漫画、テレビアニメ、映画、ゲームなどのメディアミックスプロジェクトとして近年大ヒットした『ラブライブ!』。この『ラブライブ!』のスマホゲーム化を担当したのがブシロードだ(KLabと共同開発)。次なるヒットを自社IP(ゲームのタイトルやキャラクターなどの知的財産)から生み出すべく、社長の木谷高明氏自ら温めていた企画が『BanG Dream!(バンドリ!)』だ。ガールズバンドを描く本作では、アニメで登場人物を演じる声優が、実際に楽器を演奏してライブを開くなど、これまでにない企画でヒットを狙う。ゲーム、アニメ、ライブエンターテインメントと、IPを軸に活動範囲を広げる同社の取り組みについて、木谷高明社長に話を聞いた。

(聞き手/秦和俊、写真/稲垣純也)

木谷高明(きだにたかあき):ブシロード代表取締役社長。1960年石川県金沢市生まれ。大学を卒業後、山一證券勤務を経て、1994年にブロッコリーを設立。2001年にJASDAQ上場を果たす。2007年ブロッコリーを退社し、ブシロードを設立。2014年夏からシンガポールを拠点に、日本とシンガポールの間を行き来する生活を送っている。
木谷高明(きだにたかあき):ブシロード代表取締役社長。1960年石川県金沢市生まれ。大学を卒業後、山一證券勤務を経て、1994年にブロッコリーを設立。2001年にJASDAQ上場を果たす。2007年ブロッコリーを退社し、ブシロードを設立。2014年夏からシンガポールを拠点に、日本とシンガポールの間を行き来する生活を送っている。

国内重視にシフト、グリーとの提携でゲームを開発

――昨年2016年を振り返って、いかがでしたか?

木谷高明氏(以下、木谷氏): 去年1年でがらりと変わりましたね。英国のEU離脱とトランプ当選で、時代が逆回転してしまった感じです。当社はこれまで、力の入れ具合で言えば、国内と海外を2対1ぐらいで考えていたのですが、この1年で、国内が8割ぐらいに戻ってしまいました。

 もし、EUがバラバラになり、通貨もバラバラになり、それぞれの国で関税がかかるようにでもなれば、欧州のビジネスは難しくなると思います。欧州がこんな状況なので、ASEANは関税自由化を進めてグローバル市場でリーダーシップを取ればいいと思うのですが、ピタッと動きが止まったように見えます。

――そういう状況では国内の比重を高めざるを得ないということでしょうか。

木谷氏: もちろん、どこでまた針が逆向きになるか分かりませんから、海外に対して積極的な部分は残しておかなければならないと思っています。海外を攻めるのはオンラインを重視しつつ、米国、次にアジアという位置づけです。

――国内の動きでは、2016年にグリーと資本提携をされました(関連記事:グリーがブシロードに出資、スマホゲームなど共同開発【TGS2016】)。経緯を教えてください。

木谷氏: 当社は攻める社風で、攻めには強いが守りに弱い部分があります。グリーさんは、(ビジネスの浮き沈みという)波を分かっていらっしゃって、イメージより守りが堅い会社です。また、当社はIP活用は得意ですが、内部でゲーム開発や運営ができるわけではありません。グリーさんは、組織としてIPに対するなじみはまだ薄いだろうと思いますが、開発力や運営力は非常に高いものをお持ちです。お互いにないものを持っているという点で、相性が非常にいいのではないかと思いました。

――提携後の1作目『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』(グリーの子会社ポケラボとの共同開発)は今年配信開始ということです。今後もグリーとの共同開発が中心になりますか?

木谷氏: 当社はこれまで、いろいろな開発会社さんと付き合ってきましたが、少し数を絞るつもりです。ですから、これからは案件があれば、まずグリーさんに「こんな話があるのですが」と案内していこうと思っています。

『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』(iOS/Android、2017年配信予定)
『戦姫絶唱シンフォギアXD UNLIMITED』(iOS/Android、2017年配信予定)

プロモーションにもシナリオが必要

――マーケットの状況はいかがでしょうか。

木谷氏: 勝ち組がより勝ち、負け組との格差がより広がっているように感じています。SNSが普及するほど、その傾向は進んでいます。エンタメに限らず、どの業種もそうだと思います。勝ち残るためには、作品のクオリティーが高いのは当然ですが、プロモーションにもシナリオが必要です。

 今はマーケティングが難しい時代になりました。昔のほうがはるかに楽だったと思います。テレビでCMを流して、雑誌で広告を打っておけばいいという感じでしたから。でも、今の時代はいろいろなことを合わせ技でやっていかなければなりません。

――ミラ・ジョヴォヴィッチを起用した『カードファイト!! ヴァンガードG』のCMには驚きました。反応はいかがでしたか。

木谷氏: 反応は良かったです。特に海外で(笑)。なにより、会社の格を上げることに成功したと感じています。「ハリウッド女優を連れてこれるんだ」と。商売は非常にしやすくなりましたよね。ファンの中には「こんなことに力を入れるなら、別のことに力を入れろ」といった反応もありますが(笑)、「こんなことができるんだ」と、間違いなく一目置いてくれたとは思います。

『カードファイト!! ヴァンガードG』のCM

――「2億円プロジェクト」と話題にもなりました。YouTubeのCM動画を見た人も多かったと思います。

木谷氏: 今は、Twitterのフォロワー数だって、YouTubeの再生回数だって、みんなお客さんの目に見えてしまいます。当然これらの数字は多いほうがいいわけです。僕も、例えば洋画を見るときには、予告編のYouTubeの再生回数を参考にしたりします。2000万回とかいっていると、「どんな映画なんだろう、大作なのかな?」と思ってしまいますよね。特にライトユーザーはそうだと思います。プロモーションのシナリオを考えずにテレビCMを打つくらいなら、ネット広告を入れてYouTubeの再生回数を伸ばした方がよっぽど効果があるかもしれません。

『ラブライブ!』に続くヒットを狙う『バンドリ!』

――新たなメディアミックスプロジェクトとなる『BanG Dream!(バンドリ!)』ですが、2015年にコミック連載から始まり、2016年に声優によるライブ、そして、いよいよアニメ番組が2017年1月にスタートしました。反響はいかがですか?

木谷氏: 反響はすごくあります。コミックもいいですし、音楽もライブもよくて。

――アニメの中でガールズバンドを演じる声優たちが実際にバンドを組み、ライブ活動を行うというコンセプトですね。

木谷氏: 構想期間を含めると2014年2月末からスタートしています。楽器を弾ける声優さんを探すところから始まり、キャラクターデザインや世界観を作る人を探したりと、すべて同時並行で進めてきました。それで、最初のイラストが出てきたところで、作曲家さんに、こういったものをやるんですと説明し、声優たちの練習も見てくださいね、とお願いをしました。

――楽器を弾ける声優さんを探すのが大変ではなかったですか?

木谷氏: なかなかいないですよ。しかもバンドは1組だけでなく2組います。ですから、逆にまねをする企画は生まれにくいと思っています。

――『ラブライブ!』も、アニメのヒットからスマホゲーム『ラブライブ!スクールアイドルフェスティバル』(KLabとの共同開発)のヒットにつながり、東京ドームでライブを行うまでに大きくなりました。『バンドリ!』にかける期待も大きいのではないですか?

木谷氏: 『バンドリ!』におけるスマホゲームはこのプロジェクトの主力分野です。『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(開発はCraft Egg)は3月中旬にリリースする予定ですが、出来はよさそうです(編集部注:コメントは取材時、3月16日に配信を開始)。ゲームが盛り上がれば、各企画が一気に広がると思います。

 スマホゲームの事前登録は50万人を突破しました。これはアプリの規模としてはかなり大きいものです。いきなりロケットスタートを切りたいですね。

――事前登録の目標は何人でしょうか?

木谷氏: 目標は100万人と言っています。実は、最初は30万人という数字が出ていました。それを見て、「何なの、この数字。つまんないじゃん」って言ったんです。「100万人とか言っちゃえばいいじゃん、言うのはタダでしょ」って(笑)。

 それで、100万人に到達したら、『バンドリ!』オリジナル彫刻ギターをプレゼントすることにしました。事前登録が100万人いくんだったら、200万円のギターなんて安いものです(笑)。

新たなメディアミックスプロジェクト『BanG Dream!(バンドリ!)』
新たなメディアミックスプロジェクト『BanG Dream!(バンドリ!)』
(C)BanG Dream! Project (C)Craft Egg Inc. (C)bushiroad All Rights Reserved.
2017年2月に開催した声優によるライブ「BanG Dream! 3rd☆LIVE Sparklin’ PARTY 2017!」
2017年2月に開催した声優によるライブ「BanG Dream! 3rd☆LIVE Sparklin’ PARTY 2017!」
(C)BanG Dream! Project (C)Craft Egg Inc. (C)bushiroad All Rights Reserved.
『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(iOS/Android、配信中)
『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』(iOS/Android、配信中)
(C)BanG Dream! Project (C)Craft Egg Inc. (C)bushiroad All Rights Reserved.

キックボクシングにも進出

――御社はトレーディングカードゲーム、スマホアプリなどのデジタルオンラインに加え、プロレスや音楽などのライブエンターテインメント分野にも注力されています。ライブエンターテインメント分野はいかがでしょうか。

木谷氏: 新日本プロレスがアミューズさんと提携したことが大きかったですね。選手の露出が増えましたから。

――テレビドラマにも出られていましたね。

木谷氏: 東京はエンタメやスポーツの競争が激しいので、あまり目には見えてこないのですが、テレビの影響が大きい地方では、じわじわと人気が高まっているのを感じます。もう2年くらいこの状態が続くと、プロレスの人気はもっと上がると思っています。

――プロレスに加え、キックボクシングにも進出されました。

木谷氏: プロレス以外にもスポーツエンターテインメントをやってみたい思いがあったのですが、キックボクシングは可能性があるかなと。ただ、まだマーケットは小さいですね。今は雪玉の芯の部分を固めて作っている段階で、ある程度大きくなればゴロゴロと転がしていきますが、まだ転がす段階ではありません。あと2年くらいかかると思います。当面は赤字でしんどいですが、仕方ないと思っています。

 2月にもイベント「KNOCK OUT」を開催しましたが、前回の5割増くらいでチケットが売れました。着実にファンは増えています。

2017年2月に開催した「KNOCK OUT」
2017年2月に開催した「KNOCK OUT」
(C)KNOCKOUT All Rights Reserved.

アニメ制作費は上がればいい

――さて、木谷社長自身は2014年夏からシンガポールに拠点を移されていましたが、今年末に日本に帰ってこられるそうですね。

木谷氏: 当初から3~4年と言っていましたが、今年末でちょうど3年半くらいになります。もう帰ってこないと、回らなくなってきた部分もあります。単に同じように回しているだけであればいいのですが、さすがに次の段階に進まなければなりません。

――シンガポールはいかがでしたか。

木谷氏: 僕自身、非常に勉強になりました。と同時に、日本の会社とか、自分の会社の日本人社員のことがすごく好きになりました。外国人社員はみんな、「自分は何をしたら評価が上がるんだ」ってことばかり聞いてくるんです。海外ではジョブ・ディスクリプションに沿って仕事をするので当然ですが、日本ではその時点で評価は1段下がってしまうように思います(笑)。

 それに比べると、日本人は異常なくらい真面目だと思います。だから生産性が低くなるとも言える。「安くてうまい」がその典型で、本来、安ければまずくていいんですよ。でも、日本は安くてうまいから、生産性が悪くなってしまう(笑)。

――「働き方改革」が日本でも本格的に進みそうな気運もあります。

木谷氏: 仕事を真面目にしすぎるという意味での過剰サービスが少し減るのですから、その分、生産性は上がりますよね。

 例えば、ホワイトカラー・エグゼンプションという制度(労働時間の規制を免除する制度)があります。日本では“残業代ゼロ”に注目が集まり、経営者が悪用して社員をこき使うから駄目だという議論になりますが、本質はそこではないと思っています。

 給料は安いのにすごく頑張っていて優秀な人がいる。そういう人は自分の価値に気づいたら、すぐ転職してしまえばいいのに、日本ではなかなかそうならない。「僕みたいな人を採用してくれたから」みたいな感じで、ずっと働き続けたりしますよね。

 今は条件が相当良くならないと会社を移らないのだと思います。1.2倍とか1.3倍では移らない。1.5倍くらいにならないと移らないでしょうね。大切なのは転職マーケットがきっちり整備されることです。自分の評価と会社の評価の乖離が続くのであれば、その人は転職すればいい。「合わなければ移る」という文化や仕組みを作ることが大切だと思います。

――アニメ業界でも労働環境の改善が強く叫ばれています。

木谷氏: 今、アニメの現場は崩壊していると言っていいと思います。昔は、シナリオが遅れたり、コンテが遅れるということはありましたが、今は、そこではなく制作現場の人が足りなくて崩れています。それで放送が延びるということもある。

――実際のオンエアが延期になるなんてことが起こり始めたのは昨年からですよね。

木谷氏: そうですね。ですから、もう人件費は上がらざるを得ないですよ。1本の制作費はどんどん上がると思います。上がればいいんですよ。

 その分、本数は減りますから、1本1本、プロジェクトとして何を軸にしてどこまで大きくするんだ、ということをきっちり考えないと、もうアニメビジネスなんかできないと思います。でも、その方がいいんです。それでアニメーターさんの給料も上がるじゃないですか。

――上がるといいですが、上がりますかね。

木谷氏: 上がらざるを得ないでしょう。だって今までどおりだったらブラック企業呼ばわりされますから。この業界は、今まで好きということに甘えすぎていました。もちろん私も含めてですが。この点は反省しなければならないと思います。

創業10周年はIPを軸に動く

――今年は創業10周年を迎えますね。

木谷氏: 国内では4月にライブ「ミルキィホームズ&ブシロード10周年ライブ in横浜アリーナ」、5月にイベント「ブシロード10周年祭」、海外では7月に米国・ロサンゼルスで、9月にシンガポールで、それぞれ記念イベントを開催します。米国では、これまで1000人規模のカードゲームの大会はやってきましたが、4000~5000人規模では初めての開催です。カードゲームだけでなく、プロレスも一緒にやりますよ。

――最後に、今年2017年に注力されることについて教えてください。

木谷氏: オンラインの時代は、IPが強ければ勝手に国境も突き抜けていきます。ですから、IPの開発と、いまあるIPをさらにパワーアップさせることに注力します。あとは、世間に転がっているIPの中で磨けば光るものがないかを探したいですね。いずれにしてもIPを軸に動いていきたいと考えています。

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日本ゲーム産業史
ゲームソフトの巨人たち
日本ゲーム産業史 ゲームソフトの巨人たち


コンピュータゲームが誕生してから半世紀あまり。今や世界での市場規模は10兆円に迫る一大産業の成長をリードしてきたのが日本のゲーム会社だ。ベンチャー企業であった彼らが、どのように生まれどうやってヒットゲームを生みだして来たのか。そして、いかにして苦難を乗り越え世界で知られるグローバル企業になってきたのか。その全容が日経BP社取材班によって解き明かされる。 )

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