アニメ制作費は上がればいい

――さて、木谷社長自身は2014年夏からシンガポールに拠点を移されていましたが、今年末に日本に帰ってこられるそうですね。

木谷氏: 当初から3~4年と言っていましたが、今年末でちょうど3年半くらいになります。もう帰ってこないと、回らなくなってきた部分もあります。単に同じように回しているだけであればいいのですが、さすがに次の段階に進まなければなりません。

――シンガポールはいかがでしたか。

木谷氏: 僕自身、非常に勉強になりました。と同時に、日本の会社とか、自分の会社の日本人社員のことがすごく好きになりました。外国人社員はみんな、「自分は何をしたら評価が上がるんだ」ってことばかり聞いてくるんです。海外ではジョブ・ディスクリプションに沿って仕事をするので当然ですが、日本ではその時点で評価は1段下がってしまうように思います(笑)。

 それに比べると、日本人は異常なくらい真面目だと思います。だから生産性が低くなるとも言える。「安くてうまい」がその典型で、本来、安ければまずくていいんですよ。でも、日本は安くてうまいから、生産性が悪くなってしまう(笑)。

――「働き方改革」が日本でも本格的に進みそうな気運もあります。

[画像のクリックで拡大表示]

木谷氏: 仕事を真面目にしすぎるという意味での過剰サービスが少し減るのですから、その分、生産性は上がりますよね。

 例えば、ホワイトカラー・エグゼンプションという制度(労働時間の規制を免除する制度)があります。日本では“残業代ゼロ”に注目が集まり、経営者が悪用して社員をこき使うから駄目だという議論になりますが、本質はそこではないと思っています。

 給料は安いのにすごく頑張っていて優秀な人がいる。そういう人は自分の価値に気づいたら、すぐ転職してしまえばいいのに、日本ではなかなかそうならない。「僕みたいな人を採用してくれたから」みたいな感じで、ずっと働き続けたりしますよね。

 今は条件が相当良くならないと会社を移らないのだと思います。1.2倍とか1.3倍では移らない。1.5倍くらいにならないと移らないでしょうね。大切なのは転職マーケットがきっちり整備されることです。自分の評価と会社の評価の乖離が続くのであれば、その人は転職すればいい。「合わなければ移る」という文化や仕組みを作ることが大切だと思います。

――アニメ業界でも労働環境の改善が強く叫ばれています。

木谷氏: 今、アニメの現場は崩壊していると言っていいと思います。昔は、シナリオが遅れたり、コンテが遅れるということはありましたが、今は、そこではなく制作現場の人が足りなくて崩れています。それで放送が延びるということもある。

――実際のオンエアが延期になるなんてことが起こり始めたのは昨年からですよね。

木谷氏: そうですね。ですから、もう人件費は上がらざるを得ないですよ。1本の制作費はどんどん上がると思います。上がればいいんですよ。

 その分、本数は減りますから、1本1本、プロジェクトとして何を軸にしてどこまで大きくするんだ、ということをきっちり考えないと、もうアニメビジネスなんかできないと思います。でも、その方がいいんです。それでアニメーターさんの給料も上がるじゃないですか。

――上がるといいですが、上がりますかね。

木谷氏: 上がらざるを得ないでしょう。だって今までどおりだったらブラック企業呼ばわりされますから。この業界は、今まで好きということに甘えすぎていました。もちろん私も含めてですが。この点は反省しなければならないと思います。