この記事は雑誌『日経おとなのOFF』2012年12月号に掲載した記事に一部手を加えたものです。内容は基本的に雑誌掲載当時のものです。

 大正10(1921)年、日本郵船の欧州航路を筆頭に上海、大連航路も開設されると、大陸への玄関口として、門司港は最も華やかな時代を迎えることになる。最盛期には、1カ月に約200隻の外航客船が入港し、年間600万人近い客が利用した。

国際貿易港としての面影を残す門司港
明治、大正の時代から大陸との玄関口となった門司港一帯には、大正中期にアインシュタイン夫妻が宿泊した部屋が残る旧門司三井倶楽部など、門司港繁栄の面影を残すレトロな建造物が立ち並ぶ。2012年に公開された映画『あなたへ』(高倉健主演)のロケ地でもある。
旧大阪商船は、建設当時は関門一の高さ。夜間は灯台の役割を果たした
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内部は応接室などを復元
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「東洋一」の吊り橋だった関門橋は全長1068m。日に4回も東に西に潮流が変わる、関門海峡の狭隘部は約700m
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旧大阪商船
八角形の塔が印象的な2階建て。現役時代は大陸航路の旅客待合室としてにぎわい、「港の美貌」と呼ばれた。オレンジ色のタイルと白い帯とが優美なコントラスト。イオニア式柱頭装飾など、細部まで凝っている。
【Data】北九州市門司区港町7-18 TEL:093・321・4151 開館時間:9~17時 定休日:無休 料金:無料(わたせせいぞうギャラリーのみ有料、100円)

 商社による接待文化も盛んになり、花街には料亭が数十軒、芸妓衆が200人、置屋が20軒以上あった。実家が料亭を経営していた有光武元さんは、そのうち最大規模を誇った料亭「三宜楼(さんきろう)」の最後の華やぎを見て育った世代だ。

「港近くの清滝界隈を歩くと、三味線の音と小唄が聞こえてくる。夕方になると着飾った芸妓さんが人力車でお座敷へ向かう。その姿がなんともあでやかでね。子ども心に、艶っぽいおとなの世界を垣間見た気持ちになったものです」。

 その面影は、かつて芸妓の取り次ぎを行った検番の建物に残っている。厳しい修練を重ねた稽古場や黒光りする磨き込まれた階段が、芸に精進した粋筋の人々の残り香を伝えていた。今は公民館となっているその検番に近い清滝界隈には、軒先に木型がぶら下がった古い靴店があった。木型を削る靴職人が手仕事を続けていたのだろう。

旧門司三井倶楽部
大正中期に三井物産門司支店の迎賓館・社交クラブとして建設。木造スレート葺きの建物は、梁や柱などの骨組みを見せる建築様式。
【Data】北九州市門司区港町7-1 TEL:093・321・4151 開館時間:9~17時 定休日:無休 料金:無料(2階のみ有料、100円)
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旧門司税関
明治末期に建てられたレンガ造り瓦葦きの建物。昭和初期まで税関として使用された。新税関ができてからは倉庫として使われていた。
【Data】北九州市門司区東港町1-24 TEL:093・321・6111 開館時間:9~17時 定休日:無休 料金:無料
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