西伊豆の南端、松崎町を散策すると、今では全国的に珍しくなった「なまこ壁造り」の建物が多く残っていることに気づく。

 なまこ壁は、壁面に平瓦を貼り、目地と呼ばれる継ぎ目に漆喰(しっくい)をかまぼこ形に盛り上げて塗る外壁の様式で、明治から昭和初期まで各地で見られた。冬場、強風に見舞われる松崎町でも、この外壁によって風雨や火災をしのぐために多用されてきたという。文化財として保存されている建物もあるものの、補修に高額を要することから民家は少しずつ姿を消していた。そこで2004年に技術の継承のために立ち上がったのが、左官職人など町の有志で作った松崎蔵つくり隊だ。10年には、70年ぶりに古来の工法によるなまこ壁の土蔵を完成させた。

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なまこ壁造りの伝統技を継承
なまこ壁造りの技を継承するために、左官職人や町の職員のほか、住民が一体となって外壁の修復に当たる「松崎蔵つくり隊」を発足。2010年には、70年ぶりになまこ壁をあしらった新築の土蔵(松崎夢の蔵)が完成し、左官の町・松崎町としてPR活動を熱心に行っている。

明治商家中瀬邸
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明治20年に呉服商家として建てられた民家。大地主だっただけに、贅を尽くしたなまこ壁が見られる。
【Data】静岡県賀茂郡松崎町松崎315-1 TEL:0558・43・0587 営業時間:9~17時 料金:100円 定休日:無休

松崎夢の蔵
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松崎町の有志「松崎蔵つくり隊」のメンバーが集って建てたなまこ壁の蔵。古来の工法で建てられている。
【Data】静岡県賀茂郡松崎町松崎23 TEL:0558・42・2540(伊豆の長八美術館)

 「松崎町は、漆喰に鏝(こて)で絵を描く鏝絵を、芸術にまで高めた伊豆の長八の故郷。漆喰やなまこ壁の技は、この町の守るべき伝統です。ジオパークとしては無論、左官の技、なまこ壁の建物が残る町としても、観光客に喜んでいただける町づくりに努めたい」と関さん。

 今あるものを大切に守り継いでいく。これは、ジオパークの考え方とも合致する。町の人々の観光振興への真摯な取り組みも、伊豆半島の強みなのだと感じた。

重要文化財岩科学校
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なまこ壁を配した伝統的な建築手法と、西洋建築様式とが融合した建物。伊豆地区最古の学校建築でもある。
【Data】静岡県賀茂郡松崎町岩科北側442 TEL:0558・42・2675 営業時間:9~17時 料金:300円 定休日:無休

伊豆の長八美術館
【Data】静岡県賀茂郡松崎町松崎23 TEL:0558・42・2540 開館時間:9~17時 料金:500円 定休日:無休

高度な左官技術と繊細な画風の漆喰鏝絵が鑑賞できる
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松崎出身の名工で、伊豆の長八と呼ばれた入江長八の作品を展示する美術館
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文/宇治有美子、写真/佐藤正純