この記事は雑誌『日経おとなのOFF』2013年3月号に掲載した記事に一部手を加えたものです。内容は基本的に雑誌掲載当時のものです。

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沢田公園
直線や斜線などが入り乱れた複雑な地層は、海底火山がつくり出した模様だ。まるで芸術作品のような造形美に目を奪われる。
【Data】静岡県賀茂郡西伊豆町仁科2811

 「伊豆半島全体がひとつの大きな公園である」。

 かつて川端康成が著作『伊豆序説』の冒頭で記した一文である。その記述から80余年の歳月を経た2012年秋、この言葉を証明するかのように、伊豆半島全体が日本ジオパークに認定された。

 ジオパークとは「大地の公園」と訳され、地球活動の遺産を主な見どころとするエリアのこと。伊豆半島を含めて、日本では25の地域が認定されている。本州で唯一フィリピン海プレートに乗っている伊豆半島も、その特異な成り立ちと地形が評価されて、認定に至ったのだ。

 伊豆半島では、ジオサイトと呼ばれる見どころをガイドが案内してくれる。ガイドの仲田慶枝さんの案内で初めに訪れたのは、沢田公園。西伊豆町を代表するジオサイトの一つだ。海底に降り積もった火山灰の上に溶岩が流れ、その上に火山灰が積もり、さらに土石流が押し寄せて……。こうして描かれた地層の縞(しま)模様が、あたかも人の手による芸術作品のような景観をつくり上げている。

 「誰かが作ったように見える縞模様は、火山の噴火によるもの。この美しい地層から、太古の海底火山の噴火の様子を思い描くこともできるのです」と仲田さんは話す。

 というのも、約2000万年前に現在の硫黄島辺りの緯度にある海底火山が、プレートの運動に伴って北上し、数多(あまた)の噴火を続けながら大地を形成。そして日本の本州との衝突によって隆起し、地上に盛り上がる形で伊豆半島は形成された。沢田公園のように、本来は海底にあるはずの海底火山の地形を陸上で観察できるのはそのためだという。

 「そんな極めて珍しい半島の成り立ちと、類いまれなる景観は、世界ブランドになり得るはず。そう考えて、“南から来た火山の贈りもの”をテーマに、伊豆の7市6町を中心に伊豆半島ジオパーク推進協議会を発足させて、認定に向けた活動を続けてきました」と同推進協議会事務局の高橋誠さん。

 当初は、ジオパーク自体の知名度が低く、住民にもほとんどなじみがなかったが、地道に講演会や説明会を行ってきた。「昨年の秋に日本ジオパークに認定されたことで、ジオパークとは地元にもともとある“あるもの探し”で、価値を見つめ直したものを観光資源として生かそうとする機運が高まってきました」(高橋さん)。

 半島全体が学びや感動を与える1つの大きな公園として、伊豆半島は今、新たな時を刻み始めているのだ。

堂ヶ島の海岸
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日本の夕陽百選に選ばれている西伊豆町屈指の夕景スポット。小さな島々と海、空が描き出す風景が美しい。
【Data】静岡県賀茂郡西伊豆町仁科堂ヶ島

浮島(ふとう)海岸
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海岸に立つ奇岩は、海底火山の地下から上昇したマグマが冷却されたもので、「火山の根っこ」と呼ばれている。
【Data】静岡県賀茂郡西伊豆町仁科浮島

堂ヶ島
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海底火山の噴火に伴う、白い火山灰層が美しく折り重なる特徴的な景観。海岸沿いに遊歩道がある。
【Data】静岡県賀茂郡西伊豆町仁科堂ヶ島