済が発展すると娯楽の選択肢として「ゲーム」を選んでもらえるようになります。家庭用ゲーム機メーカーが積極的に展開されているエリアに、後を追う形でタイトルを出せばまだまだ伸びしろがある、というのが正直なところです。
スマホゲームアプリについては、PC上でオンラインゲームを遊んでいた地域は親和性が高いと思っています。オンラインでIDを管理できるタイプのゲームなら、比較的堅実なゲームビジネスができますから。今現在は中国市場のスマホゲームアプリが非常に大きくなっているので、中国のゲーム会社とタッグを組んで、どのように攻略するか戦略を練っている状況です。
――具体的に中国ビジネスの変化はありますか。
鯉沼氏: 当初は中国や台湾、アジア地域で、アプリを運営する権利だけをお渡しするスキームでビジネスをしていました。しかし最近調子の良い『真・三國無双 斬』や『三國志2017』などでは、IP(ゲームやキャラクターなどの知的財産)そのものを提供し、アプリ開発から運営まで一貫して現地の会社にお願いして、我々は監修でロイヤルティーをいただくビジネスに切り替えました。
これから先は「IPも貸すけれど、ゲームも一緒に作りましょう」というやり方で、より深い関係を構築していかないと中国市場での成長はないと感じています。リスクを互いに背負い、ゲームを一緒に制作するという姿勢が求められていると思います。
――家庭用ゲーム向けでも2018年は動きが活発になっています。
鯉沼氏: そうですね。家庭用ゲームタイトルで海外市場に向けて、2018年2月8日に発売した『真・三國無双8』は、日本とアジア圏でも同時に発売し、北米や欧州でも3月にリリースします。また、『進撃の巨人2』は日本、アジア、欧州、北米の全エリアで、3月15日に世界同時期発売をします。
今までは日本市場でシェアを取る商売でしたが、さらなる成長を求めて海外に出る必要が出てきました。今後もこの流れは止まらないと思っています。1つの家庭用ゲームソフトを企画する際の基本スタンスとして、日本単独ではなく、日本もアジア圏と捉えて売る。あるいは、別の製品では欧米・アジアの世界全体で売る、というサイズ感で考えています。また、スマホアプリもアジア向けでビジネスするのか、グローバルでリリースするのか――。そういう選択をする時代になったのですね。
若手社員限定の新ブランドで新アプリ開発
――若手を中心に、新しいアプリゲームを作るプロジェクト「midas(ミダス)」がありますね。
鯉沼氏: オリジナルのスマホ向けアプリゲームは、何度チャレンジしてもなかなかうまくいかなかったという実感があります。加えて、開発チームの平均年齢が上がり、若い人が活躍しにくくなってきているという反省もありました。そこで、20~30代の若手ゲーム開発者たちだけでゲームブランドを立ち上げて、何本かチャレンジさせてみようと考えた次第です。
理想としては、既存の各ブランドの中で「ここはベテランがやって、ここは若い人に作らせよう」という組織的な動きができればいいのですが、やはり各ブランドにも事業目標があり、手堅いビジネスを優先するような開発体制になりがちです。
そこで、産まれたときから身近にゲームのコントローラーや携帯電話があったような若い世代だけで、無理やりにでもゲームを作らせてみるのも面白いんじゃないかと発想し、新ブランド「midas」を立ち上げたわけです。各ブランドには、「midasに若い開発者を出してくれ!」と命令しました。
――midasはどのくらいの規模の組織ですか。
鯉沼氏: 20~30代の人員のみで構成されたチームが2ラインあり、それぞれが1つずつアプリゲームを開発しています。2018年3月までに大体のめどを付け、4月以降にどちらか1つのアプリに絞り込んでリリースするのが目標です。まあ、最初からすべてがうまくいくとは思ってませんが、マンネリ化してしまったら新しいことをやれる部署があるという選択肢が社内にあったほうがいいと思っています。
――鯉沼社長が『無双』シリーズを作るときも、それまでのコーエー伝統のシミュレーションではないアクションゲームにチャレンジされたと思います。重なり合う部分がありますか。
鯉沼氏: 「アクションゲームを作ろう」という雰囲気を作ったのは、やはり襟川陽一(コーエーテクモホールディングス社長)なんですね。襟川が何か新しいことをやろうよ、ということで始めた新規開発で、当時の私は右も左も分からない新人でした。今考えると、襟川はトップダウンでかじを切らないと企業の成長が止まると考えていたのでしょうね。
家庭用ゲームやPCゲームのパッケージ事業は、他社とのコラボレーション企画などを含めて、うまくビジネスが進展していると自負しています。しかし、アプリ事業はその成功が足かせになっているのか、ちょっとちぐはぐだったので何とかしたいですね。「失敗してもいいから、新しいのを作れば」と思ってmidasを始めたんですが、そのときは、アクションゲームへのチャレンジに「まあ、赤字になってもいいから続けなよ」と言ってくれた襟川のことを思い出しました。
――また次の波を起こす何かが生まれるかもしれないですね。
鯉沼氏: いや、起きてほしいですね(笑)。スマホアプリの大ヒットで他のゲーム会社さんは大きく成長されているので、我々としても負けるわけにはいかないですから。
グローバル市場向けプロモーションはイチから立て直す
――グローバル化、スマホアプリ強化という新しいビジネスへ乗り出すと、開発体制などもずいぶん変化するのでしょうか。
鯉沼氏: そうですね。最初に開発予算などを決めるマーケティング会議があるのですが、「どの地域で何本売るのか」というグローバル視点のプランが必要で、そのための開発内容も変化させています。
例えば私がプロデューサーをしている『進撃の巨人2』は、ユーザーインターフェース1つ取っても、日本向けと欧米向けは結構違っています。日本向けは細かい情報をたくさん表示させていますが、欧米向けはいかにシンプルにするかという視点が入ってきます。グローバル向けのウェブサイトを見ても、実際そうですよね。
予算提案する際も、「アジアだとこれぐらい売れて、欧米だとこれぐらい売れるから、これなら予算、出していいよ」というように経営判断の軸が変わってきました。おかげで、予算表を作るのも読み解くのも、ものすごく大変で(笑)。PS4もあって、Xbox Oneがあって、Steamがあって、Switchがあって、これに地域、言語数が重なる。最近リリースした『仁王』は13言語対応ですし、『進撃の巨人2』も9言語に対応しています。
――なるほど。流通はどうでしょう。例えばスマホだったらAppStoreなどから配信できますが、パッケージではそういうわけにはいきませんね。
鯉沼氏: 店頭やイベントのプロモーションまで含めると、正直まだまだ対応できていないのが現状です。とはいえ我々が遅れているだけで、他のゲーム会社はグローバル市場を見据えて動いていますし、我々もそうしないとビジネスにならないのは事実です。パッケージを販売する国々で、どのように情報をお伝えして、ユーザーを盛り上げていけばいいかは、これからきちんと取り組まなければならないと考えています。店頭に限らず、ダウンロード販売も、オンラインショップに置いただけでは売れないので、プロモーション体制をイチから作り直さなければ。今、そのぐらいの状況だと思っています。
――結果が出てくるのは2019年ですか。
鯉沼氏: 2018年のうちにも結果を出したいですし、2018年の結果を反省して2019年につなげていきたいです。台北ゲームショウもそうですが、いろいろなイベントを視察するようにしています。そうした場所で感じるのは、時代の流れが本当に速いということです。机の上でこねくり回していたら世の中のスピードについていけないと思っているので、やれるところから、手当たり次第、変えていきたいなとは思ってはいます。
世界市場で存在感を出せるかが勝負
――手始めに何からスタートさせたいですか。
鯉沼氏: やりたいことだらけです(笑)。組織をグローバルに対応した形に変えたいですし、念願のオリジナルアプリで成功を狙いたい、(無双シリーズのような)コラボレーション作品についても国内外のメーカーからIPをお借りして展開したいですね。
それとは逆に、アジアに当社のIPを持ち出し、中国市場も含めたパートナー企業と組んで形にしたいとも考えています。家庭用ゲーム市場も伸びているし、アプリ市場もワールドワイドでは非常に元気で、その中でどれだけ存在感を出せるかが我々の勝負だと思っています。そういう意味では、グローバル市場にいかに早く対応するかが、今年の課題です。
――eスポーツについてはいかがですか。
鯉沼氏: eスポーツもやりたいことの一つです。ゲームに関わる市場は、広がり出すと成長が急激なので、基本的にはすべて手を出して対応していきたいと思っています。
eスポーツがようやく日本でも立ち上がり始め、プロゲーマーといわれる方が出てくると、どのように市場が変わるのか――。早めに見極めないといけないと思っています。YouTuberが流行したのも、個人が生活できるようになったからでしょう。小学生がなりたい職業に「YouTuber」がランクインしたように、eスポーツの賞金で稼げるプロが出てくるとプロゲーマーもなりたい職業になるのではないかと思います。
そうなれば、一気にゲームにメジャー感が出ますから、乗り遅れないようにしないといけないですね。具体的なプランをお話しできないのですが、何かしらは関わっていくことになると思います。
――やりたいことが、盛りだくさんな年になりますね。
鯉沼氏: すべてにすぐに対応できないですから、市場の動向と我々の能力のバランスを見ながら、投資すべき案件を選ぶことになると思います。数年前には「ゲーム市場、この後、どうなるんだろう」と不安だった時期がありましたが、今は「どのゲーム関連の市場で頑張ろうか」と迷うくらいの状況になっている。非常に面白い時代になったなと感じています。
気になっているのは、VR(仮想現実)ですね。視覚、聴覚、その次にできそうなのが触覚。例えば、動物を触ったら「ライオンの毛はこうか」「象の皮膚って硬いし、産毛が超痛い」とか、リモートで感じられるのは超エキサイティングじゃないですか。見る、聞くだけじゃなくて、「実物に触った」ときの感動ってすごいと思っていて。ほら、パンダの赤ちゃんとか、触ってみたくなりませんか(笑)。
まあ、パンダは中国の飼育センターに行けば有料で触れたりするようですが、なかなか行けないじゃないですか。イルカだって、触れる場所は限られています。リモートでも五感で体感できるというのは、多くの人にとって夢なんじゃないかな。
――最後に、2018年、期待しているタイトルは何でしょうか。
鯉沼氏: そうですね。2月8日発売の『真・三國無双8』に続けて、3月15日に『進撃の巨人2』が出ますので、みなさん楽しみにしていてください。