伊豆半島のなかでも、今回訪れた西伊豆地域は、特に海底火山の痕跡が多く見られるエリア。青い海と白い崖とのコントラストが美しい堂ヶ島は、その代表的なスポットだ。海底火山が噴火し、水中に噴き出された白い火山灰や軽石が海底にゆっくりと降り積もり、波や海流の作用によって縞模様が刻まれた。海岸沿いに設けられている遊歩道を歩くと、白銀の軽石と火山灰が織り成す地層美を間近で観察できる。

 続いて堂ヶ島の近くの浮島(ふとう)海岸へ。この海岸も海底火山の貴重な遺産だ。海から突き出るようにして切り立った岩が立つ。そのごつごつとした岩は、海底火山の直下で冷え固まったマグマが後の浸食によって洗い出され、地上に姿を現したもので、“火山の根っこ”と呼ばれる。太古の自然現象の証しを大地が饒舌(じょうぜつ)に語りかける。ダイナミックな光景から目が離せなくなる。

伊豆半島ジオパーク認定 ジオガイドの仲田慶枝さん。西伊豆町在住のジオガイド。「地層が語りかける海底火山噴火の現象や、伊豆半島の成り立ちについてお伝えしています」
2012年秋、日本ジオパークに認定
ジオパーク認定を目指し、2011年に伊豆半島ジオパーク推進協議会を発足。その成り立ちや、住民の理解などが評価されて、2012年秋に認定された。ジオガイドについての問い合わせ、申し込みは伊豆半島ジオガイド協会事務局(TEL:090・2777・9345〈田畑〉)まで。

 伊豆半島の魅力はこうした景観ばかりではない。半島を巡ると、ジオパークという言葉など知るすべもなかった数百年前から、ここで暮らす人々は伊豆半島の特殊な地形を受け入れ、生活の糧としてきたことが分かる。

 その一例が松崎町にある室岩洞。岩盤をくりぬいたようなこの洞窟は、江戸時代に海運を利用して江戸の町へ運ばれ、幕府に重用された伊豆石の採石場跡だ。海底に降り積もった火山灰や軽石の地層を切り出した伊豆石は、幕末、品川の台場建造の際にも使用されたという。「伊豆半島で観光客に開放されている石丁場は、室岩洞だけ。伊豆石の採掘の様子を今に伝える貴重な遺構です」と話すのは、松崎町振興公社職員でジオガイドでもある関寿男さんだ。

カネイチわさび園
創業400余年のわさび専業農家。最高級品種の真妻のみを栽培し、生わさびやわさび漬けも販売。
【Data】静岡県伊豆市筏場512 TEL:0558・83・0074 営業時間:9~17時 定休日:月曜
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一面にわさびが植えられたわさび沢。収穫まで約1年半の歳月をかけ、天城の清流と澄んだ空気のなかで栽培される
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種類豊富な自家製わさび漬けを試食できるスペースも用意されている
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わさび漬けは全6種1050円~。生わさび(時価)の購入は事前に予約が必要
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 特有の地質はまた、住民に清らかな湧き水という恵みをもたらしている。中伊豆まで足を延ばせば、豊富な湧き水を利用し、江戸時代から脈々と伝わる農業の姿が見られる。80万年前から20万年前にかけて繰り返された噴火によってできた伊豆半島最高峰の火山、天城山。この山を形作る溶岩や火山灰、軽石の隙間には多くの地下水が蓄えられ、豊富な湧き水となって噴き出す。中伊豆では、清冽(せいれつ)で冷たい水を利用したわさび作りが今も盛んに行われている。水がよく浸透するように段々の棚田を設けるのが、この地方特有の栽培方法だ。

文/宇治有美子、写真/佐藤正純