福岡に拠点を置きながら、日本を代表するゲームメーカーの1社として飛躍したレベルファイブ。ゲームやアニメなどが大ヒットした「妖怪ウォッチ」シリーズの展開が始まってから5年近くが経過し、同社が得意とするクロスメディア展開の次の一手に期待が集まっている。

 創立20周年を迎える2018年は、4月から『イナズマイレブン アレスの天秤』と『レイトン ミステリー探偵社 ~カトリーのナゾトキファイル~』の2つの新作テレビアニメの放送を開始。「妖怪ウォッチ」も『妖怪ウォッチ シャドウサイド』としてリニューアルするなど、同社原作の番組が計4本放送される。

 ゲームでは、3月に『二ノ国II レヴァナントキングダム』が、同社初となるPlayStation4(PS4)版とPC版の同時リリースという形で発売され、4月には同じく同社初となるNintendo Switch向けソフト『スナックワールド トレジャラーズ ゴールド』も登場する。矢継ぎ早に新作を発表する同社の今後の戦略を、レベルファイブの代表取締役社長/CEOの日野晃博氏に聞いた。
(聞き手/上原太郎、写真/佐賀章広)

●日野晃博(ひの・あきひろ):  レベルファイブ代表取締役社長/CEO。福岡の開発会社でメインプログラマー、ディレクターを経て、子供たちにワクワクしてもらえるゲームを作りたいという思いから、1998年10月にレベルファイブを設立。世界累計出荷1700万本以上を記録した「レイトン」シリーズなど、幅広いユーザーに向けた温かみのある作品づくりが特徴。またクロスメディア展開を得意とし、「イナズマイレブン」シリーズ、「妖怪ウォッチ」シリーズなどヒット作を次々とプロデュースする
●日野晃博(ひの・あきひろ): レベルファイブ代表取締役社長/CEO。福岡の開発会社でメインプログラマー、ディレクターを経て、子供たちにワクワクしてもらえるゲームを作りたいという思いから、1998年10月にレベルファイブを設立。世界累計出荷1700万本以上を記録した「レイトン」シリーズなど、幅広いユーザーに向けた温かみのある作品づくりが特徴。またクロスメディア展開を得意とし、「イナズマイレブン」シリーズ、「妖怪ウォッチ」シリーズなどヒット作を次々とプロデュースする

2017年は自社の課題が浮き彫りになった年

――2017年はレベルファイブにとって、どのような1年でしたか。

日野晃博社長(以下、日野氏): 2017年中にリリースしようとしたものが、軒並み今年にずれ込んでしまうなど、会社の課題が浮き彫りになった1年でしたね。IP(ゲームやキャラクターなどの知的財産)を扱う会社としては、ものすごく大きくなっているのですが、成長に社内の体制がついていけない面が出てきました。

 加えて、IPビジネスで手いっぱいになってしまい、ゲーム開発における管理が甘くなるという、レベルファイブの弱点とも言える部分も浮かび上がってきました。

 クロスメディアタイトルは、ゲームだけでなくアニメや玩具も同時展開するため、絶対に外してはいけない商戦の時期があるんです。ゲームだけなら、開発が2カ月遅れたとしても、自社だけの問題で済むのですが、他の業界と連携を取っている中での2カ月の遅れは、自社だけでなく全体の収益率に影響するし、機会損失も出てくる。

 それを頭で分かっていても体で分かっていないというか。自分たちの置かれた立場がいかに重要か、まだ理解しきれていなかったんだと思います。それを再認識したというか、失敗して勉強させていただいたのが2017年でした。

 例えば、今年3月に『二ノ国II レヴァナントキングダム』で、初めてPS4版とPC版を世界同時リリースしたのですが、良い作品に仕上がったものの、作業は大変でした。IPを使ったクロスメディアのプロジェクトを整理して実行するに当たり、人数が不足していたのです。会社としてキャパオーバーに陥ってしまい、発売日が今年にずれ込む結果となりました。

 僕自身は、一気に人を増やして会社を大きくすることはあまり好ましくないと考えているのですが、まともな仕事をするためには、今年はさすがに人を増やさないときついかなと考えています。

『二ノ国II レヴァナントキングダム』。世界的な人気を得たファンタジーRPGの続編。3月23日に同社として初めてPlayStation4版とPC版が同時リリースされた (c)2018 LEVEL-5 Inc.
『二ノ国II レヴァナントキングダム』。世界的な人気を得たファンタジーRPGの続編。3月23日に同社として初めてPlayStation4版とPC版が同時リリースされた (c)2018 LEVEL-5 Inc.

――成長に伴う会社の課題が見えてくるなか、どのような対策を練っていますか。

日野氏: 現在、会社の意識改革を促すような施策を、次々と打っているところです。新人教育にもかなり力を入れていますし、プロジェクト管理にしても、いろいろな新部門をつくって、スケジュール管理の精度が高くなるような組織に変えようとしています。

 レベルファイブって、テレビアニメや映画をつくるにしても、美術なども含めた設定などを、全部社内でやっているんですよ。すごく制作に食い込んで映像作品をつくっているんです。もう既に、純粋なゲーム会社ではなくなっていて、IPホルダーとして、全体を統括する要素がかなり強まっているんですね。

 そういう中で、僕個人としてもかなり無理をしている面があるのですが、面白い提案をいただいたら、自分の許容範囲以上でも引き受けてしまう。ちょっといかんなとは思いつつ、やっぱり自分でやりたいと思ってしまうので。僕をサポートしてくれるような人間を今、社内でつくり始めていますが、自分の分身のような、ビジネスとクリエーティブの両面で立ち回れる二刀流の人材を育てるのは、なかなか難しいんですよね。

メインタイトルはすべてNintendo Switchに対応させる

――2017年は期待作の「スナックワールド」シリーズが発表されました。

日野氏: 「スナックワールド」はいろいろ苦戦したところがあって、その反省点が先ほど申し上げたようなことです。例えば、ゲームソフトの発売が、絶対にリリースしなければならないタイミングから微妙にずれてしまった。アニメの進行に関しても、準備がもう1年足りないという感でした。玩具はすごく売れるなどパフォーマンスは持っているので、もっとクイックな展開ができれば、もう少しブームを盛り上げられたかなと感じます。

 ただ、まだこれからだと思っています。4月に出るNintendo Switch版の出来がかなり良いので、もうひとふんばりしたいですね。

『スナックワールド トレジャラーズ ゴールド』。同社初となるNintendo Switch向けタイトル (c)LEVEL-5 Inc.
『スナックワールド トレジャラーズ ゴールド』。同社初となるNintendo Switch向けタイトル (c)LEVEL-5 Inc.

――日野社長はいち早くNintendo Switchの面白さを指摘しておられましたが、ヒット商品になった理由をどうお考えですか?

日野氏: やっぱりゲーム感覚が新しかったんだと思います。僕も『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』を相当プレーしましたけど、ずっと何かを集めたり、仕掛けを1つでもクリアしたいと思うようなゲームとのマッチングがすごく良かった。移動中でも何かしようと思うあの密着感は、スマホに通じるものがあると思います。ゲーム機として生活にフィットする感じが、やっぱり新しい感覚だったんじゃないでしょうか。

――今後のNintendo Switchへの対応はいかがでしょうか。

日野氏: 基本的には今後、うちのメインとなるタイトルは、すべてNintendo Switchでも出します。これまで「3DS」向けにつくってきたものをNintendo Switchに移行するイメージですね。

――スマートフォン対応アプリに関してはいかがでしょうか。

日野氏: スマホのビジネスは、本当に大きくなっています。今、レベルファイブを支えているのはスマホのゲームかもしれません。ユーザーの多さで言えば、 累計1100万ダウンロードを突破している『妖怪ウォッチ ぷにぷに』ですが、課金率で言えば先日サービスをスタートさせた『オトメ勇者』や『妖怪三国志 国盗りウォーズ』も好調です。

 『オトメ勇者』に関しては、サービスインしたばかりで調整中の面があるのですが、それが解決したら一気に仕掛けたいと考えています。DMM GAMESさんとコラボした『装甲娘』も出だしは好調と聞いています。

 このように、かなり期待できる作品が、今後何本も待機しているような状態です。夏前には、超隠し球といえる大型タイトルも控えています。ただ、スマホゲームは運営も大事にやっていかなければならないので、どのようにリリース戦略を考えるか、交通整理に頭を悩ませています。

――お話に出た『オトメ勇者』や『装甲娘』は今までのレベルファイブのコア層とは違う、いわゆる大人向けですが、その層へのアプローチは今後も増えていきますか。

日野氏: 戦略的に増やしていくということはありません。ただ、『装甲娘』のように、私たちの大事なIPをしっかりと使ってくださるところと、ライツビジネスという形で協業したいとは思っています。

『妖怪ウォッチ ぷにぷに』。iOS/ Android向けに配信されている人気キャラクターを使ったパズルゲーム (c)LEVEL-5 Inc. (c) NHN PlayArt Corp.
『妖怪ウォッチ ぷにぷに』。iOS/ Android向けに配信されている人気キャラクターを使ったパズルゲーム (c)LEVEL-5 Inc. (c) NHN PlayArt Corp.
『オトメ勇者』。2017年12月にサービスが開始された乙女系本格ファンタジーRPG 。iOS/Android向けに配信 (c)倉花千夏 (c)LEVEL-5 Inc.
『オトメ勇者』。2017年12月にサービスが開始された乙女系本格ファンタジーRPG 。iOS/Android向けに配信 (c)倉花千夏 (c)LEVEL-5 Inc.
『妖怪三国志 国盗りウォーズ』。コーエーテクモゲームスとコラボした国盗り戦略RPG 。iOS/ Android向けに配信 (c)LEVEL-5 Inc./コーエーテクモゲームス
『妖怪三国志 国盗りウォーズ』。コーエーテクモゲームスとコラボした国盗り戦略RPG 。iOS/ Android向けに配信 (c)LEVEL-5 Inc./コーエーテクモゲームス
『装甲娘』。『ダンボール戦機』をモチーフとしたSRPG。DMMとのコラボで話題に (c)DMM GAMES / LEVEL-5 Inc.
『装甲娘』。『ダンボール戦機』をモチーフとしたSRPG。DMMとのコラボで話題に (c)DMM GAMES / LEVEL-5 Inc.

「イナズマイレブン」は「妖怪ウォッチ」を超えるか

――少しずつお話も出ていますが、創立20周年となる2018年の展開を教えてください。

日野氏: まず、完全新作の20周年記念作品はきちんと発表したいですね。今は昨年のしわ寄せでリリースラッシュとなっているので、ここでへとへとになってしまうかもしれませんが、20年間本当に頑張ってきた集大成でもあるので、しっかりやりたいと思います。

 あと最高のチャンスが来ているなと思うのは「イナズマイレブン」シリーズです。2018FIFAワールドカップ ロシアが6月から開催されるというのもありますが、「イナズマイレブン」自体が、さまざまな層から愛されるコンテンツになりつつあります。いまレベルファイブに入社を希望する人の半分くらいが、「イナズマイレブンが好きだから」と口にするんです。熱くハマったかつての子どもたちが、社会に出るような年代になっているんです。

 その一方で、4月からは今の子どもをターゲットにしたテレビアニメも始まります。大人と子どもの両方から好かれるコンテンツになり得る可能性があるので、そうなると「妖怪ウォッチ」超えも夢じゃないと思っています。

『イナズマイレブン アレスの天秤』。テレビ東京系で4月6日に放送が開始される人気サッカーアニメの最新作。ゲームは2018年夏に発売予定 (c)LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京
『イナズマイレブン アレスの天秤』。テレビ東京系で4月6日に放送が開始される人気サッカーアニメの最新作。ゲームは2018年夏に発売予定 (c)LEVEL-5/FCイナズマイレブン・テレビ東京

 4月から始まるもう1つの新番組『レイトン ミステリー探偵社 ~カトリーのナゾトキファイル~』もかなり良い作品になりそうです。毎週毎週、ちゃんとミステリーになっているので、『名探偵コナン』のような作品が好きな方には、面白く見ていただけると思いますよ。

 同じく4月には、「妖怪ウォッチ」も『妖怪ウォッチ シャドウサイド』として始まります。“第2章”開始という形でのリニューアルです。昨年公開した映画の世界観の続編ということになりますが、今年の映画もこの路線で行くかは、まだ秘密です(笑)。

 劇場作品に関しては、かなり多くの話をいただいていて、まだ詳しくは言えませんが、今までとは異なるパートナーと組む話も進んでいます。ただ、2016年に『君の名は。』がヒットしたため、アニメ制作業界全体が活況で、制作ラインの取り合いのような状態なんです。現場の制作ラインを確保するのがすごく大変なので、なかなか進まない側面もあります。

『レイトン ミステリー探偵社 ~カトリーのナゾトキファイル~』。人気ゲームシリーズを初めてテレビアニメ化。4月8日にフジテレビほか全国5局で、4月15日に関西テレビでそれぞれ放送開始 (c)LEVEL-5/レイトンミステリー探偵社
『レイトン ミステリー探偵社 ~カトリーのナゾトキファイル~』。人気ゲームシリーズを初めてテレビアニメ化。4月8日にフジテレビほか全国5局で、4月15日に関西テレビでそれぞれ放送開始 (c)LEVEL-5/レイトンミステリー探偵社
『妖怪ウォッチ シャドウサイド』。大ブームを巻き起こした人気アニメが大幅リニューアル。テレビ東京系で4月13日に放送開始 (c)L5/YWP・TX
『妖怪ウォッチ シャドウサイド』。大ブームを巻き起こした人気アニメが大幅リニューアル。テレビ東京系で4月13日に放送開始 (c)L5/YWP・TX

eスポーツが広がるのは確実

――ゲーム業界全体を見ると、eスポーツが注目されています。

日野氏: 我々もこれからのタイトルには、対戦などに軸を置いたモードを徐々につくっていこうと思ってはいます。ムーブメントにはしっかり乗っていきたいので、情報を集めながらゲームの仕様に組み入れていこうという積極的な姿勢です。

 大きな流れとして、まずみんなで一緒にゲームをプレーして楽しむのは当然になってきていて、かつ競い合っている場を見るのも楽しむという“エンターテインメント”としても、既に図式が出来上がっています。あとは周りがそれをどういう場として捉えるかということがポイントではないでしょうか。

 単なる遊びからちゃんと競い合う形にしつつ、スポーツとして、一般企業から宣伝媒体と見られるものになれるかどうか。みんなの意識が1つにまとまるのに、時間がどれくらいかかるかというくらいの話じゃないでしょうか。今後、確実に普及してeスポーツ的な場ができるのは間違いないと思います。

――最後に、2018年はレベルファイブにとってどんな1年になりますか。

日野氏: 今年は、これまで僕らと一緒にやってきたみなさんに、ちゃんと感謝をして、その人たちとの関係をより強めていくことを目指したいですね。ビジネスにしてもクリエーティブにしても、これまで以上にみなさんとの絆を強めていきたい。

 あとは、会社としての業界での立ち位置といったものを、秋に開催予定の「LEVEL5 VISION 2018」ではっきりさせたいと考えています。2018年は、僕らと関わってくれたいろいろな会社に感謝をするとともに、今後はこういうふうに私たちと付き合ってくださいということをきちんと提示していく、ターニングポイントの年になりそうです。

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