人気タイトル『パズル&ドラゴンズ』(以下、『パズドラ』)の配信から5周年を迎えたガンホー・オンライン・エンターテイメント(以下、ガンホー)。2016年は『パズドラ』シリーズのニンテンドー3DS用新タイトル『パズドラクロス 神の章/龍の章 』(以下、『パズドラクロス』)を投入し、テレビアニメ放送などクロスメディア展開を進めてきた。さらにプレイステーション 4向けに基本プレー無料(国内は有料)で提供する意欲的なタイトル『LET IT DIE』も注目されている。2016年に打ち出した新たな施策の狙いと、2017年の戦略について、代表取締役社長の森下一喜氏に話を聞いた。


(聞き手/佐野正弘、写真/シバタススム)

森下一喜(もりしたかずき)
森下一喜(もりしたかずき)
ガンホー・オンライン・エンターテイメント 代表取締役社長 CEO、開発部門統括 エグゼクティブプロデューサー
1973年9月16日、新潟県生まれ。ソフトウエア開発会社を経て、2000年オンラインゲーム受託開発会社を創業後、2002年にガンホー・オンライン・エンターテイメントとして現事業を開始、同時に『ラグナロクオンライン』を日本国内でプロデュース。2004年から現職に就任。現在、CEO兼開発部門統括 エグゼクティブプロデューサーとして、ゲーム開発の制作総指揮をとっている。代表作は、スマートフォンゲーム『パズル&ドラゴンズ』、『ケリ姫スイーツ』、コンシューマーゲーム 『パズドラZ』『LET IT DIE』、PCオンラインゲーム『ラグナロクオンライン』など

5周年を迎えた『パズドラ』の新展開

――2016年はどのような1年でしたか?

森下一喜社長(以下、森下氏): ニンテンドー3DS向けに『パズドラクロス』、スマートフォン向けに『セブンス・リバース』、プレイステーション 4向けに『LET IT DIE』と、異なるプラットフォームに向けて3年間仕込んでいたタイトルをようやく世に出すことができたので、新しいスタートラインに立てた年だったと思います。また『パズドラ』に関しては、『パズドラクロス』のテレビアニメを放送開始するなど、新しいクロスメディア展開もやってきました。

――スマートフォン版の『パズドラ』は今年5周年を迎えましたが、今後はどのような展開を考えているのでしょうか?

森下氏: 『パズドラ』は今年で5周年を迎えましたが、新規のユーザーもいれば既存のユーザーもいますし、初心者、中級者、上級者もいる。こうしたすべてのユーザー層にアプローチしていくための施策を考えていて、今年色々と発表することになると思います。

 まずは、『パズドラ』本流の遊びの部分とは別に、『パズドラクロス』のようにスピンオフ展開を進めていきます。これは『パズドラ』への入口を広げる施策ですね。続いては、今年導入を予定している対戦機能です。対戦機能が備わることで、上級者や中級者は対戦で腕を競い合うようになりますから、遊び方が広がるのではないかと考えています。

『パズドラクロス』
(C)GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.

――昨年は『パズドラレーダー』を提供するという新しい動きも見られました。

森下氏: 『パズドラレーダー』で読み取って遊べる「アーマードロップ」()が、おかげさまでたくさん売れていますね。今年は『パズドラレーダー』にも対戦の仕組みが入るので、遊び方が進化していくのではないかと考えています。

(※)アーマードロップは、タカラトミーが販売している、『パズドラクロス』関連の玩具。本体の裏側にQRコードが付いており、これを『パズドラレーダー』で読み取ることでモンスターメダルと呼ぶアイテムを獲得できる。

――ニンテンドー3DS版の新作『パズドラクロス』は、前作の『パズドラZ』とあえて連動しない内容となっていますが、なぜでしょう?

森下氏: 『パズドラZ』はあくまでRPG風の内容でしたが、『パズドラクロス』は物語を重視した、“ガチのRPG”として企画しました。新たな要素として主人公自身が「ソウルアーマー」()を装着して戦う仕組みを導入し、モンスターに戦わせるだけでなく、自らも戦うことで、自らが痛みを味わうことにフォーカスしているんですね。

(※)ソウルアーマーは、主人公がバトルで身に着ける装身具。攻撃力などを向上させることができる。

 なので『パズドラZ』の世界観は踏襲しながらも、前の話を引きずるより、全く新しい新作として開発したほうがいいと判断したわけです。実際に主人公も12歳と、より上の年齢に設定しており、少年から青年になっていくなか、冒険によって自らの成長やルーツを探っていくことを物語のテーマとして展開しています。

『パズドラクロス』のテレビアニメ展開の狙いとは

――『パズドラクロス』はテレビアニメによるメディアミックスにも力が入れられています。

森下氏: 実は『パズドラZ』のときにも漫画の連載などはしていましたが、今回は『パズドラ』をIP(ゲームのタイトルやキャラクターなどの知的財産)として育てていくための土壌として、テレビアニメをうまく活用しようと考えました。アクションパズルゲームの要素だけでなく、子どもたちに「『パズドラ』とはこういうものなんだ」というのを伝えるため、『パズドラ』全体の俯瞰図を作っていくという意味でもアニメには力を入れています。

 アニメのほうは、現在32話(取材時点)ですが、実はまだ主人公のルーツが見えてきたという段階で、本題にすら入っていないんですね。これから自らのルーツを知って成長していく過程が進んでいくので、話はまだまだ続くことになります。

テレビアニメ版『パズドラクロス』
テレビアニメ版『パズドラクロス』
(C)ガンホー・オンライン・エンターテイメント/パズドラクロスプロジェクト・テレビ東京

―― インターネットでの映像配信が全世界で3700万回再生(2017年2月2日時点)されるなど、テレビ以外でも積極的に視聴されているようです。

森下氏: 再生回数はそれほど気にしていません。スマートフォンが出てきたことで視聴のスタイルは変わってきていますが、テレビも家庭の真ん中で視聴できる良さがあります。単純に再生回数などで評価するのは難しいんじゃないでしょうか。

 『パズドラ』はテレビアニメだけでなく、3DS版もありますし、もちろんスマートフォン版もある。色々なメディアを活用して補完関係を作っていくことを考えています。

――インターネット動画は、テレビアニメの海外流出につながってしまうという課題もあります。

森下氏: これは止めようがないのかなと思っています。インターネットはそういうものだと思っているので、IPを短期的に見るのではなく、長期的な視点で作っていくことが大事なのかなと。IPを継続するための方法論は色々ありますが、それを実現するにはお金と労力が必要というのが課題ですね。

“世界”に対する考え方を変えさせた『LET IT DIE』

――ではゲームも含め、海外でのサービス展開をどのように考えているのでしょう?

森下氏: 実は最近、「海外」という言い方を止めたんです。日本も「世界」のひとつなわけで、海外という意識を持っているうちはダメなのかなと思っていて、本当の意味で世界でやっていくならば、自分たち自身が考え方ややり方を変えていかないといけない。世界でゲームコンテンツをやっていくうえで、まずは自分たちの戦略以前に、思考回路を変えようと考えたのです。

 そうした考えの下に展開したのが『LET IT DIE』ですね。このゲームの世界観は日本的なのですが、配信は北米・欧州が先行しており、『スター・ウォーズ』でルーク・スカイウォーカー役を務めたマーク・ハミルを声優として起用するなど、内容的にも欧米での展開を重視したものとなっています。一方で、日本の多数のミュージシャンから『レットイットダイ』という題名でオリジナルの楽曲を募り、それをゲームの中に入れて配信することで、日本のミュージシャンに注目してもらう機会づくりなどもしています。

――どのようなきっかけで、世界に対する考え方が大きく変わったのでしょう?

森下氏: いくつかポイントがあると思います。『LET IT DIE』も元をただせば日本で発売し、海外でも売れればいいという考えでスタートしたものなんですが、3年前(2014年)のE3(世界最大のコンピューターゲーム関連の見本市)で発表したところ、感じたのは「アメリカ人って素直に評価してくれるんだな」ということでした。

 つまり海外の人たちは多様性を受け入れてくれるんだなと感じたんです。多様性を認める価値観をつくるため、議論をするという文化がある。作ったゲームに対して良い面は評価するし、悪い面についてもしっかり言い合える。そうした部分が作り手としては非常に新鮮で、本当の意味で自分たちが世界について何も分かっていなかったんだなと感じたんです。こうした経験からも2016年はいい意味で刺激の多かった年だったと思います。

『LET IT DIE』
(C)GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.

――これまでにも日本のゲームメーカーが海外を意識したタイトルを開発したことがありますが、あまり成功した例はありません。『LET IT DIE』はダウンロード数も2017年2月14日の時点で200万超と順調ですが、何が評価されたと感じていますか?

森下氏: 実は『LET IT DIE』は自分がやりたいことをやっているだけで、米国を意識したわけでもないんですよ。内容的にもCERO区分“Z指定”(18歳未満に販売/頒布できない)ですし、今この時代にリスキーな内容のゲームを作ったと思います。我ながらとんでもないゲームを作ったもんだなと。

 実際このゲームでは、“人間ってそういうもの”という毒の部分をあえて前面に打ち出していて、内容を社員に説明したらドン引きされたようなことを多くやっています。例えば「千葉と埼玉は抗争するんだ、間違いない」とか。実際に配信してみたところ、案の定両県で抗争が起きましたね(笑)。一方で思い入れのない県には攻め入ることはないということも見えてきました。こうした傾向は日本だけでなく他の国でも起きており、動向を見ているだけでも面白いです。

――配信地域は現在のところ、欧米とアジアが中心とのことですが、今後の配信予定はどうなっていますか?

森下氏: 香港・台湾と韓国へも配信していますが、中国での配信予定はありません。中国は世界同時リリースか、中国先行配信かのどちらかでやらないと、成功するのは難しいと知りましたから。


市場飽和でスマートフォンでもコア層を狙う

――スマートフォンでは新たに『セブンス・リバース』の配信を開始していますが、手応えはどうですか?

森下氏: 『セブンス・リバース』は超ベタベタなRPGなんで、カジュアルユーザーというよりもRPGが好きな人たちにはっきり伝わっているかなと思います。『LET IT DIE』もそうですが、今はゲーマー、ゲームが好きな人にゲームとして満足してもらうフェーズだと思うんです。コアファンをしっかりつかんで育てていくというのが、『セブンス・リバース』の狙いですね。

『セブンス・リバース』
(C)GungHo Online Entertainment, Inc. All Rights Reserved.

――これまで御社のスマートフォンゲームはカジュアル要素が強いものが多かったと思うのですが、狙いや方向性が変わってきたのでしょうか?

森下氏: 時代が変わってきていると思うんです。スマートフォンゲームは市場が成熟して飽和に向かっており、「猫も杓子もスマホゲーム」という状況下であらゆる会社がゲームに参入し、焼き畑農業的な展開をしているところも増えている。カジュアル要素を強くし、多くの人を狙うというのはもうやり尽くした感があるのではないでしょうか。

 一方で、本当にゲームを遊びたいという人は、そう多くないものの一定数は確実に存在する。ですからもう1度、コアなゲームファンに響くゲームを作ろうと考えました。『パズドラ』もカジュアルっぽく見えますが、元々はアクションゲームですし、ゲームが好きな自分たちのような人たちをターゲットにして開発して、その人たちが面白いと感じたから広まったと思うんです。なので、スマートフォンでもゲームとしてはガチガチの方向でやっていこうと考えています。

――『セブンス・リバース』も世界展開を考えているのでしょうか?

森下氏: これは完全に国内向けですね。一方で現在開発しているタイトルは、国内外で展開することを考えています。全てのタイトルを世界展開するのではなく、タイトルによっては国内のみで展開するものも出てくると思いますが、今後は世界同時展開するタイトルにウエイトを置いていきたいですね。

――スマートフォン向けとしては、他社タイトルの『ディズニー マジックキングダムズ』のパブリッシング(運営)を始めましたが、その狙いはどこにあるのでしょう?

森下氏: 元々、パートナー企業のPCゲームタイトルを国内向けにパブリッシングする部署があったんです。PCゲームの市場が落ちていく中にあって、その培ってきた運用ノウハウを再活用できればと思い、新たにスマートフォン向けのパブリッシングを手掛けることにした訳です。

――今後、どのような他社タイトルの配信を考えているのでしょう?

森下氏: ゲームは自分たちが作っているものが全てだとは思っていませんし、私も直接関与してはいないので、開発者ではなく運営者の立場から、タイトルを探して運営していくことになると思います。それゆえ弊社で開発しないようなゲームの配信も手掛けていくことになるかもしれません。

2017年は新たな仕込みの年に

――では2017年は、御社にとってどのような年にしたいと考えていますか?

森下氏: 昨年多くのタイトルを世に出したので、今年は再び仕込みに入る年になるかと思います。VR(仮想現実)の取り組みは正直なところ研究や技術検証に近いものがあって、すぐに商売になるとは思っていないのですが、それを手掛けておくことでいつでも自分たちでVRへの展開ができるようにしておくというのが、大きなテーマになってくると思います。

 そしてもう1つ、昨年配信したタイトルをどう育てていくかも2017年のポイントですね。『LET IT DIE』はコンシューマーゲーム機向けのタイトルで、パッケージ販売だけではなくスマートフォンのようなF2P方式()を採用するという思い切ったチャレンジをしましたが、いい風が吹き始めてなかなか面白いことになってきたなと感じています。1日のうち、どうしても『パズドラ』にかける時間が多くなってしまうのですが、新しい仕込みをしながらも、ほかのタイトルをいかに育てていくかを考えていきたいですね。

(※)F2Pはフリートゥプレー(基本プレー無料)の略。『LET IT DIE』は海外はF2P方式で提供するが、日本版の通常版が108円、パッケージ版が6900円(税別)の有料となっている。

 一方で『パズドラ』も、5周年を迎えたとはいえ、「マリオ」などと比べたらまだひよっこです。『パズドラ』も人格が形成され、成長していくフェーズに入ったと思うので、新たな取り組みでより成長させていきたいですね。

――仕込みの年とのことですが、新作に関してはどのような考え方をもって取り組んでいるのでしょうか。

森下氏: 具体的には教えられませんが、チャレンジすることがすごく大きなポイントだと思っています。スマートフォンでゲームを遊ぶ人が減り、市場が飽和する中で1つの分岐点を迎えていると思いますし、今年はニンテンドースイッチも発売される。遊び方が少しずつ変化しているのではないかと感じています。

 そうした中にあって、弊社が『LET IT DIE』でプレイステーション 4向けに、グローバルに、しかもF2Pでゲームを提供するのはリスクがありましたし、なぜパッケージ販売ではないのかともよく言われました。でもコンシューマーゲーム機でのF2Pに対しては、昔と比べると評価が変わってきていると思いますし、そういうところでチャレンジをしなければ、自分たちがゲームを作る必要性もないのではないでしょうか。世の中が変わろうとするなかで、自分たちがやることに意味があるならチャレンジしていくべきだし、チャレンジしていけると思っています。

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